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噺の話

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2019年 09月 01日 ( 1 )


 最終回を控え、今回は、原作には登場しない雪江が重要な役回りを演じた回となった。

 個人的には、叔父夫婦が市之進に薦めた再婚相手の雪江は、蛇足だとは思っている。

 雪江役の女優が苦手なこともある、かな。

 とはいえ、奈々の引き立て役にしようとした脚本家の意図は、わからないではない。

 雪江に奈々から引き裂かれようとする際の子供たち、なかでも、とよの奈々を慕う思いには、つい目頭が熱くなった。

 奈々のあの涙にも・・・・・・。

 原作から、ドラマとは違う味わいを少しご紹介。

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葉室麟著『蛍草』
 原作『蛍草』は、双葉社から2012年に単行本が発行され、2015年に文庫化された。

 轟平九郎が、奈々の住まいを急襲し、悪事の証拠品を奪って去った後のこと。

 なかなか微笑ましい場面がある。

 五兵衛と節斎やお舟は狭い板敷に車座になり、権蔵と仙之助の手当てがすむのを待っていた。油薬を塗り、晒を巻いてやった奈々は、五兵衛たちを振り向き、礼を言った。
「おかげで助かりました。本当にありがとうございます。だんご兵衛さんに死神先生、そしてお骨さんと駱駝の親分ー」
 目に涙をためた奈々は、五兵衛たちの名を呼び違えていることには今も気づかず、床にこすりつけるように頭を下げた。
 五兵衛たちはそんな奈々の姿を見ながら、困ったような表情をして、おたがいに顔を見合わせた。
 それぞれ自分だけが妙な呼ばれ方をしたのではないことにほっとした思いもあったが、おかしな名で呼ばれてそのままにしておくのも決まりが悪かった。五兵衛が咳払いして、膝を乗り出した。
「いかがであろう、いましがたの呼び名については、聞かなかったということにしてもよいのではなかろうか」
 権蔵が痛みをこらえて大きくうなずき、
「それがようございます。わしは湧田の権蔵と申します」
 と言うと、続いて節斎が口を開いた。
「まことによき提案じゃな。わしは椎上節斎と申す儒者じゃ」
 お舟も勇んで言った。
「わたしゃ、なんて呼ばれたかなんて覚えちゃいませんよ。この家の大家で質屋をやっております升屋の舟と申します」
 五兵衛は満面に笑みを浮かべて、ようやく奈々の言い間違いを正せると意気込んで、
「それがしは藩の剣術指南役、壇浦五兵衛である」
 とひと際、声を張り上げて告げた。だが、奈々はそれぞれが正しい名を口にしたのだとわかったのかそうでないのか、はなはだ心もとない様子で、
「あろがとうございました」
 と何度も頭を下げる。五兵衛は真面目な顔をして訊いた。
「礼はもうよい。それよりも、奴は目当てを果たしたと言い残したが、あれはどういうことだ」

 この作品、葉室麟としては珍しいユーモアがところどころに散りばめられている。なかでも、あだ名による微笑ましさは、他の作品にはない味わい。

 さて、ついに次回は最終回。

 奈々と轟平九郎との、運命の対決!
NHKサイトの該当ページ
by kogotokoubei | 2019-09-01 19:36 | ドラマや時代劇 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛