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噺の話

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2018年 11月 17日 ( 1 )

 ここ最近は、以前読んだ本をあらためて読むシリーズ(?)が続いている。

 忘れていることが、どれほど多いことか。

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平岩弓枝著『橋の上の霜』

 いつかこの本のことを書こうと思っていたので、そのためにも再読したのが、平岩弓枝の『橋の上の霜』。初版が昭和59年なので、昭和7年生まれの著者は、五十歳代の作品。

 平岩弓枝は、昭和34(1959)年、二十代にして『鏨師』で直木賞を受賞。
 ベストセラーとなった『御宿かわせみ』は、昭和49(1974)年に発表なので、その十年後の作品ということ。
 テレビドラマ『ありがとう』や『肝っ玉かあさん』、『女と味噌汁』シリーズを書きながらの多忙な時期の作品だ。それほど、書きたかったのが、この大田直次郎、別の名を狂歌師の四方赤良、その後の蜀山人の小説だったのだろう。

 川柳や狂歌は、落語のマクラにもよく登場する。

 狂歌といえば、蜀山人。本名、大田直次郎。号は南畝。
 
 大田直次郎は、田沼時代にどっぷりと漬かった人生を送った人だ。その恩恵もあったし、その反動も受けている人だ。

 決して、平穏な人生とは言えなかったことを、この本で知った。

 まず、どんな家柄だったのか。

 御目見以下の小身だが、御徒頭内藤惣右衛門の組下で七十俵五人扶持を頂く役人のはしくれである。

 物語は直次郎が三十八歳の時から始まる。
 すでに、直次郎は別の名を持っていた。

 七十俵五人扶持の生活は貧しかったが、ここ数年、大田家には余分の収入があった。
 直次郎が余技として書いた狂詩や黄表紙、洒落本が当って、かなりのみいりがあったところへ、狂歌が流行して、狂歌師、四方赤良としての彼の盛名が大いに上った。
 御家人としての大田直次郎を知らない者も、人気作家で狂歌の三大人の一人、四方赤良の名は女子供にも鳴りひびいている。

 狂歌師としての収入が増えたこと、そして、仲間の狂歌師や弟子である吉原の茶屋の主人たちとの交友も増えたことで、直次郎の生活が大きく変わった。
 吉原の松葉家の新造、三穂崎、本名おしづに通い続けて朝帰りが多くなった。
 当然、女房里世には狂歌仲間との寄り合いである、などど嘘をついているが、里世はうすうす気づいており、機嫌が悪く、つい二人の子供にあたったりしている。
 庭いじりをしていた父、吉佐衛門が庭に来た直次郎に、語りかける。

「近頃、だいぶ、夜が遅いな」
 直次郎は苦笑した。
 老人は早寝だが、目ざとくて、夜明け近くに帰ってくる息子の気配を知っている。
「相変らず、狂歌は盛んなようだが・・・・・・」
「狂歌会が多くて駒って居ります。手前は、狂歌と申すものは、いわば、その時、その場の思いつきで、わざわざ、一つ所に集って、ものものしゅう作るものではないと心得て居りますが、世間はそうも行かぬようで・・・・・・」
「つきあいはよい、遊びもよかろうが、あまり度を越すな」
 父親は男盛りの息子を眺めた。
 母親似で、なかなかの男ぶりでもある。背は親よりも高く、幼少から詩文に才能をみせただけあって、風格がある。物腰は柔かく、少々、きざなところも、今は魅力であった。
「先だって、山崎どのに出会うたが、其方は女子(おなご)にもてると申されて居ったぞ」
 直次郎は赤くなった。
「郷助の奴、ろくなことをお耳に入れませんな」
 同じ牛込に住む直次郎の友人であった。御先手与力で山崎郷助という侍だが、彼も亦、朱楽菅江(あけらかんこう)という狂歌名のほうが、世間の通りがいい。
「手前が新吉原へ参るのは、あそこの妓楼の主人たちが狂歌を好み、吉原連と申す仲間を作って居ります。それで、手前も招かれて参りますが、ただ、それだけのつきあいで・・・・・・」
 吉原の大文字屋の主人、村田市兵衛が加保茶元就(かぼちゃのもとなり)の狂歌名を持ち、同じく、扇屋、五明楼の主人、鈴木宇右衛門が棟上高見(むねあげのたかみ)と称し、いずれも、直次郎の門弟を気どっている。
「それはそれでよい」
 老父は照れくそうであった。四十に近い息子に今更、遊びの意見をする心算(つもり)はなさそうである。
「男が外でなにをするもよかろう。が、嫁女は家に居って、さぞ、気が揉めよう。外に気をとられて、内の花を忘れるな。庭の花とて水をやらねば枯れようが・・・・・・時には水をやれ。さすれば、孫を泣かすこともあるまいが」
 息子の顔をみずに、裏口へ去った。
 親父殿も鹿爪らしい顔をして粋なことを仰有(おっしゃ)ると、直次郎は可笑しくなった。

 狂歌仲間や弟子たちの名も登場した。

 この日、直次郎は、狂歌会に出向いた後、皆が村田市兵衛の大文字屋での宴会に行く中、一人松葉屋で待つ三穂崎に会いに行くのだった。

 帰りがけ、直次郎はある高齢な男とすれ違う。
 直次郎は、胸騒ぎがした。
 その男とは・・・・・・。それは次回のお楽しみ。

 さて、大田直次郎、別の名は四方赤良、どんな人生を送ることになるのか。

 初回は、これにてお開き。


by kogotokoubei | 2018-11-17 14:36 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


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