噺の話

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2018年 10月 02日 ( 1 )

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是枝裕和著『万引き家族』

 二回目。
 まだ、上映中の映画館があるので、内容を知らずに観たい方は、ネタバレ注意なので、ご留意のほどを。

 映画について書いた記事でも書いたが、柴田一家の役名と俳優を、もう一度確認。
2018年6月25日のブログ

 
   役名  :  俳優
  柴田初枝 : 樹木希林
  柴田 治 : リリー・フランキー
  柴田信代 : 安藤サクラ
  柴田亜紀 : 松岡茉優
  柴田祥太 : 城桧吏
  凛*じゅり: 佐々木みゆ

 今回は、初枝、そして亜紀について、映画では語られていなかった謎の解明を含めて紹介したい。

 信代の妹、という設定の亜紀は、祖母初枝が好きで、寝るときも初枝の布団で一緒に寝るほどだ。
 偶数月の15日、初枝と亜紀は銀行で年金を引き出してから、水神様の参道にある甘味所に入る。そこでの、二人の会話。

 かんてんをひとつ口に入れて、亜紀は仕事の説明を始めた。
「ちょっと脇チチが見えるニットのワンピースを着て、こうすんの」
 亜紀は自分の胸を左右から寄せて揺すってみせた。
「脇チチねぇ・・・・・・。そういうのが流行なんだ・・・・・・」
 初枝は顔をしかめるでもなく、興味津々で亜紀を見ていた。
「そ。3000円をお店と女の子で半々」
「いいわねぇ、そんなんでお金もらえて」
 初枝はおしるこの中に入っていたもつを箸でつまみ、音を立てて歯ぐきでしゃぶり始めた。他人が見たら相当不気味だったろうが、亜紀には気にならなかった。
「おばあちゃんだってもらってんじゃん・・・・・」
 初枝がもらっている年金は、亡くなった夫の遺族年金だった。男からもらっているという意味では大差ないと、亜紀は考えていた。
「私のは慰謝料みたいなもんだからさ」
「慰謝料?年金が?」
 亜紀はそう確認した。一瞬考えを巡らしていた初枝は「そう・・・・・・年金年金」と、亜紀の言葉を繰り返すと、しゃぶっていたもちを、「あげる」と言って亜紀のあんみつの上に乗せた。さすがにこのもちを食べる気にはならなかったが、ことさらそのことに嫌悪を示すこともなかった。
「そうだよねぇ・・・・・」
 同情するように亜紀は言った。初枝の夫は、結婚してまもなく外に女を作り、初枝と息子を残して家を出てしまったのだ。初枝は、何とか女手ひとつで息子を育てたが、苦労したことは間違いないし、何より捨てられたことに対する恨みつらみは相当なものだったろう。

 初枝の夫のことは、映画を観ても分かるのだが、この小説では明確に上のように書かれている。

 紹介した亜紀とのやりとりで、年金のことを勘違いしていた初枝は、いったい何を思っていたのか。

 これは、映画でも描かれていたが、初枝は、女を作り自分と息子を捨てた元夫の月命日に、夫とその女の息子の家を訪れる。
 行く前に電話をして、電車を乗り継ぎ、横浜郊外のその家に行くと、仏前に手を合わせ、その後、元夫の息子の嫁は紅茶とケーキを初枝に出すのがお決まりだ。
 そして、帰り際に三万円入りの封筒を受け取り、帰るのだった。

 その訪問の様子を記した後、次のような文が続く。
 
 ここへ彼女がやってくるのは、最初は単純な嫌がらせのためだった。
 前夫の葬式の時に寺で会い、それからたびたび訪れては、こうして金をもらって帰った。
 この金を初枝は慰謝料だと思っていた。
 そこで出会った娘の亜紀とたまたま帰りのバス停で一緒になり、声を掛けた。亜紀は自分でもよくわからない不満をこの家族に対して抱えていた。一緒に暮らさないか、と初枝が亜紀を誘った。亜紀は思いのほかあっさりとその提案を受け入れ、翌月にはもうあの荒川の家の住人になっていた。

 このような、亜紀が擬似家族の一員になった背景は、映画では語られていない。

 亜紀の風俗店の源氏名は、妹の名前である、さやか。

 なぜ亜紀が店で妹の名を名乗っているのか、初枝には何となくわかった。
 復讐なのだ。
 あとから生まれ、自分から両親の愛を奪った妹に対する亜紀なりの仕返しだ。別にさやかや両親に何か特別な落度や、亜紀に対する酷い仕打ちがあったわけではないだろう。だから、もし、そのことを知っても彼らにはまったく理由がわからないはずだ。亜紀のそのゆがんだ愛は、初枝がこの家に何度もやってくる感情と通じるところがあった。
(あの子の言う通り、私と亜紀は血はつながっていないのに、似ている)
 初枝はそう思っていた。そう思って余計に可愛がっていたのだ。

 初枝を捨てた前夫の孫にあたる亜紀。
 亜紀の祖母が、初枝から前夫を奪った女だ。
 
 亜紀から見ると、こういう関係。
 
  祖母ーーー祖父------x------初枝
      |
      |
      |
母ーーーー父
    |
   |
ーーーーーー
|       |
亜紀   さやか(妹)  

 亜紀にとっては、祖父、祖母、両親、そして、妹という家族、家系の全体が、嫌だったのかもしれない。

 そう考えると、初枝と亜紀には、敵の敵は味方、というような感情もあったのだろう。
 血はつながっていなくても、ある血への敵対心でつながっていた、とでも言おうか。

 ちなみに、映画における亜紀の本当の父である柴田譲は、緒形直人が演じ、母親の柴田葉子は、森口瑤子だった。

 あの映画、脇役も結構、贅沢なのである。


 さて、亜紀の両親の名で分かるように、初枝は、前夫の柴田姓を捨てなかった。
 
 そして、擬似家族での息子の治とその妻の信代という名は、実の息子とその嫁の名なのである。

 その初枝の息子は映画には登場しない。

 次回は、そのあたりも小説で補おうと思う。

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by kogotokoubei | 2018-10-02 21:18 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛