噺の話

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2018年 06月 25日 ( 1 )

 昨日は、午前中の雨で日曜恒例のテニスは休みとなった。

 寄席に行こうかとも思ったが、久し振りに日本映画を観に行った。
 カンヌ国際映画祭で、最高賞のパルム・ドールを受賞した、「万引き家族」だ。
「万引き家族」公式サイト

 劇場で映画を観るのは、昨年八月の「約束の地-メンフィス-テイク-ミー-トゥー-ザ-リバー」以来。
2017年8月24日のブログ

 日本映画となると、2012年の「聯合艦隊司令長官 山本五十六」以来になる。
2012年2月5日のブログ

 次の柴田家全体が、この映画の主役と言ってよいだろう。

   役名  :  俳優
  柴田初枝 : 樹木希林
  柴田 治 : リリー・フランキー
  柴田信代 : 安藤サクラ
  柴田亜紀 : 松岡茉優
  柴田祥太 : 城桧吏
  凛*じゅり: 佐々木みゆ

 多くの感想や評論がネットにも溢れているだろうから、似たようなことは書きたくないのだが、やはり、安藤サクラという女優の凄さを再認識させる。

 以前、CSの「百円の恋」で初めてこの女優さんを観て、「日本にもこんな凄い人がいるんだ!?」と驚いた。

 まさに“体当たり”の演技という印象で、この人の演技からは、汗の臭いが伝わってくる。

 是枝監督は、親の死を隠しての年金詐欺が着想のヒントであったと語っているが、他の様々な現在の日本の社会病理がこの映画の背景にある。

 なかでも、つい最近の目黒虐待死事件の記憶が、六人目の家族となった少女(凛)とダブった人は少なくないだろう。

 最後まで、少女の声にならない悲鳴が、この映画からは聞こえるのだ。

 柴田家という「疑似」家族を中心にしているが、その相関関係は、映像で伝わる凛の他は、あまり詳しい説明が挟まれない。

 是枝監督の小説では明らかにされているこの家族の相関関係については、あえて、最小限のヒントが明かされるだけ。

 観る者の想像力を刺激する映画とも言えるだろう。

 それにしても、信代役の安藤サクラの取り調べ室での演技は、泣かせる。

 家族って何だ、親子って・・・・・・。 

 犯罪者を断罪することは、そう難しいことではない。
 だが、この映画は、その犯罪は日常と紙一重であることを気づかせてくれる。

 より大きな問題は、その犯罪を招いた真因は何か、ということ。

 普通の人が、なぜ犯罪者になるのか。
 彼、彼女を社会から疎外させてしまったことこそ、断罪されるべきではないか、という是枝監督の訴えが、観終わってからジワジワと心の中で広がってくる。

 ここから先は、ネタバレ注意
 知らずに観たい人は、ご覧になってから読んでください。

 この映画は、まさに、「今」を映し出している。

 私は、亜紀が働く風俗店の彼女の客、あの四番さんが、新幹線殺傷事件の犯人になることも、ありえると思う。

 あの事件の犯人が、親ではなく、祖母と暮してたということを、初枝と亜紀との関係から思い出していた。

 是枝監督は、特異な家族の姿を描いたのではない。
 あの家族を中心に、まさに現在の日本社会の日常を描いたのである。
 それが、特異であったり、異常であるとするなら、日常が異常と紙一重であるということだ。

 この映画は、普通の人が犯罪者になる、その紙一重の隙間にいったい何があるのか、それを考えさせる。

 翔太は、その紙一重のところで普通の世界に留まることができたことが、大きな救いだ。

 また、見かけは「普通」なのに、その実態は「異常」であることや、その逆もあるということを、この映画は突きつける。

 たとえば、凛を虐待している両親は普通を装う仮面をかぶった異常な夫婦だが、彼らは結果としてこの映画の中では、犯罪者ではなく被害者として扱われる。

 柴田家の一人一人は、いわゆる、社会的な弱者と言える。
 
 だから、この映画の底流には、社会的弱者をつくるのは誰か、という問題提起が流れている。
 
 そんなことを思っていたら、是枝監督のインタビュー記事が目に入った。
 朝日のサイトから引用する。
朝日新聞の該当記事

 ■「祝意」辞退で話題

 パルムドールを受賞して以降、SNS上で「文化庁の補助金を受け取っていながら、日本の恥部を描く反日映画を作った」と攻撃されたり、政府の「祝意」を受けることを是枝監督が「公権力とは距離を保つ」と断ったりした。そんなニュースをマスメディアが拡散することで、映画の知名度が大きく広がった。

 「炎上商法じゃないよ(笑)。僕がトロフィーを持って文部科学省に出向き、大臣と写真を撮ったりして“大人”の対応をしたとすると、それは日ごろ僕が言っていることとは真逆の行為だから」

 「芸術への助成を“国の施し”と考える風潮は映画に限ったことじゃない。大学の科研費もそうだし、生活保護世帯への攻撃も同じです。本来、国民の権利のはずですよね。今回、政府の補助金がどうあるべきかが可視化されたことが一つの成果だと思っています」

 東京・下町の片隅でひっそりと、しかし楽しく生きる家族の物語。父親と男の子がペアで万引きしたり、祖母の年金を不正受給したりして生活費の足しにしている。そのため、「犯罪者を擁護している」などと批判を浴びた。しかし、映画は、罪の意識が芽生えた時の男の子の哀(かな)しみをきちんと繊細に追っている。

 「そこが、この映画の軸なんだけどね。でも、それは見れば分かるから、話題になっているのはむしろいいことじゃないか。批判も含め、普段映画を見ない人たちの口の端に上っているということですからね」


 ■政府批判は真っ当

 「公権力とは潔く距離を保つ」との発言には、反発と同時に称賛も多く寄せられている。こうした話題を集めるのは、映画というものが大衆性を持っており、社会に大きな影響を与えうる芸術だからである。

 「補助金をもらって政府を批判するのは真っ当な態度なんだ、という欧州的な価値観を日本にも定着させたい。いま、僕みたいなことをしたら、たたかれることは分かっています。でも、振る舞いとして続けていかないと。公金を入れると公権力に従わねばならない、ということになったら、文化は死にますよ」

 政府の「祝意」を断ったことは、実に爽快。

 犯罪者を擁護している、などと批判する人は、この映画を観ているのか疑問。
 観ていてそんな馬鹿なことを言っているなら、そんな目には銀紙でも貼っておけばいい。

 落語協会も落語芸術協会も、補助金をもらっている。
 では、落語家は政府の批判はできないのか・・・とんでもない。

 話を、戻す。

 この映画は、いいです。

 全体としても優れているし、樹木希林、そして、安藤サクラの演技を観るだけでも、価値があると思う。
 
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by kogotokoubei | 2018-06-25 12:27 | 映画など | Comments(10)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛