噺の話

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2018年 03月 04日 ( 1 )

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坊野寿山著『粗忽長屋』
 この本から、三回目。

 この本には、その後、名人と謳われた数多くの落語家の遊びのこと、そして、女性遍歴のことが、結構書かれている。
 その中には、貴重な内容も含まれている。
 私が印象に残ったのは、仲が悪いことで有名(?)な、あの二人の間でのこと。
 正蔵と円生の鞘当て

 風邪をひいた正蔵(林家彦六)が二日ほど寝込んでしまった。そこで女の家へ顔を出せずにいたが、具合がよくなったところで、女のご機嫌うかがいに出かけて行った。
 女の家の玄関を開けて正蔵は驚いた。何と円生の下駄が脱いである。それを見ると正蔵は黙って帰ってしまった。
 その日を境に、その女のご機嫌をうかがうのは円生となったのである。

 よほど、いい女だったのかなぁ。
 とにかく、風邪で隙を見せてしまった正蔵は、円生に女をとられてしまった。
 しかし、芸人同士、表立って野暮な喧嘩をするようなことはない。
 正蔵も円生も、面と向かうと互いに知らんぷりしていたが、それでも正蔵は癪にさわったのであろう。随分長い間、円生の悪口を云っていたものだった。
「円生は嫌な野郎ですよ、仁義を知りません。二日風邪をひいたら、あたしの女をとっちゃいましてね」
 当時、正蔵には女が沢山いて、不自由しない時だったし、正蔵にしても惚れた張れたでくっついた訳ではない。切符の一枚でも買ってくれるお客様といったものだった。それでも、円生にとられた事が正蔵には口惜しかったのかも知れない。
 円生がくっついた時は、女の方が惚れてしまい、円生が各寄席に出かけるのに、女が車で送り迎えしてやるほどだった。
 正蔵、円生、女の三人ともに亡くなり、今頃、あの世でまたも鞘当てしてるのか、それとも三人で上手くやってるのだろうか。

 あの二人の不仲の原因は、いろいろあるのだろう。
 その中でもこの一件は、結構大きいウェイトを占めているのではなかろうか。
 もしそうだとすると、ご本人たちが著書で残すような話でもなく、この本は実に貴重だと思うのである。

 この逸話では、円生の方が印象を悪くしていると思うが、正蔵が悪く言われている話もある。

 とんがりの彦六

 林家彦六が馬楽といった頃である。
 若い女に馬鹿に熱くなっていた事があった。浅草公園裏にいた芸者だった。彦六はあまり人に話さないので、私は知らなかった。ところが、ある時、四代目小さんの話でしれと知られるようになった。
「とんがり(彦六の仇名)の奴は馬鹿にしてやがるんですよ。雨が降ってもあたしには傘一本貸してくれたことがないのに、女が仁王門のとこで待ってるから傘持って来てくれってえと、持ってってやるんです。呆れけえった野郎ですよ、あいつは。女には、“親切株式会社の社長さん”なんですから」
 とんがりとは、何かというと理屈っぽく怒ってとんがることからきた仇名である。女に対してだけは、とんがらずに豆にやってるもんだなと感心したものだった。

 この話で、私は彦六のこれまでの印象を変えざるを得なくなった。
 それほど、女遊びをしたり、ケチだったり、とは思っていなかったのだ。

 それにしても、四代目小さんの言葉、“親切株式会社の社長”という表現に、志ん生のマクラを思い浮かべる。
 志ん生は、“○○会社の取締り”という表現を巧みに使っていたなぁ。
 当時は、噺家さんの中で、こういう喩えが、流行っていたのかもしれない。

 正蔵、円生など皆若かった、ということもあり、その後はなかなか見せなかった素顔が、この本には満載。

 さて、次は誰の逸話にしようか。
 とにかく、いろいろ楽しい話ばかりで、迷うのである。


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by kogotokoubei | 2018-03-04 17:31 | 落語の本 | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛