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噺の話

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2015年 07月 24日 ( 1 )

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「東京かわら版」サイトの該当ページ

 関内での柳家小満んの会の出張販売で購入した本。編集人の田村さん自ら販売されていた。
 
 東京かわら版が、今年五月に同時二冊刊行した新書は、一冊は長井好弘著のもので、もう一冊がこの本。

 まだ、Amazonには載っていなかったので、上記のリンク先は東京かわら版のサイトである。

 「東京人」や東京有名百味会の「百味」など、さまざまな雑誌や会報などに掲載されてきた内容を編集したもの。

 東京かわら版のサイトにある宣伝文を引用。
多くの雑誌に発表された原稿を再構成し、書きおろしも加えました。とても美味しそうな食べ物の描写、様々な食(酒・肴)の蘊蓄に加え、小満んが出逢った、人、アートへの思いも綴られました。堀口大學、吉井勇への思いも披露されています。収録された48篇のエッセイは、博識の小満んならではの、気品ある世界観を堪能出来る非常に貴重な内容。ゆったりとした読み心地が、なんとも気分の良い一冊です。小満んの素敵な俳句、イラストも掲載しています。

 このように書かれているように、必ずしも「食」のみに関する内容ではなく、幅広いテーマについて書かれたエッセイ集と思った方がよいだろう。
 副題の「酒・肴・人・噺」とあるのが、読みながら頷ける。

 当初「落語の本」のカテゴリーにしようと思っていたが、読了後は、「今週の一冊、あるいは二冊」が相応しいと思った。

 なぜか・・・・・・。

 私は、この本で初めて香月泰男という画家を知った。

 沼津の文化を語る会が発行している「沼声」に掲載された内容をご紹介。
 香月は山口出身なのだが、それも良し、としよう。


 命の豆の木

 香月泰男の画境はシベリア抑留の日々が魂となって昇華したものに違いない。
 山口県大津郡三隅町にある町立「香月美術館」へはすでに数回立ち寄っており、軽いタッチの明るい作品や、戦前の各種入選作にも親しみを覚えるのだが、やはり、あの重厚な黒基調としたシベリア・シリーズの作品には、切々たる命の叫びを感じて、背筋を正さずにはいられない。
 シベリアでの抑留生活の過酷さ、悲惨さは想像を絶したようだが、香月泰男を画家とし知ったロシア兵は、絵具のないまま収容所の壁にスターリンの肖像画を画けと命じ、そこから生まれたのが煙や廃油で作った黒の絵具で、復員後、数多の非難を押し切って、独自の黒絵具を使って画き続けたシベリア・シリーズは、かつて類のない美の世界を創り上げたのだった。
 シベリアから持ち帰った命の糧であった豆の何粒から“サン・ジュアン”の木となって、美術館の庭にも植えられている。

 シベリア・シリーズ57点は、遺族により45点を山口県へ寄贈、残り8点が山口県に寄託され、1979年開館の山口県立美術館に展示されているようだ。

 小満んが数回訪れたという香月泰男美術館は、三隅町が現在は長門市になったので、長門市の管理である。
 サイトによると、現在「香月泰男 海・山 展」が開催されているようだ。
香月泰男美術館のサイト
 同サイトには、次のような奥さんの言葉が紹介されている。

  主人は口下手でしたから
  シベリヤでの体験は絵で語るしか
  なかったのでしょう。


 山口県立美術館のサイトからプロフィールをご紹介。
山口県立美術館サイトの該当ページ


三隅町(現:長門市三隅)出身。東京美術学校卒業。国画会を中心に数多くの展覧会に出品。最初期は梅原龍三郎の影響を受けた作風であったが、徐々に透明な色調の独自の作風を確立。1943年に応召、シベリア抑留を経て47年帰国。戦後、シベリア抑留体験テーマに<シベリア・シリーズ>を発表し、1950年代末から炭と方解末を使った材質感あるモノクロームの画面と、深い人間性の洞察をふまえた制作で著名になる。1974年3月8日死去。62歳

 昨年、没後40年記念展が開かれたようだ。美術館のサイトのページの「原画から探る、シベリア・シリーズ」が、実に興味深い。
「山口県立美術館」サイトの該当ページ

 山口県のサイトに「北へ西へ」が掲載してあったので、お借りした。
山口県サイトの該当ページ

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 ソ連兵から「帰国する」と言われながら,祖国とは違う方向(北、西)へ向かう列車に乗せられた、日本軍捕虜たちの不安感や絶望感の高まりを描いたものだ。

 この本には、数多くの食、酒、肴のご馳走のことが、小満んならではの文章と自作、他作を含む多くの俳句、川柳などを交えて書かれているが、私は香月泰男について書かれたこの短い文章を、まっさきに紹介したいと思った。

 もちろん、絵画なので、‘見る’ご馳走ということで本書に加わったのだろう。
 しかし、ご馳走として味わえるかどうかは、その人の味覚次第でもある。
 この人類にとって貴重なご馳走を、同じ山口出身のあの男は味わうことができるだろうか。

 そもそも、安倍晋三は、香月泰男と彼が描いたシベリアを、さて、知っているのだろうか。

 昨今、噺家さんによっては、マクラで時事的な風刺をふって本編に入る方も少なくない。
 その舌鋒が似合うのは、やはり、それ相応の年齢、見識がある噺家さんだ。

 小満んは、ほとんど、時事的な要素をマクラでは含まず、あくまで、噺の内容に沿った俳句や川柳などをふって、江戸の香りを漂わせて本編に誘い込む。
 きっと、江戸の噺をするのに、平成の世の雑音は野暮、と思っているような気がする。

 しかし、このエッセイ集の小品を読むだけでも、小満んの戦争に関する思いは、しっかり伝わってくる。

 過去から現在にかけて、多くの学者、作家、芸術家、一般庶民が、それぞれの経験や考えから反戦を訴えてきた。
 敗戦から70年。もう70年、あるいは、まだ、70年。
 江戸から明治維新、日清、日露の戦争、そして太平洋戦争という歴史の中で記された貴重な反戦へのメッセージを、埋没させてはならないと思う。
 もちろん、香月泰男という画家も、その中に入るだろう。
 私のような者を含め、一人でも多くの方が知ることは大事だと思う。
 小満んと編集の田村さん、東京かわら版に感謝したい。
 
 本書には、もちろん、楽しく読める食べ物のネタなども豊富だ。「寄席がハネたら行きたい店」など、涎が出てきた。
 しかし、ところどころに、こういった食とは違う‘ご馳走’が挟まれているのが、程よいアクセントになっている。

 小満んと料理人や陶芸作家、漆芸家などとの交流や、同好の士との舟遊びや旅行記なども楽しい。
 この本のための書き下ろし、「私の母校、堀口大学。宿命の縁、吉井勇。」も貴重だ。

 そのどれもが、小満んの別な著作のお題を借りるなら、「べけんや」なのだ。
 
 こういう本こそ、売れて欲しいと思う。

 
by kogotokoubei | 2015-07-24 21:26 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


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