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噺の話

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2014年 05月 14日 ( 1 )

 五代目小さん十三回忌特別シリーズ、昨日のお記事を書いた後には、次は小三治のおカミさん郡山和世著『噺家カミさん繁盛記』から何かご紹介しようかと思っていたのだが、私の記憶違いで、ほとんど旦那の師匠小さんについての記述がなかった^^
 何か書いていたような気がしたのだが、相当脳細胞が減っているようだ。

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 路線変更で、川戸貞吉著『現代落語家論』(弘文出版)から紹介したい。

 著者は、早稲田の落研時代から当時の小ゑん(現談志)や全生(五代目円楽)と懇意になり、TBS入局後に、今につながる落語研究会の再開を企画した人。

 本書は昭和53年五5月10日初版発行なので、あの落語協会分裂騒動の直前。よって、著者は翌年早々に『新現代落語家論』を書くことになる。

 さて、上下二巻の下巻に小さいのことが書かれているので、引用したい。


 不精な私だが、『落語日記』と称して、落語に関する日記だけは、つけてきた。この日記から、小さんの芸談を、少し拾い出してみよう。

 昭和四十二年十月三日
 夜、イイノホールへ行く。楽屋では正蔵・小さん両師のやりとりが印象に残った。
 小さんが正蔵に、いろいろと聞いている。まず朴炭(ほおずみ)のこと。『湯屋番』に出ているという。
「家の愚妻さんも使っているよ。四代目(四代目小さんのこと)も使っていた」
 と、、正蔵がいう。
 朴炭は朴の木の炭で、それでこすると、たいへんすべすべするそうだ。
「垢すりも近頃は使わなくなったねェ」
「昔は三助が使ったが」
 と、しばらく雑談。
『湯屋番』は小さんの十八番といわれているのに、まだ調べている。頭が下がる。
 (中 略)
 この夜の小さんの演しものは『王子の狐』。


 稲荷町と目白の楽屋話、なんともいい感じだ。横で聞いていた人が羨ましい。日記の紹介を続ける。
 

十月八日
 夜、小さん師と飲む。『王子の狐』について話を聞いた。前座・二ツ目時代に八代目文治から教わったもので、ずっとオクラにしていたという。
「久々此間(こないだ)演ったが、もう忘れちゃったよ」
 そういってケラケラ笑った。
 四代目小さんは、狐をだます人間を二人連れにして演っていたという。『そのほうが演りやすいから』という理由からであった。
「なるほどそのほうが演りやすいやね」


 今まで『王子の狐』で二人連れで狐をだます噺は聞いたことがないが、なるほど面白いかもしれないなぁ。

 この師匠四代目小さんにまつわる逸話を、昭和四十八年三月二十二日の日記の、小さんの会話の途中からご紹介。

「とにかく昭和の名人というと、五代目円生、三語楼、四代目小さん、八代目文治だな。文楽師匠は、まだそのあとだよ。あたしも三語楼の噺を聞いて噺家になろうと思ったんだから。そりゃァ素人のときは、三語楼を追いかけたもんだ」
 それから話は、自分の師匠四代目小さんのことに移った。
「うちの師匠は本当に上手かった。でも、うちの師匠の本当のよさをわからねえ奴が、大勢いたね。あの小勝(五代目小勝)だってそのうちのひとり、それから正岡容。
 その人が、うちの師匠のことを悪くいったんだ。『志ん生の代わりに四代目が出たが、あれじゃァ代演にならない。志ん生の代わりに小さんなんて・・・・・・』等と書いたんだな。いまにして思うと、これはセコだとかなんとかいうんじゃァない。芸風が違うから代演にならないという意味なんだろうけれど、なにしろこっちゃァ若かったからねェ、浅草のほうの鳶の鳶頭(かしら)が見せてくれたんだが、『うちの師匠のことをこんなに悪くいうなんて』と思ったら、体がぶるぶる震えてきたね。『よーし、あの野郎明日ぶん殴りに行ってやる』と思ったン。『そうだそうだ』なんて、鳶頭もこっちを煽るしね。本当に行こうと思ったン。
 ところが、その晩に赤紙がきて、こっちは軍隊に連れてかれちゃったァ。いまから考えると、殴らなくていいことしたよ」
 本当だ。もしこのとき殴っていたら、おそらく大騒動になっていたに違いない。

 
 三語楼(初代)については、このブログを初めて間もない頃に書いた。ご興味のある方はご覧のほどを。
2008年6月12日のブログ
 紹介した内容でもお分かりのように、五代目小さんの師匠四代目への思いは強く深い。

 夏目漱石が『三四郎』の登場人物にその名人ぶりを語らせた三代目と、五代目の間に挟まって影が薄いように思われる四代目小さん。
 十八番は、『かぼちゃ屋』『二十四孝』『ろくろ首』『三軒長屋』『青菜』『お化け長屋』『雑俳』『三人旅』『芋俵』などの滑稽噺と言われる。ほとんど五代目は師匠のネタを継承していることが分かる。

 五代目の十三回忌、必ずしもご当人の五代目を思い出すことに限らず、師匠四代目のことに思いを馳せるのも一興ではなかろうか。

 末広亭での追善興行では日替わりで『千早ふる』が演じられているようだ。たしかに五代目のネタではあるが、“小さん”ということで考えるなら、もっとネタ選びも変わってよいような、そんな感想を抱いた。ちなみに、ちくま文庫の『小さん集』には、ちょうど十八席収録されているが、『千早ふる』は含まれていない。三代目から四代目、そして五代目に継承された他のネタでも番組はつくれるように思う。広い意味での『浮世根問』を、人それぞれに演るなんてぇのも楽しい企画ではなかろうか。『やかん』になってもよいだろうし、『一目上がり』でもよいだろう。

 四代目小さんについては、五代目のことを知るためにも、もっと語られてよい、名人ではなかろうか。五代目が正岡容を殴りに行こうとまで思わせた師匠である。

 小さんにあの日、赤紙が届かなかったら・・・・・歴史に禁物の「IF」だな、これは。
by kogotokoubei | 2014-05-14 12:48 | 落語家 | Comments(6)

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