池田雅之著『小泉八雲』より(15)
2025年 11月 07日

池田雅之著『小泉八雲』(平凡社新書)
池田雅之著『小泉八雲』(副題「今、日本人に伝えたいこと」)の十五回目。
本書は、8月7日に平凡社新書で初版。
著者は、八雲(ラフカディオ・ヘルン)の『新編 日本の面影』や『新編 日本の怪談』などの訳者として知られる。
<目次>
□はじめにー共生きのいのちを生きる
□第一章 甦る八雲の現代日本への警告
□第二章 八雲と漱石の異文化体験から学ぶ
□第三章 欧米人は八雲をどう見てきたか
□第四章 八雲の人生と文学の素地をたどる
□あとがきー日本を取り戻す
□主要参考文献一覧
□小泉八雲略年譜
「第四章 八雲の人生と文学の素地をたどる」の「第五節 『怪談』は妻セツの助力で生まれた」から。
著者は、本書の副題にも関連するが、八雲の文学が、果たして日本人に理解されているのか、と問いかける。
日本の近代文学の主流は、インテリの文学といってよいですが、八雲文学は名もなき庶民を中心に描く庶民のための文学といえます。八雲は私たちから遠い存在ではなく、私たちの身近にいる作家だと思われるのです。これは私自身、八雲の作品を翻訳して感じる親近感です。
しかし、一方で心配なのは、現代の私たちは、130年前の八雲の『怪談』や『日本の面影』で描いている日本人の心根を、理解できるのかどうか、という疑問です。つまり、彼の作品は昔の日本人のもっていた微妙な感性や情緒、人への思いやりの心を表現している文学だからです。
このあと、著者は『怪談』の中の「青柳ものがたり」における、命あるものへの慈しみの心や、『骨董』の中の「和解」がテーマとする、死を超えての霊的な再会が示す愛の永遠性など、西洋流の善悪の二元論では切り捨てられない文学的な特徴を例示する。
こうした日本人が従来もっていた、微妙なものごとを感知する情緒や感性は、今日の私たちにも引き継がれていると信じたいのですが、現実はどうでしょうか。
惜しくも2024年8月に亡くなられた、私の尊敬する松岡正剛は、『神仏たちの秘密』(春秋社)で、八雲の日本理解の方法を大変評価なさっていました。しかし、松岡は、今日の日本人が、日本文化の本質に迫る作品を、本当に味わうことができるのかについては、危惧の念を抱いていたようです。八雲がおよそ130年前に描いた日本人の「かそけきもの」、「そこはかとないもの」への美意識をすでに失っているのではないか、と指摘しているのです。
著者は、失われた日本人の美意識を取り戻す意味でも、八雲文学の理解はこれからの日本人の重要な試金石となるのはないか、と指摘する。
八雲文学の一端をご確認いただくために、以前、『怪談』の中の「おしどり」をご紹介した。
ご興味のある方は、ご覧のほどを。
2025年9月12日のブログ
はたして、このような、「かそかきもの」、「そこはかとないもの」への美意識は、令和の時代の日本人にどれほど理解されるのか、と私も思う。
しかし、私は、日本人なら、きっと分かるはずだ、という楽観もある。
さて、著者は、八雲文学に魅了されるようになった経緯を記している。
大学で英文学を学び、英語の原文で八雲の『日本の面影』や『怪談』を読んで、自分の感性にぴったりなじむものを感じた、と言う。、
その後、八雲の翻訳をしたり、論文のようなものを書くようになりましたが、私が八雲入門として、昔から親しんでいたのが、田部隆次の『小泉八雲』でした。今回、NHK連続ドラマ小説で、八雲の妻セツを主人公とする「ばけばけ」が、2025年10月から放送される予定にちなんで、新装改訂版として中公文庫から最近出版されましたが、私はその解説「名も無き庶民の心を語り継ぐ」を担当しました。
田部隆次は八雲の直弟子で、この本は評伝としては、今日でも古びていない、読みごたえのある八雲案内書といえますが、私にとっては八雲と妻セツの関係を知るうえで、とても参考になったテキストでした。私はこの田部の『小泉八雲』に収録されたセツの「思い出」を読み感動し、すっかり八雲とセツファンになったのを憶えています。
ということで、私も田部隆次による『小泉八雲』を読み始めたのであった。

次回、本書からの最終回として、『怪談』がどのようにして生まれたのか、についてご紹介予定。
「ばけばけ」について、少し。
ドラマでは、八雲が泊まっていた花田旅館の女中(放送禁止用語?)うめの目の病を見て、八雲が旅館主人に医者へ連れて行けと言うにも関わらず主人がそうしなかったことで、旅館を飛び出す設定になっている。
小泉セツの「思い出の記」では、旅館の娘の眼病が原因となっており、旅館を出てから八雲が医者に診せて全快させたらしい。
また、「ばけばけ」では、その旅館を「地獄」と八雲が評しているが、セツによれば、実際に八雲にとって許しがたい状況では、頻繁に「地獄」と口走ったらしい。
少しの脚色はあるが、許容できる範囲であり、史実を踏まえた演出になっているように思う。
明日、まとめて一週間分見るのが楽しみだ。
