「とと姉ちゃん」再放送で、史実の捏造を危惧。
2025年 09月 16日
NHKは地上波もBSも、過去の朝ドラの再放送をしている。
地上波で昼の12:30から、つまり「あんぱん」の直前に「とと姉ちゃん」を放送している。
NHKサイトの同番組ページ
暮しの手帖社の創業者である大橋鎭子と花森安治をモデル(モチーフ?)としたドラマ。
昨日、このドラマを久しぶりに見た。
最初に放送された9年前のことを思い出した。
この番組については、最初の放送が終了する少し前に、当時の『暮らしの手帳』編集長からの抗議や、元編集者の方の批判を、LITERAなどから紹介した。
2016年9月24日のブログ
その記事で紹介した内容を再確認したい。
「週刊朝日」の引用を含むLITERAの記事を紹介していた。
「LITERA」の該当記事
ドラマが描く商品テストをめぐる企業との対立について、当時の編集長が事実に反すると抗議していることを紹介した後の内容。
そして最も痛烈だったのが「週刊朝日」(朝日新聞出版社)9月23日号に掲載された「暮しの手帖」元編集者小榑雅章氏(78)からの“告発”だ。
小榑氏は名物編集長だった花森安治氏に18年間師事した愛弟子でもあるが、ドラマと事実の相違点についていくつもの具体例を示し異議を唱えている。例えば花森氏をモチーフした唐沢寿明演じる花山伊佐次と高畑充希演じる小橋常子のモデル大橋鎮子氏の関係は「花森さんの指示のもと、走り回っていた編集部の一人」であり、実際の花森氏はスカートなど履いたことはなく、また「商品テスト」での企業の嫌がらせもなかった――などだ。
確かにこれらの指摘は関係者にとっては重要なものだろう。とはいえドラマはあくまでフィクションであり、史実とドラマの設定や展開が多少違うことは珍しい話ではない。だがドラマにはフィクションとしても看過できない根本的な欠落、問題があった。それが戦争責任と公害という2つの問題だ。
小榑氏は、公害問題についてこう語っている。
「あの時代は公害問題が出てきて、人々の生活が脅かされていました。『暮しの手帖』では、食品色素の危険性も指摘しました。当時は、食品にいろんな色素が入っており、それが体に害がある恐れがあるにもかわらず、国は黙認していました。編集部でアイスキャンディーを何百本も検査した結果、4本に1本の割合で大腸菌が検出されたこともありました。食品公害という言葉を作ったのは『暮しの手帖』なのです」(前出「週刊朝日」より)
しかしドラマでは食品公害については一切触れられることはなかったのだ。
そして、それ以上に小榑氏が譲れないと憤るのが、花森氏の戦争責任についてだ。
確かに花森氏は日中戦争で徴兵され旧満州で従軍し、除隊の後は大政翼賛会実践宣伝局に勤務し、“進め!一億火の玉だ!”などの戦意高揚のポスター制作に携わった。そのためドラマではその戦争責任を反省して「暮しの手帖」を創刊したことになっているが、小榑氏によれば実際の花森氏の思いは別のものだったという。
「僕は自分に戦争責任があるとは思っていない。だからこそ、暮しの手帖を始めたのだ。(略)なぜあんな戦争が起こったのか、だれが起こしたのか。その根本の総括を抜きにして、僕を血祭りにあげてそれでお終いというのでは、肝心の問題が霧散霧消してしまうではないか」
ドラマのようにわかりやすい“戦争責任”というストーリーではなく、その根本を問う。そして「お国のために」と騙されたことで「国とはなんだ」を問い続けたという花森。そして、その答えこそ「庶民の生活」だった。
「庶民が集まって、国がある。国があって庶民があるのではない。(略)国にも企業にも騙されない、しっかりと見極める人々を増やして行く、それが暮しの手帖の使命だ」
花森はあくまで庶民の立場に立ち、国家や企業と闘った反権力ジャーナリストだった。
あのドラマの脚本家は、なぜ、当時の編集長や小榑さんなどに取材した上で制作を進めなかったのか疑問だ。
ある人物をモチーフとするフィクションによる、ミスリード。
これは、先日のNHKスペシャル「昭和16年の敗戦」でも繰り返した問題だ。
いくらフィクションと言っても、見た人はそれを事実として受け止めてしまう。
また、あのドラマへの小言の記事のすぐ後、花森安治の「見よぼくら一銭五厘の旗」を紹介した。
2016年9月26日のブログ
「日本ペンクラブ 電子文藝館」サイトから、一部を再度引用する。
「日本ペンクラブ 電子文藝館」サイトの該当ページ
軍隊というところは ものごとを
おそろしく はっきりさせるところだ
星一つの二等兵のころ 教育掛りの軍曹
が 突如として どなった
貴様らの代りは 一銭五厘で来る
軍馬は そうはいかんぞ
聞いたとたん あっ気にとられた
しばらくして むらむらと腹が立った
そのころ 葉書は一銭五厘だった
兵隊は 一銭五厘の葉書で いくらでも
召集できる という意味だった
(じっさいには一銭五厘もかからなか
ったが……)
しかし いくら腹が立っても どうする
こともできなかった
そうか ぼくらは一銭五厘か
そうだったのか
〈草莽そうもうの臣〉
〈陛下の赤子せきし〉
〈醜しこの御楯みたて〉
つまりは
〈一銭五厘〉
ということだったのか
そういえば どなっている軍曹も 一銭
五厘なのだ 一銭五厘が 一銭五厘を
どなったり なぐったりしている
もちろん この一銭五厘は この軍曹の
発明ではない
軍隊というところは 北海道の部隊も
鹿児島の部隊も おなじ冗談を おなじ
アクセントで 言い合っているところだ
星二つの一等兵になって前線へ送りださ
れたら 着いたその日に 聞かされたの
が きさまら一銭五厘 だった
陸軍病院へ入ったら こんどは各国おく
になまりの一銭五厘を聞かされた
「とと姉ちゃん」には、この「一銭五厘の旗」のことは、一切登場しない。
「暮らしの手帖」の最新号でも「一銭五厘の旗」のことが取り上げられている。
「暮らしの手帖」のサイト
同サイトより。

花森安治の精神は、今もこの雑誌社には生きている。
過去のドラマの再放送が、誤解の再生産になることを危惧するばかりだ。
