フィクションです、と言えば済む問題ではない。
2025年 08月 28日
猪瀬直樹の『昭和16年夏の敗戦』を元にしたNHKドラマが、物議をかもしている。
実際に総力戦研究所の所長であった飯村穣氏のお孫さんが、あまりに祖父と違うとしてNHKに抗議しているのだ。
朝日新聞から引用。
朝日新聞の該当記事
番組は、戦後80年に関連して制作したNHKスペシャル「シミュレーション 昭和16年夏の敗戦」で、前後編を今月16、17日に放送した。日米開戦前に総力戦研究所に集められた若手官僚らが、米国との交戦の推移を机上演習する。そして開戦に向けて突き進む軍や内閣に対し、日本が必ず負けるという予測を突きつけるストーリーだ。
ドラマの所長は、政権に「不都合な報告」を上げないように若手に圧力をかける人物として描かれた。しかし、実在の所長だった陸軍中将・飯村穣氏の孫で元駐仏大使の飯村豊さんは、穣氏は若手の自由な議論を妨げなかったとし、「ドラマを面白くするために祖父が卑劣な人間に描かれ名誉を毀損(きそん)している。歴史の歪曲(わいきょく)だ」と主張した。
飯村さんはドラマ化を7月に把握しNHKに懸念を伝えたという。番組では史実を伝えるドキュメンタリーパートもあわせて放送され、所長が物語上の創作であり実在の所長とは関係がないことがテロップで明示された。ただ飯村さんは「小手先の対応に過ぎず、視聴者にはドラマが真実と伝わるのではないか。フィクションと断れば史実を曲げて伝えても許されるのか」と述べた。またNHKからはドラマを映画化する方針も聞いているとして、内容の修正を要望しているという。
この番組は、見ていない。
NHKの夏恒例の戦争特番としては、今一つ、興味が湧かなかった。
「フィクションと断れば史実を曲げて伝えても許されるのか」という怒りは当然だと思う。
飯村豊さんは、放送倫理・番組向上機構(BPO)へ申し立てをおこなう意向とのこと。
NHKは「飯村穣氏の実像についてはドキュメンタリーパートで伝えており、ドラマの所長とは関係ないことも明示しています」と言っているようだ。
「フィクションです」と言えば、歴史を歪曲していいのかという問題は、拙ブログでもNHKの朝のドラマや大河で指摘してきたことだ。
事実、史実を知らない視聴者は、見た内容を事実と思ってしまうに違いない。
「あんぱん」について、実際やなせたかしと妻暢との出会いは戦後なのに、幼馴染として描いていることは、歴史の歪曲であり、行き過ぎた創作ではないかと書いた。
2025年5月5日のブログ
何らかの事実に基づくドラマに、不透明部分などである程度の脚色があるのは認められるとは思うが、明確な事実を否定する内容は、いただけない。
ある人物を「モチーフ」としたフィクションである、と言い訳するドラマには、「事実と違っていても、フィクションですから」という逃げがある。
徹底的に調べて、実際の人物とその歴史を描こうという姿勢が見られない。
たしかに、その人物を肯定的に描こうとして、やや残念な側面を割愛することは、あるかもしれないが、それさえも、描くことが重要だと思っている。
また、ある人物を描くなら、その人物の人生に大きな影響を与えた人物や出来事をスルーして欲しくない。
大河「花燃ゆ」に、吉田松陰の妹の中でもっとも歴史上重要と思われる長女の千代が登場しなかった。
大河「西郷どん」に、西郷隆盛に大きな影響を与えた藤田東湖が描かれなかった。
NHK朝ドラ「わろてんか」では、吉本せいの息子の恋人である笠置シズ子が存在しなかった。
私は、脚本家を含むドラマのスタッフが、いったい、何を大事にしてドラマづくりをしているのか、疑問に思うことが多い。
「たかがドラマだから」という声もあるだろうが、ドラマでの歴史の歪曲は、南京大虐殺はなかったと主張することと、それほど大きな違いがあるように私には思われないのだ。
