三木義一著『まさかの税金』より(3)ー「103万円の壁」の本質は基礎控除の問題
2025年 07月 19日

三木義一著『まさかの税金』(ちくま新書)
三木義一著『まさかの税金』の三回目。
副題は「騙されないための大人の知識」。
本書は東京新聞の『本音のコラム』の内容を元に編集し今年1月初版。
「八五郎とご隠居」の対話などを交え、税金問題をかみ砕いて解説する書。
<目 次>
□はしがき
□第一章 政治家たちの迷走
□第二章 災害と税
□第三章 所得税・法人税
□第四章 消費税・相続税
□第五章 間接税・地方税
□第六章 税と社会をめぐる理想と現実
□おわりに
「第三章 所得税・法人税」の「103万円の“本当の”壁」から。
八五郎とご隠居の対話は割愛。
与党の少数化の事態を受けて、野党の主張も議論せざるをえなくなり、103万円の壁などが議論されだしたのは、望ましいことである。しかし、この問題の本質は基礎控除の問題なのである。健康で文化的な最低限の生活を憲法が保障しているので、健康で文化的な最低限の生活費に相当する所得金額には課税してはならないのであり、その趣旨で設けられているのが基礎控除である。
この基礎控除は戦後4,800円から始まり、物価などを考慮して毎年徐々に引き上げられてきたが、1995(平成7)年に38万円まで引き上げられたものの、その後変わっていないことが問題だったのである。確かに2020(令和2)年に48万円に引き上げられたが、給与所得控除額が10万円引き下げられたために、サラリーマンは、実質30年間変わらず据え置かれてきたのである。サラリーマンの給与所得控除というのは、サラリーマンに必要経費の実額を控除させないための代替措置として設けられており、上の表のように収入に応じて変化していくものである。
これが、その表である。

最低でも55万円は保証されているので、それに48万円の基礎控除を足すと103万円となり、ここまでは所得税がかからないことになる。だから103万円と言うよりは、48万円の基礎控除が据え置かれ続けてきたために生じた問題とも言える。
このことは次の二つの図を比較するとよく見えてくる。次ページ上の図は、2000(平成12)年の課税最低限の国際比較である。
財務省はこのような場合に給与所得者を例に出す。事業所得者だと38万円がもろに出てしまうので、給与所得控除という外国にはない独自の控除を持っている日本の給与所得者を出せば高く見えるからである。その結果は、ご覧の通り(前ページ上の図)、5カ国の中で一番高かった。
これが、前ページ上の図。

その後、2024(令和6)年まで、基礎控除についてはそのまま据え置いてきた。他方、諸外国はこの間も基礎控除の見直しは毎年のように行ってきた。その結果どうなってしまったかを示しているのが前ページの下の図である。
もう給与所得控除を含めても、5ヵ国の中で最低になってしまったのである。議論しなければならないのは、この点なのである。
これが、前ページ下の図。

コロナ禍で、日本以外の多くの国は、付加価値税を減税しただけにとどまらず、控除額を引き上げてきて、課税最低限の所得レベルを上げてきた。
つまり、他の多くの国が、低所得層からの課税を減らしてきた。
しかし、日本は基礎控除を10万円増やしながら、給与所得控除を10万円減らすという姑息な手段で、合計の控除額は変わらないままだった。
まさに、これが、ザイム真理教、という怖い組織の手口なのである。
著者が「基礎控除の問題」と指摘していることは、重要だ。
「壁」と言うと、ない方が良いように勘違いしてしまう。
基礎控除の問題ととらえれば、控除額が多い方が納税者にとって良いことであることは明白。
壁ではなく、あくまで、控除額の問題なのである。
今年確定申告をした後、「103万円の壁」や「106万円の壁」という形容について、それぞれは「セーフティーネット」と呼ぶべきじゃないか、と書いた。
2025年2月22日のブログ
セーフティーネットなら、大きい(控除額が多い)方が良い、というイメージが浮かぶはずなので、そう書いた。
すでに、社会保険の「106万円の壁」は、厚労省によってなくなった。
これは、控除額の設定がなくなった、ということ。
来年10月に従業員51人以上の企業で実施され、再来年10月には、その企業規模のルールも撤廃される。
週20時間以上という基準だけは残る予定なので、保険負担に苦しむ中小企業は、パートのシフトを調整することが十分に考えらえる。
労働者自身も、週20時間を意識して、シフトを考えるようになるだろう。
決して、壁が崩れて良かった、とうことではないのである。
日本は、主な欧米諸国よりも低所得者から税金を搾り取っている、ということ。
コロナ禍なども関係なく、30年間、基礎控除額は抑えられたままなのである。
「103万円の壁」問題の本質は、基礎控除額の問題ということは覚えておきたい。
