三木義一著『まさかの税金』より(1)ーパーティー券収入に課税しない不思議
2025年 07月 15日
時事問題について、以前に「八五郎とご隠居」というカテゴリ名で、いくつか記事を書いた。
カテゴリ「八五郎とご隠居」
2016年7月から九本書いて、ここ六年ほどは書いていないので、そろそろ何か書こうかと思っていた。
そう思っていたところ、先日、書店で立ち読みしていたら、同じような対話のある本を見つけ、購入した。

三木義一著『まさかの税金』(ちくま新書)
本年1月発行、三木義一著『まさかの税金』である。
副題は「騙されないための大人の知識」。
「はしがき」からまずご紹介。
はしがき
「ご隠居、何で、この本を出されたんで?」
「いゃね八っつあん、東京新聞の木曜朝刊の『本音のコラム』欄を2019年1月から担当してきたんじゃ。そのコラムで、税金問題もずいぶん取り上げたので、皆さんにも読んでいただけるようなものにまとめられるかと思ったんじゃ」
「で、そうなんたんですか?」
「そうじゃのう、コラム執筆時に問題となっていたテーマを分かりやすく解説するつもりだが、何かの税制を体系的に解説するものはなっていない。ただ、様々なテーマで皆さんが勘違いしていそうな点や、知らないと思われる点についてやや詳細にすれるようにして、少しでも税を見る目が変わってくれることを期待して本にしたんじゃ」
「それじゃ、はじめから読んでいかなけりゃいけないわけじゃないんですね」
「目次を見て気になる見出しを見つけたら、そこを読んでいただければいいのだよ」
「てへ、少し気が楽になったけど、でも、テーマが税金じゃ、難しいですぜ。特にご隠居は税法の専門家とやらで蘊蓄をたれたがるから、みんなに逃げちゃいませんか」
「だから、わしは、この本では令和の宮武外骨を目指して、できるだけ権力をしゃれで笑い飛ばすことを目指したんじゃ。お前さんとのこうしわ対話もたびたび入れておいたぞ」
「で、笑い飛ばせた?」
「オチがつけられずに笑われているかもしれん。内容もお前さんのとことの黒いワンちゃんみたいになったかもしれん」
「うちのクロ? あっ、尾も白くない、って言いたいわけで」
「だが、税金問題に少しは関心を持ってもらえたのではないかと期待しておる」
「ということだそうですので、読者の皆様、お好きなところから、気楽に読んでいただき、ご隠居の失敗作から何かをつかんでいただけたら幸いでございます」
「これこれ、何が失敗作じゃ?」
「だって、ご隠居がこの最初の文章のタイトルd、自分の能力になさを認めて、謙虚に読者に詫びておられるじゃないですか」
「この『はしがき』でか?」
「あ~? 『はじかき』じゃなかったんだ」
オチは、いまいちかな(^^)
ねぇ、「八五郎とご隠居」でしょう。
あら、これ、もしかして拙ブログのパクリ?
と思ったりしたが、さてどうだろう。
落語が好きなら、ありえる発想なので、きっとオリジナルなのだろう、とは思う。
もし、拙ブログがヒントになっていたのなら、ご連絡のほどを、いくらか頂戴しますので。
というのは、冗談。
著者三木義一は、1950年生まれで私の五歳上。
落語好きであるのは間違いないだろう。
弁護士、青山学院大学名誉教授で元学長。
元政府税制調査会専門委員で、国税通則法改正を担当。
税金の専門家で著書も多いようだ。
<目 次>
□はしがき
□第一章 政治家たちの迷走
□第二章 災害と税
□第三章 所得税・法人税
□第四章 消費税・相続税
□第五章 間接税・地方税
□第六章 税と社会をめぐる理想と現実
□おわりに
第一章の最初にある「パーティー券収入と税収」から。
「ご隠居、自民党、特に安倍派に激震ですぜ」
「パーティー券収入のキックバック問題。ノルマ以上に売り捌いた分がキックバックされていて、しかも政治資金報告書に記載されていなかったという問題か。さしあたり、不記載が問題になるが、わしは、もっと大きな問題があると思うぞ」
「てえことは、パーティー券が課税される?」
「いや、政党や政治団体は収益事業しか課税されない。パーティーなどは収益事業だと言いたいが、実務ではそう見ていないから非課税だ」
「やっぱりね~。政治家様のために税制」
「だが、政治団体が非課税で受け取っても、個人に渡していたら、個人の所得じゃ」
「あれ、贈与では?」
「贈与税は個人間の贈与が対象だ。政治団体からの贈与とうなると、所得税になり、業務上の関係があるから、一時所得ではなく雑所得だろうの」
「それを議員たちが受け取っていながら申告していねぇ。庶民にはインボイスを強行しておいて、自分たちは脱税?」
「情けないの~。こんな連中が毎年の税制改正を決めておる」
「しかも、国民の税金からこの連中の数も含め政党交付金を受けてる。政党は彼らを対象から外し差額を国民に戻せ!}
「正当じゃ~~~」 (2023・12・7)
オチがやや直球ではあるが、実に分かりやすく問題を指摘している。
その後の文章。
2023年(令和5)年末から明らかにされてきたパーティー券キックバック問題は税法上も大きな問題を抱えている。まず、政治団体というのは、通常、法人格のない社団であり、しかも、一般の法人とは異なり営利目的で設立されるものだはなく、株主などもいない。さらに、政治という「公益」目的のための団体なので、民間会社にように法人税の対象にしなくても本来は問題がないはずのものだったのである。
しかし、法人税がかかからないとなると、こういう団体を利用して民間会社と同じ利益活動を行おうとする動きが必ず出てくる。そうすると、民間業者は公益法人よりも著しく不利になってしまうのだ。そこで、通常の民間会社でも行う「収益事業」収入は、公益法人や政治団体が行ったとしても、民間会社と同じように課税対象にすることにしたのである。
だから、政治資金パーティーも「収益事業」に含まれるなら、政治団体のパーティー事業の収入も課税されることになる。しかし、課税の実務では、あのパーティーを公益的活動としての政治活動とみなしているのである。
収益事業とされる34事業の表が掲載されている。
これである。

著者は、パーティーでの収入は「興行業」に近いと思われるが、実務として課税されていないから、裁判にもならないと記している。
また、個人にキックバックされた場合は雑所得となり、必要経費をそれ以上支出していなければ、差額が所得となるので申告しないと違法なのだが、政治家は、団体からの「一時預かり」として、税務署も調査しないのが実態。
こういう政治家優遇で徴収しない税のことも税の問題として議論されるべきなのだ。
しかし、参院選では、キックバック議員の多くが自民党公認となっているにも関わらず、まったく争点になっていない。
ザル法の政治資金規正法では、安倍派幹部が不起訴になったように、限界がある。
これは、検察の問題ではなく国税の問題として考えるべきだ。
領収書が必要でなく何に使われたか不透明な所得は、「公益」のためとは言えない。
脱税での摘発を検討すべきであり、「裏金受領議員」も、申告していなかった所得税の修正申告を行って納税するのが当然なのだ。
大企業優遇、富裕層優遇、政治家優遇の税の問題について、今後も本書から、「八五郎とご隠居」の対話を含めご紹介したい。
