令和の米騒動の原因と対策について。
2025年 05月 21日
「米は買ったことがない」江藤農水相が、「売るほどあるは宮崎弁」で、恥の上塗りをして、やっと辞めた。
大臣が替わっても、令和のコメ騒動は、そう簡単には解決しないだろう。
備蓄米放出しか策はなく、放出しても米の値段が下がらないのを流通サイドの責任として押し付けているようでは、問題の本質には遠く及ばない。
なぜこうなったのかをしっかり分析し、どう対策しなければならないかが示されるべき時なのだと思う。
農業の専門家と、専門家集団(コンサルティング会社)にヒントを探してみた。
今月12日に行われた中日新聞の懇話会で、鈴木宣弘東大大学院特任教授が講演したようで、その要旨が掲載されていたので、引用する。
中日新聞サイトの該当記事
第591回中日懇話会(中日新聞社主宰)が12日、名古屋市内で開かれた。東京大大学院の鈴木宣弘特任教授が「日本の食をどう守るか コメ不足と食料安全保障」と題して講演。高騰が続くコメ価格の行方やトランプ米政権との関税交渉の課題などを語った。
講演要旨は次の通り。
【低自給率の背景】
今の日本の食料自給率はカロリーベースで38%ぐらい。でも肥料の輸入が止まったらせいぜい22%。さらに種を海外に多く依存するなどしたら最悪9.2%に落ち込むとの試算もある。
日本の食料自給率が低い一番大きな要因は戦後の米国の占領政策。米国で余った農作物を日本人に食べてもらおうとコメ以外の農作物の関税が一気に撤廃され、日本の麦や大豆は壊滅的な状態になった。
最近ではコロナ禍、中国の爆買い、異常気象による不作の頻発、戦争という四つの要因により、日本の農業は深刻な状況にある。
【コメ価格の行方】
令和の米騒動が起きたのは猛暑やインバウンド(訪日客)の影響もあるが、長年の減反、生産調整、コメ農家が大赤字で「もうやめた」という人が続出していることが大きい。
備蓄米は「流通が隠しているコメを出させるために出した」という理屈ばかりで、買い戻そうとしているから放出じゃない。今年秋に収穫されるコメの契約がどんどん進んでおり、秋に出てくるコメの値段は5キロ4200円くらいがベースになるかもしれない。
輸出米を8倍に増やすとの目標の下、輸出向けのコメには10アール当たり4万円の補助金が出ている。その補助金は国内の主食米を増やすために出すべきだ。
【米国との関税交渉】
日本は第1次トランプ政権の時、自動車の25%関税を許してもらおうとし、当時の交渉担当大臣は記者会見で「農業にはまだ余裕がある」とまで言った。結局、牛肉と豚肉の関税の大幅削減で決着した。
今回も同じ構図。米国に行った担当大臣は「何から譲ったらいいですか」と言い、帰国後には「コメも出すから許して」という話も出ている。コメは国防の観点で絶対に最後まで出してはいけないカード。それを最初から出したら、自動車も「知らん」と言われておしまいになるに決まっている。普通のビジネスで考えたら交渉になっていない。
【食を守るために】
お金さえ出せば、食料をいくらでも安く輸入できる時代は終わった。減反や生産調整と言っている場合ではなく、国民を挙げて大増産を進めるべきだ。
国民の命を守る一番の要は食料、そしてそれを支えているのが農業だ。日本をリードする企業、消費者などあらゆる人に今後の食料、農業のあり方を考えてほしい。
ほぼ、頷ける内容だ。
なお、鈴木宣弘教授は、れいわ新選組主催の「ごはん会議」で全国で講演をしている。
内容的には、「ごはん会議」とほぼ同じではないかと思う。
れいわ新選組サイトから、「ごはん会議」の案内の一部を引用。
「れいわ新選組」サイトの該当ページ
昨年、四半世紀ぶりに改定された農業基本法について。
25年ぶりに農政の「憲法」たる基本法が改定されたが、食料自給率向上に向けた支援策を打ち出すどころか、農業・農村の疲弊はやむを得ないとして、一部の企業が輸出やスマート農業で儲かればよい方向性を打ち出した。しかも、支援はしないが、有事には、農家を罰則で脅して強制増産させる「有事立法」を制定し、これで大丈夫だと言っている。そんなことができるわけもないし、していいわけもない。
農水省は、食糧自給を国の重要課題として認識しているのか、と思いたくなる。
では、政治は、どうすべきか。
太字を使ったのは、私である。
国政では、①食料安全保障のベースになる農地10aあたりの基礎支払いを行い、それを、②コスト上昇や価格下落による経営の悪化を是正する支払いで補完し、さらに、③増産したコメや乳製品の政府買い上げを行い、備蓄積み増しや国内外の援助などに回す、といった政策実現に向けて国民の総力を結集するときである。
もし、このような政策が提示されたら、先の見通しが少しは明るくなり、市場も落ち着きを取り戻すかもしれない。
ちなみに、鈴木宣弘は、1958年生まれで、東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授。
東京大学農学部卒業後、農林水産省に入省し、九州大学大学院教授などを経て、2006年から東京大学教授。
日本の反農薬運動を牽引してきた人物でもある。
『農業消滅―農政の失敗がまねく国家存亡の危機』『食の戦争―米国の罠に落ちる日本』『悪夢の食卓―TPP批准・農協解体がもたらす未来』『世界で最初に飢えるのは日本』など著書多数。
兄弟ブログ「幸兵衛の小言」で、TPPに関連して『食の戦争』を紹介したことがある。
「幸兵衛の小言」の該当記事
ご興味のある方は、ご覧のほどを。
米価高騰は、米不足が原因だ。
米不足を招いたのは、農水省、そして、政治の責任である。
減反政策を、ただ進めてきた、ツケである。
環境変化や将来予測に基づき柔軟に米の生産量を需要に適合させる努力をしてこなかった。
戦時体制下の昭和17年(1942)に始まった食管法は、平成7年(1995)に廃止された。
市場原理に任せるということで、米が社会的共通資本、という認識から、農作物の一つ、という扱いになった。
とはいえ、米の生産量や価格を、必ずしも国が野放しにしているわけではない。
三菱総研のサイトで、3月に『令和のコメ騒動』という記事が掲載されていた。
三菱総合研究所サイトの該当ページ
まず、昨年からの米価の推移とその理由に関する図。

文章も引用。
基本的には、モノが足りなければ、価格は上がる。十分あれば、価格は下がる。価格が下がらないのは、「思っているほど、モノが出てきていない」ということにほかならない。
小売りからすれば、「価格を下げられない」。言葉を変えれば「下げなくても、それなりに売れる」状況にあり、競合他社も「価格を下げてこない」ので、「価格を下げる必要がない」状況にあると考えられる。
米が少ない、という事実を踏まえなければ、長期的な問題解決にはならないのだが、その生産量と価格に関する考え方はどうなっているのか。

農水省は、生産も価格も市場に委ねているように言うが、都道府県別の生産量は、農水省が年間の見通しを立て、その数字に沿って生産されている。
当然、その生産量によって価格は影響を受ける。
農地を最大限活用するため、米以外の農作物を作る場合に補助金が出る。
米を作っても、補助金は出ない。
現状の米の生産量をコントロールするシステムが行き詰っていることを示す図。

では、どうすべきなのか。
要約する。
(1)柔軟な生産目標設定・米作りメリット付与・備蓄米のバッファ確保
酷暑などによる生産量減少のリスクなどを踏まえて、国全体の生産量目標をもう少し高めに設定する。
生産量を増やすため、水田フル活用などの政策において、主食用米を作ることのメリットを挙げていく
逆に言えば、主食用米以外を作ることのメリットを下げていく。
その結果、コメ価格が想定以上に価格が低下するリスクがある場合、農家に対する一定の補償を行う。
備蓄米の保管量をもう少し多めに設定し、需給の過不足・価格の大きな変動に対して、備蓄米をより機動的に放出することを制度化する。
(2)農業経営への支援・魅力ある農業像の提示
現在の大きな政策課題である、地域計画に基づく農地の集積は継続して推し進めていく。
コメ農家を、より魅力的な職業、産業にしてくために、より強く農業経営体の経営力向上への支援を行う。
事例として、ある北関東の中山間地農家は、20haの耕地面積ながら、独自のブランド化を進め、1俵12万円の価格で東京のデパートでコメを販売することに成功している。
あるいは、東北の農家は、現状50ha程度の営農面積だが、仲間と一緒に連邦経営による1,000haの経営体になることを目指しているという。
鈴木宣弘東大大学院特任教授の主張も、三菱総研の提言も、従来の農業政策の問題を直視し、農水省と政府が長期的なビジョンを持つことを促している。
毎年毎年「米がない!?」と慌てふためくのではなく、環境の変化などに適合する仕組みをつくること、農家に笑顔を取り戻すこと、そして、米を社会的共通資本という認識で国が安全確保に努めることが大事だろう。
さて、新農水相に、その考えと、霞が関の保守派と戦う覚悟があるかどうか。
期待はしていないが、しばらく見守ることにしよう。
