森永卓郎著『書いてはいけない』(三五館シンシャ)より(6)
2024年 12月 21日

森永卓郎著『書いてはいけない』
『書いてはいけない』の六回目。
本書は、森永卓郎さんが、前著『ザイム真理教』刊行の際に苦労して探した出版社、三五館シンシャから2024年3月20日初版。
副題は、「日本経済墜落の真相」である。
<目次>
□まえがき
□第一章 ジャニーズ事務所
□第二章 ザイム真理教
□第三章 日航123便はなぜ墜落したのか
□第四章 日本経済墜落の真相
□あとがき
引き続き、「第二章 ザイム真理教」から。
前回は、アベノミクスとはなんだったのか、について森永さんの明快な解説をご紹介した。
不況下での金融緩和と財政出動については、経済学の常識として間違っていなかったのに、2014年に消費税を5%から8%に増税したことで、アクセルをかけながらブレーキを踏んでしまったのだ。
しかし、日本政府は、その後も過去の失敗を反省することなく、つい最近まで過ちを犯し続けている。
少し長くなるが、岸田前総理が行った誤った政策について、引用する。
繰り返された“非科学的”経済政策
2014年の消費税増税のような非科学的経済政策は、今もなお繰り返されている。その典型が2023年11月2日に政府が閣議決定した経済対策だ。
経済対策の目玉は、所得税・住民税減税だ。物価高で苦しむ国民生活を救うため、岸田総理は「税収増を国民に還元する」と、住民税非課税世帯への7万円の定額給付に加えて、1人あたり住民税1万円、所得税3万円の定額減税を1年に限って実施することにした。立憲民主党を除く野党からは消費税減税を求める声が出ていたし、自民党の若手国会議員102人で構成する「責任ある積極財政を推進する議員連盟」からも、消費税を5%に引き下げたうえで、食料品については消費税率を0%とする政策提言がなされていた。だが、そうした案は見向きもされなかった。
岸田総理の打ち出した所得税減税は、消費税減税とくらべると、かなりの問題がある。
第一の問題は、物価高対策にならないことだ。消費税減税であれば、税率の引き下げと同時に物価が下がるから、完全な物価抑制効果がある。とくに食料品は物価が9%も上がっているから、軽減税率である8%の消費税をなくせば、物価高の大部分を相殺できる。国民が経済対策の効果を毎日の買い物のたびに感じることができるのだ。一方、所得税減税は、所得増やすので、理論上は、需給がひっ迫して物価をむしろ押し上げる。
第二の問題は、実施まで時間がかかることだ。来年度の税制改正を行なった後、給料の源泉徴収額が変わるのは翌年6月になってしまう。
第三の問題は、一時的な減税は、貯蓄に回ることが多く、消費を拡大しないことだ。これまで行なわれた一時金給付の効果試算では、給付金のおよそ8割が貯蓄に回ってしまうことが明らかになっている。今回の対策では、減税の後に増税が待ち構えていることを誰もが知っているので、おそらくほとんどが貯蓄に回るだろう。つまり、景気対策の効果はほとんどない。
そして第四の問題は、減税にエアポケットが発生することだ。年間の所得税が3万円を超えるのは、専業主婦の妻がいる世帯で年収320万円、独身者の場合で240万円だ。それ以下の年収の世帯は3万円の定額減税をフルには受けられないことになる。
まったく、森永さんの指摘の通りである。
今年6月の給与明細を見て、「さあ、何か買物をしよう」とか「どこかで美味しい物でも食べよう」と考えた国民は、果たしてどれほどいるのだろうか。
データを確認しよう。
総務省のサイトから、家計消費支出の推移に関する報道向けの資料をダウンロードできる。
総務省の該当資料
12月6日に、10月までの二人以上世帯の消費支出の推移について、季節調整済実質指数とグラフが発表されていたのでご紹介したい。

一目瞭然なのである。
7月以降も2020年を100とするラインよりも下方にあり、前年からも増えていない。
森永さんが指摘する通り、所得税と住民税の定額減税は、何ら経済を活性化することなく、おおむね貯蓄にまわったのだろう。
すでに退陣した岸田前総理に鞭打つことになるかもしれないが、彼が何を語っていたのか、忘れないように確認しておこう。
当時の岸田総理は、「賃金上昇が物価高に追い付いていない国民の負担を緩和するには、可処分所得を直接的に下支えする所得税、個人住民税の減税が最も望ましい」と説明していた。
朝日新聞の該当記事
もし、期間限定的な減税でないのなら、この施策も効果があったのかもしれないが、財務省がそんなことを許すはずがない。
消費税減税の方は、よっぽど効果があるし、今、論議している、所得や社会保険の壁を引き上げることも、手取りを増やす効果がある。
しかし、想定していた翌年の衆院選挙のため、下がり続ける内閣支持率を、なんとか挽回しようと考えたのだろうこの政策は、まったく効果はなく、結局、岸田は自民党総裁選への出馬も見送ることになった。
当時の大手メディアは、どんな報道をしていたのか。
紹介した後の部分も引用する。
こうしたことを考えると物価高対策としては、所得税減税よりも消費税減税のほうがはるかに効果が高いのだが、消費税減税の話は、与党幹部から一切出てこない。消費税減税を嫌がる財務省への忖度だろう。
そして、その態度は大手メディアも同じだ。それどころか、大手新聞社は、減税そのものにも疑問を投げかける。2023年10月21日の日本経済新聞は一面トップで「所得税減税 遠のく財政再建」と掲げ、「ガソリンや電気への補助金などに加えてバラマキ政策が続けば財政再建は遠のく」と減税自体に反対する態度を鮮明にした。
朝日新聞も同じだ。10月20日朝刊の社説は「過去3年、国の税収が物価上昇などの影響で過去最高を更新してきたのは事実だが、収支を見ると赤字がコロナ前より大幅に拡大し、借金頼みに拍車がかかっている。巨額の財政出動を繰り返した結果、歳入像増を上回る規模で歳出が膨らんだためだ」と書いている。
コロナ前の2019年度の基礎的財政収支の赤字は13.9兆円だった。2023年度予算の基礎的財政収支の赤字は、予算ベースで10.8兆円だ。コロナ前より大幅に赤字は減っている。赤字がコロナ前より大幅に拡大したというのは完全な事実誤認だ。しかも2023年度は予算ベースなので、税収が見積りより増えたり、予算に不用額(歳出予算のうち、実際に使用しなかった額)が出ると、財政収支はさらに改善する。さらに、政府の抱える借金は、資産をカウントしたネットベースで、前述したとおり通貨発行益を考慮すると、ほぼゼロになっている。借金もなくて、財政赤字もないのに、新聞はいつまで財政破綻を煽るのか。
2023年度の基礎的財政収支は、ほぼ予算通りの額だった。
なぜ、大手新聞が、財政再建を叫び、減税に反対するのか。
日経や朝日は、相当、ザイム真理教の布教活動(「ご説明」)を受けたのか、税務調査という恫喝に怯えたのかもしれない。
次回は、メディアに圧力をかける、その税務調査という財務省の得意技(?)についてご紹介する。
「103万円の壁」に関し、与党(自民・公明)と国民民主は、ともかく今後も話を継続しよう、ということで年内は手打ちにしたようだ。
メディアは、相当この問題に時間とスペースを費やしたが、拙ブログで先日ご紹介した、社会保険の「106万円の壁撤廃」の問題については、マスメディアは、ほとんど取り上げない。
2024年12月14日のブログ
この壁がなくなると、51人以上という企業規模の条件も撤廃されるから、残る条件の週20時間の労働を越えないように、パート労働者はシフトを減らそうとするし、中小零細企業は負担を減らすため、雇い控えを進める可能性が高い。
103万円の壁が引き上げられそうになり、106万円の壁が、撤廃されようとしている。
社会保険も第三の税、と考えると、所得税が減る代わりに社会保険をいただこう、という永田町と霞が関の陰謀のように思えるのだが、ネット以外に、そんな指摘をするメディアはない。
中小零細企業でも、パートさんに106万円を気にせずシフトを増やしてもらい、手取りが減らないレベルで働いてもらおう、という会社やお店はあるだろう。
しかし、企業負担への支援が一過性のものであっては、企業側の努力も長続きできにくい。
103万円の壁を引き上げることは、今より多くの人の可処分所得を増やす効果がある。
しかし、106万円の壁撤廃は、今より多くの人の可処分所得を減らすことにつながる。
なぜ、社会保険の壁は撤廃であって、引き上げではないのか。
そういった視点で、ワイドショーも取り上げてもらいたいのだが、なかなかそんな番組はお目にかからない。
