「疑似イベント」の捏造者がマスメディアからSNSに変わった。
2024年 11月 19日
兵庫県知事選について、前の記事の最後に少し書いた。
まず、誤解なきように先に書いておくが、斎藤元彦知事を、私は支持しているわけではない。
知事としての資質に欠けると思っているし、今後、兵庫県議会や県民の分断が広がることを危惧している。
ただし、今回の知事選は、情報と人間の活動に関して、歴史に残るかもしれない。
それは、東京都知事選での石丸現象などを超えるものと言える。
人は、いったいどんな情報を信頼するのか。
古くは、多くの旅人の話を聴いている宿屋の主人が情報発信の主役だった。
その後、日本なら瓦版が重要視され、その後も新聞という紙媒体が主役だった。
そして、ラジオ、テレビの電波媒体に主役は移行してきた。
マスメディアの時代は長く続いたが、今や、ソーシャルメディア(SNS)に、その座が移行したことを如実に示す選挙だったと思う。
これは、先日NHK BSで特集したが、筒井康隆が数々の作品で示してきた「疑似イベント」の世界である。
あの番組では、最初に『東海道戦争』を取り上げた。
(BGMが♪Five Spot After Darkだったのは結構なのだが、その後、ジャズの名曲は流れなかったのは残念)
ダニエル・ブーアスティンの『幻影の時代』に刺激を受けた筒井康隆のこの作品は、東京が大阪に攻めて来る、という偽情報(フェイク)から、実際に東京と大阪の間で戦争が起こる、という内容。
同じ疑似イベントを根底によりスケールを大きくした『48億の妄想』では、マスコミによって日韓海戦が引き起こされる。
筒井康隆作品では「マスコミの世界で作られた虚構が事実と信じられてしまい」いろいろな騒動が勃発する。
そして「SNSの世界で作られた虚構が事実と信じられてしまう」というのが今の時代。
「疑似イベント」の作り手が、マスメディアからSNSに移行したのは、既成のマスメディアへの不信が背景にある。
SNSの世界を信じるネット市民の多くが、既成メディア≒既得権益者というイメージを持ち、メディアが攻撃する対象を被害者とみなす傾向がある。
もちろん、その正否は、個別に確認しなければならないのだが、いったん、拡散したイメージは、筒井康隆が描いたように、戦争を引き起こすまでの力を持ちかねない。
日本ファクトチェックセンター(JFC)のサイトで、今回の兵庫県知事選挙についての分析的な記事があった。
「日本ファクトチャックセンター(JFC)」サイトの該当ページ
斎藤候補を支援するSNSのなかでも「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志によるYouTubeの影響力は大きかった。
彼は「テレビや大手新聞は知事がパワハラしていたことについて、何の根拠もなく噂話で報じている」と述べている。
JFCは、11月15日にファクトチェック結果として、こう書いている。画像を含めて引用。
兵庫県議会に不信任を議決され、失職した斎藤元彦前知事がパワハラをしていなかったとの主張が拡散していますが、根拠不明です。兵庫県職員約9700人へのアンケートでは、斎藤氏のパワハラを見聞きした人が4割を超えました。本人は厳しい叱責をしたことなどを認め、「必要な指導だと思っていたが、不快に思った人がいれば心からお詫びしたい」と謝罪しています。
こんな、少し冷静になって確認すれば分かることでも、すでに「既成メディアvs.SNS」「既成メディア≒既得権益者」という構図が出来上がってしまい、街角で一人、頭を下げ続ける斎藤候補に対し「既得権益に一人で闘う斎藤候補」というイメージが広がった。
斎藤候補は、三年前の選挙で自民と維新の推薦を受けて当選し、既得権益者側であったことは明らかなのに。
マスメディアは、選挙期間中は、「中立」「公平」という言葉に縛られ、特定候補について偏った報道ができない、あるいはやりずらいのをいいことに、SNSの斎藤支持側は、やりたい放題だった。。
「当選すると外国人の地方参政権が成立する」「外国人参政権推進派」という稲村候補に対するSNSでの攻撃も酷かったが、残念ながら、自身のwebサイトで反論するだけでは駄目、という状況になっていた。
あらためて、斎藤県政で何があったのか、確認したい。
東京新聞の7月17日の記事から。
東京新聞の該当記事
◆頭ごなしに「うそ八百」「公務員失格」
発端となったのは、元県西播磨県民局長(60)が斎藤氏のパワハラなどを指摘した内部告発だ。退職前の3月中旬、疑惑7項目を挙げた文書を県議や報道機関に配布。元局長の告発文書によれば、「おねだり体質は県庁内でも有名」として物品を業者から譲り受けたことや、出張先の施設のエントランスから20メートルほど手前で車を降ろされた知事が歩かされ、職員を怒鳴り散らす出来事があったと訴えている。
県は同月27日に元局長の退職を取り消す人事を発表し、斎藤氏は定例会見で「事実無根が多々ある」「うそ八百」「公務員失格」と断じた。告発にあったコーヒーメーカーの授受を幹部の1人が4月に認めたものの、県は5月にこの文書を誹謗(ひぼう)中傷と認定。元局長を停職3カ月の懲戒処分にした。調査の中立性が疑われ6月に県議会が百条委を設置。元局長は今月19日に証人として出席予定だったが、7日に死亡しているのが見つかった。自殺とみられるという。
また、維新議員による恫喝めいた行為も、自殺に至る大きな要因だったと思われる。
AERA.dotの7月13日の記事から。
AERA.dotの該当記事
実は、6月14日の百条委員会の初会合で、維新の県議から、
「人事課による調査に対していろいろな疑念の意見が寄せられている。この審議過程を明らかにすることが必要だと思うので、人事課の調査、そこから得られた資料は全て開示をしていただきたい」
として、元局長の公用パソコンのデータすべての開示を要求する発言があった。
議会関係者がこう話す。
「元局長の懲戒処分を決めるとき、公用パソコンの中身を人事課が調査しましたが、私的なものも含まれていたようです。私的なことに公用パソコンを使用することはよくないですが、そこには内部告発とはまったく関係ないことも含まれる。それについては百条委員会で公開しないでほしいという申し入れでした。元局長の耳には、維新がすべての開示を求めているという情報も入っていたと思います」
また、複数の県議や県職員によれば、同じころ、維新の県議から、
「元局長をつるし上げてやる」
といった発言を聞いたという証言もあった。
斎藤知事は2021年の知事選で維新の推薦を受けた。大阪府の吉村洋文知事が何度も応援に入ったことも功を奏して当選。維新は県政与党として斎藤知事を支え、知事の疑惑を調べることになる百条委員会の設置については、自民の大半の県議が賛成にまわった一方、維新は反対した。
こういった問題を、選挙期間を過ぎた今、マスメディアは、また報道するのだろうか。
また、この選挙を契機に、SNSの負の側面についての論議が活発になるのだろうか。
私には、そう思えない。
75日も待たずに、また、この選挙の熱は収まり、新たな日常を迎えるのだろう。
どうあがいても、ネットの時代である。
あくまで、自分自身の目と頭、感性で、一人一人が情報の目利きにならないといけない、そんな時代になった。
そして、SNSで情報を発信する側にもいる者たちは、フェイクをたれ流すネット住民に、断固として抗議しなければならないと思う。
拝読しながら、若きオーソン・ウェルズのラジオドラマ『宇宙戦争』が引き起こしたパニックのことを
何十年ぶりかに思い出しました。
聴取者が信じてパニックになった、あの有名なラジオドラマですね。
今、テレビやラジオでは同じようなことは、まず起こらないと思います。
しかし、SNSの場合は、ありえるかもしれません。

