哲学なき、岸田政権のエネルギー政策。
2024年 05月 16日
昨日、「エネルギー基本計画」の見直しのための会議が開かれた。
東京新聞から、岸田内閣の原発回帰をまとめた表を含め、引用する。
東京新聞の該当記
原発推進派を集めて「エネルギー基本計画」議論スタート 「関係者だけで決めるのか」…批判に政府の反論は?
2024年5月16日 06時00分
経済産業省は15日、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長・隅修三東京海上日動火災保険相談役、委員16人)を開き、「エネルギー基本計画(エネ基)」を見直す議論を始めた。岸田文雄首相は、福島第1原発事故後は封印してきた原発の新増設などを進める方針に大転換、新計画に明記するかが焦点となる。推進派が大半を占める分科会の委員から早速、原発推進への回帰を求める意見が上がり、新計画が後押しする恐れがある。(山中正義)
エネルギー基本計画
エネルギー政策の中長期的な方向性を示す国の指針。エネルギー政策基本法
に基づいている。2003年10月に最初の計画が閣議決定された。およそ3年
ごとに見直され、政府が目標に掲げる50年までの温室効果ガス排出ゼロを
踏まえた電源構成などが示される。21年10月に閣議決定された現行の第6次
計画では火力41%、再生可能エネルギー36〜38%、原発20〜22%、
水素・アンモニア1%。
◆資源エネルギー庁「バランスのとれた委員構成だ」と反論
エネ基は3年をめどに改定。政府は新計画を本年度内に決める方針を示している。初日から「大量の電気を安定供給できる」(黒崎健・京都大複合原子力科学研究所所長)など、原発の再稼働や新増設を求める声が相次いだ。欠席した委員の杉本達治・福井県知事も「将来の原子力の必要な規模とその確保に向けた道筋など原子力の将来像をより明確にする必要がある」との意見書を出した。
議論の行方に影響する委員構成を巡っては、原発推進の委員に偏っているとの指摘があり、若者らでつくる環境活動団体が15日、経産省前で多様な意見を取り入れるよう訴えた。これに対し、資源エネルギー庁の担当者は「幅広いテーマを審議するのにふさわしい学識経験者や専門家が参加している。バランスのとれた委員構成だ」と反論した。
◆現行計画「原発依存度は低減」 → 岸田政権「最大限活用」
2021年10月に策定した現行計画では、30年度の電源構成の目標を示し、うち原発は20〜22%を占める。「可能な限り(原発)依存度を低減する」と明記し、増設やリプレース(建て替え)を進める文言は盛り込まれていない。
だが、21年10月に発足した岸田政権は現行計画を反故(ほご)にするかのように、11年の東日本大震災前の原発推進に回帰している。22年6月に閣議決定した政府の経済財政運営の指針「骨太方針」でも、原発事故後では初めて「最大限活用する」と明記した。
2011年の震災と原発事故を契機に、この国は、大きくエネルギー計画を変更せざるを得なかった。
事故の危険性、核のゴミ処理問題、すぐには止められないという原発への依存を減らし、再生可能エネルギーを中心にしようと決めていたはずだ。
しかし、たった三年前の計画さえ変えて、原発依存度をもっと上げようとしている。
経団連を中心にした原子力村、そして、企業献金や選挙での支援などでその原子力村に頼る自民党が、私利私欲のために原発依存度を上げようとしているとしか思えない。
原発を稼働させることで、再エネの出力制御、という問題も発生している。
せっかく再エネによる電力が増えているのに、総量として電力の需要を超える場合、出力制御を余儀なくされている。
どんな順番で制御するのかと言うと、まず二酸化炭素(CO2)の排出量が多く出力を上げ下げしやすい火力を減らして余った電気を他の地域に送る。
次にバイオマス、太陽光・風力の順で再エネを抑える。
しかし、出力を簡単に調整できない原発の制御は、最後になる。
つまり、それは、簡単には止められない原発の構造的な問題に依存している。
回復能力の高いレジリエントな社会を目指すのなら、柔軟に環境変化に適合できる仕組みが必要だ。
だから、まず、危険でかつ融通のきかない原発を減らし、火力も減らしていき、再エネをもっと増やすべきなのである。
中核に再生エネルギーを位置づけることこそが、重要なのである。
関連する4月の東京新聞の記事から、図と『原発のコスト』などの著書がある龍谷大学大島固一教授の言葉を引用する。
東京新聞の該当記事


龍谷大の大島堅一教授(環境経済学)は「今の電力システムは原発に有利なルールになっている」と指摘。「出力制御など再エネの普及を制約するルールを改め、電力システムを再エネ中心に構築し直すことが必要だ」と話している。
原発は止められないから、余りそうなら、火力や再エネの出力を制御する。
そして、電力会社は、再エネによる電力の購入を減らす。
この悪循環により、再エネで電力を供給しようとする事業者や人々を苦しめている。
これって、どう考えてもおかしいでしょう。
岸田はGXという言葉で胡麻化して、原発再稼働と増設を企てているが、とんでもないことだ。
原発は決してクリーンなエネルギーではない。
放射性廃棄物(核のゴミ)の処理なども含めたコストは、再エネよりも高い。
ウラン採掘から輸送、補助電源としての火力の必要性など総合的に考えて、原発はCO2を増やしている。
加えて、稼働させればさせるほど、何十万年もの管理が必要となる核のゴミが増える。
さらに加えて、ウランやプルトニウムは核兵器の材料であるから、テロ攻撃のリスクもある。
何一つ、国民の生活にとって有益なことはなく、生命と精神の安全を脅かす原発を擁護しようとするのは、なぜか。
そこには、哲学などない。
あるのは、原子力村と政治家の、私利私欲なのだ。
経産省資源エネルギー庁のサイトから、「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会」のメンバーを確認する。
資源エネルギー庁サイトの該当ページ
総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会
委員名簿
分科会長
隅 修三 東京海上日動火災保険株式会社 相談役
委 員
伊藤 麻美 日本電鍍工業株式会社 代表取締役
遠藤 典子 学校法人早稲田大学 研究院教授
工藤 禎子 株式会社三井住友銀行 取締役兼副頭取執行役員
黒崎 健 国立大学法人京都大学複合原子力科学研究所 所長・教授
河野 康子 一般財団法人日本消費者協会 理事
小堀 秀毅 旭化成株式会社 取締役会長
澤田 純 日本電信電話株式会社 代表取締役会長
杉本 達治 福井県知事
高村 ゆかり 国立大学法人東京大学未来ビジョン研究センター 教授
武田 洋子 株式会社三菱総合研究所 執行役員(兼)研究理事 シンクタンク部門長
田辺 新一 学校法人早稲田大学理工学術院創造理工学部 教授
寺澤 達也 一般財団法人日本エネルギー経済研究所 理事長
橋本 英二 日本製鉄株式会社 代表取締役会長兼CEO
村上 千里 公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 理事
山内 弘隆 国立大学法人一橋大学 名誉教授
(計 16 名)
この中で、原発擁護派ではないだろうと思えるのは、日本消費者協会の河野康子、日本消費生活アドバイザーの村上千里ぐらいではなかろうか。
『原子力の哲学』から紹介したように、ハンナ・アーレントは、核戦争に反対する最大の理由を、公的領域(=世界)の自分とは異なる考え、意見を持つ他者の存在を消し去るからと主張した。
上記の顔ぶれで、果たして、異なる考え、意見を元に議論することなどが可能なのだろうか。
何より、長期的な国家のビジョンを元にした議論にはなりそうにない。
ハンナ・アーレントは、私的領域における利害への執着を捨てて、勇気を出し、生命を賭けて参加するのが公的領域であると説いた。
そのような勇気、覚悟をもってこの会議に臨んでいる人はいるのだろうか。
公的領域における他者の存在を認め、異なる意見を聞く力を持つ者こそ、アテネのポリス以降の、市民なのである。
岸田政権を含む原子力村は、利害に執着するからこそ、原発回帰を進めようとしている。
異なる意見を「聞く力」など、持ち合わせていない。
岸田の「聞く力」は、自分にとって都合の良い相手だけに発揮される。
それは、とても、アーレントの言う公的領域での市民の姿とは言えない。
哲学なきエネルギー計画では、国民を幸福にすることはできない。

