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『春は、出会いと別れの季節』ー「愛って、なに?」 


 愛って、なに?

 駅の掃除の最初の日、浅川、斉藤と一緒に我が家に来た和美が、姉か兄が買っただろう、ザ・ロネッツの♪Be My Babyを選んで聞いていた時、母が店から中に入って来た。

「あら、浅川君と斉藤君だけじゃなかったんだね」
 と母が言うと、和美が挨拶した。
 母が、
「あんたが、悪がきを追い散らした和美ちゃんだ」
 と言ってしまった時は、後の祭り。

 和美が、私を睨む。
 
 母が、
「あっ、これ、内緒だったっけ」
 と苦笑いしたので、私は、
「いや、その、元気な転校生が来た、って言っただけだよ」
 と胡麻化したが、和美は、
「ええ、そうです。男の子なんかに負けない和美です」
 と言うのを聞いて、母も、男トリオも笑ってその場は、なんとかおさまった。

 母は、家の中に何かを取りにきただけで、
「ゆっくりしてってね。冷蔵庫にジュースもあるから」
 と言って、すぐ店に戻って行った。

 私は、オレンジジュースを四本冷蔵庫から出して、彼らに渡した。
 
 ジュースを飲みながら、和美が言う。
「なんで、私、女に生まれたのかなぁ」

 男トリオは、なんとも答えられない。

「やっぱり、男の方が得だよね」

 また、三バカは無言。

 それから、私はブラザース・フォアのLPをかけたが、和美の心には、それほど響かなかったようだ。

 しばらくして、三人は帰った。


 翌週から、日曜の駅の掃除は、10時からに変わった。

 それは、「鉄腕アトム」が、札幌テレビ(STV)で9時から9時半まで放送されるからだった。
 当時の北海道は、TBS系の北海道放送(HBC)と日本テレビ系のSTVの民放二局しかなく、フジテレビが土曜夜に放送していた「鉄腕アトム」は、STVで日曜朝だったのだ。

 ということで、掃除の後にはすぐお昼になるので、浅川、斉藤、そして和美も我が家に寄ることはなくなった。

 しかし、和美は、学校が半ドンの土曜、私が野球や浅川、斉藤などと遊びに行かない時、彼女の家でお昼ご飯を食べた後、三、四回、我が家にレコードを聞きに来た。

 ブラザーズ・フォアはそれほどはまらなかったが、ピーター・ポール・アンド・マリーは好きになったようだ。

 女性ボーカルが、とにかく好きなのだった。
 

 和美の訪問は、夏休みになって途切れ、それからは、来なくなった。
 聞きたいレコードがなくなったのか、あるいは、親に咎められでもしたのか、分からない。

 10月になり、和美は、女子のリーダー的存在になり、副学級委員長になった。
 私は、委員長のままだった。

 話す機会が増えると、彼女の頭の良さ、そして、他人への気遣いなどが、よく分かるようになった。

 そして、私は、彼女が好きになった。

 10歳の初恋、だったと思う。

 ある日、久しぶりに彼女が我が家を訪れた。
 クラスのことで、何か相談ごとがあったと思うが、何かは忘れた。

 話が終わり、私が、
「久しぶりにレコード聞く?」
 と言うと、
「そうしようかっ」
 と和美がレコードをかけ始めた。

 あのロネッツの♪Be My Babyや、シルヴィー・バルタンの♪アイドルを探せ、とか、コニー・フランシスの歌など。

 私は、何かこれまで彼女が聞いたことのないレコードで聞かせたいものを、探した。

 そして、一枚のシングルを選んだ。

 私が、
「これもいいよ」
 と、聞かせたのが、ピーター・アンド・ゴードンの♪愛なき世界、だった。

『春は、出会いと別れの季節』ー「愛って、なに?」 _e0337777_19120467.png


 当時ピーター・アッシャーの妹と付き合っていたポール・マッカートニーが彼らに贈った歌で、前の年、1964年の大ヒット曲だ。
 姉がシングルを買ってきて、私が好きになった歌の一つだった。
 
 私がターンテーブルに針を落とし、曲が流れた。



 しばらくきいていた和美が、
「これ、いいね」
 と言ったので、ほっとした。

 聞き終わって、和美が言った。
「愛ってなんなんだろうね。恋とは違うんだろうか」
 私は、あまりに難しい問いかけに、言葉が詰まった。

「好きと恋とも違うのかな」
 と聞くから、これにも、無言だった。
 すると、和美は、
「恋や愛のことも、これから、一緒に勉強しようね」
 と言った。

 私は、その意味がよく呑み込めなかった。

 黙っていると、
「そろそろ帰ろっ」
 と帰って行った。

 
 そんなことがあってから、和美が我が家に来ることは、途絶えた。

 
 その和美と、5年、6年はクラスが変わり、私が和美と会うのは、ほぼ、日曜の駅の掃除だけになっていった。

 今、思うと、同じクラスになった智子と仲良くしている様子に、和美は何か感じるものがあったのかもしれない。


 そして、時は流れ、卒業する、あの春を迎えたのだ。
 

Commented by saheizi-inokori at 2024-01-31 10:50
みんな懐かしい曲です。
真空管ラジオで聴きました。
Commented by kogotokoubei at 2024-01-31 16:01
>佐平次さんへ

私は姉や兄の影響で、上の世代の歌をよく聞きました。
1960年代のポップスは、いいですね。
ジャズは、1950年代が好きですが。
小説のようなもの、を書き始めて、あらためて古い歌を聞くようになりました。
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by kogotokoubei | 2024-01-30 20:54 | 『春は、出会いと別れの季節』 | Trackback | Comments(2)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛
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