映画「枯れ葉」について(5)
2024年 01月 14日
アキ・カウリスマキ監督の「枯れ葉」の最終五回目。
こちらが、公式サイト。
映画「枯れ葉」公式サイト
パンフレット。

予告編。
スタッフとキャスト。
<主なスタッフ>
□監督 アキ・カウリスマキ
□脚本 アキ・カウリスマキ
□助監督 エーヴィ・カレイネン
□撮影 テイモ・サルミネン
□照明 オッリ・ヴァルヤ
□美術 ヴィッシ・グロンルース
□衣装 ティーナ・カウカネン
□音響 ピェトゥ・コルホネン
□編集 サム・ヘイッキラ
□プロデューサー
アキ・カウリスマキ、ミーシャ・ヤーリ、マーク・ルヴォフ、ラインハルト・ブルンディヒ
<主なキャストと役名>
□アルマ・プウスティ:アンサ
□ユッシ・ヴァタネン:ホラッパ
□ヤンネ・ヒューティアイネン:フオタリ
□スップ・コイヴ:リーサ
□マッティ・オンニスマー:板金工場長
□サイモン・アルバズーン:ナットカフェ店員
□マルッティ・スオサロ:ラウニオ
□アルマ:犬のチャップリン
□サカリ・クオスマネン:ホステルの客
□マリア・ヘイスカネン:看護師長
□アリナ・トムニコフ:看護師
あらすじの題を確認。
(1)スーパーで働くアンサとホラッパとの出会い
(2)板金工場で働くホラッパ
(3)アンサの解雇
(4)トラムの停車場で酔いつぶれているホラッパ
(5)アンサのパブでの仕事、そして、ホラッパとの再会
(6)ホラッパの失職
(7)映画館前での再会
(8)二人の食事
(9)ホラッパ再び解雇、ある歌との出会い
(10)アンサ、チャップリンと出会う
(11)ホラッパの断酒とアンサへの電話
(12)ホラッパの事故、待つアンサ
(13)フオタリからの知らせ
(14)入院中のホラッパ、アンサの見舞い
(15)ホラッパ退院、ラスト
では、この映画の魅力、感想など。
(A)不器用な男と女の愛の物語
この映画は、愛の物語であるのは、言うまでもない。
その主人公たちは、必ずしも恵まれた環境にいるとはいえない。
ホラッパには定住する家もない。
自業自得ではあるが、アルコールを手放すことができず、立て続けに仕事を失ってしまう。
アンサも、理不尽な理由でスーパーを解雇され、次のパブの仕事も、経営者の犯罪により続けられなくなった。
その後、女性には過酷とも思われる鉄工所の肉体労働に従事。
その二人が、休みの日の息抜きであるカラオケで出会い、お互いを意識しながらも、なかなかすんなりとこの恋は実りそうになかった。
しかし、天は、そんな二人を見捨てなかった。
最初の再会のきっかけは、アンサが仕事を失ったホラッパの行きつけのパブであった。
せっかくの夕食の後に別れ、その後の再会は、ホラッパの入院先。
まさに、災い転じて福、という筋書きだ。
人は、一人では生きていけない。
二人は、お互いを必要としていたのだ。
しかし、あまりにも不器用な二人は、その思いを訴えることができないできた。
そんな二人が、ほとんど大げさな感情表現をしない中で、チャップリンと一緒に退院するホラッパを迎えに行ったアンサのウインクが、実に印象的だった。
ラストシーン、観る者は、なんとも言えない幸福感を味わうことができる。
(B)労働者階級への応援歌
一回目の記事に書いたが、この映画を観て、耳に響いてきた歌が、♪Working Class Heroだった。
ジョン・レノンがソロになってから最初のアルバム「ジョンの魂(John Lennon/Plastic Ono Band)」に収録されている曲。
1970年12月リリースのアルバムからは、♪Motherが有名だ。
♪Working Class Heroは、多くの人にカバーされているが、その中では、マリアンヌ・フェイスフルのアルバム「Broken English」収録のものが好きだ。
ジョン・レノンの思いは、より政治的なのかもしれないが、映画を観終わってから、マリアンヌの歌が耳で響いていた。
この映画は、間違いなく、労働者階級の物語である。
それは、アキ・カウリスマキという監督が、これまで継続してテーマとしてきたものらしい。
英雄ではなく、労働者階級の主人公としてのヒーロー、ヒロインを描くこの映画は、決して、平穏な日常ばかりを映し出すことはしない。
とはいえ、ほぼ低辺といえる非正規労働者にとっては、十分にありうることが描かれている。
日本だって、国民の幸福度が世界一位というフィンランドだって、安定した仕事に恵まれない人は、決して少なくない。
まさに、これは、厳しい状況で働く人たちへの、応援歌だ。
幸福は、お金では買えない、ということを、しみじみと訴える映画である。
(C)現代文明とは無縁の生活が訴えること
アンサの部屋には、テレビがない。
ラジオからは、ロシアのウクライナ侵攻のニュースが流れているから、間違いなく現代だ。
しかし、アンサ、ホラッパの生活は、現代文明からは無縁と言える。
アンサとホラッパとの連絡は、紙に書いたメモであったり、電話であり、SNSなどは登場しない。
これは、「PERFECT DAYS」の平山の生活を彷彿とさせる。
たしかに、彼らの生活は、一般的には、不便と言えるのかもしえない。
しかし、本当に、「便利」とか「より良い生活」のためと広告が訴える文明の利器は必要なのか、ということを考えさせてくれる。
(D)音楽による効果大
二人の出会いがカラオケであるということも含め、この映画では音楽が効果的に使われている。
冒頭、アンサがラジオから聞こえるロシアのウクライナ侵攻のニュースのチャンネルを変えて聞こえるのが♪竹田の子守歌であるのは、日本人なら皆、驚くに違いない。
歌い手は、カウリスマキの「ラヴィ・ド・ボエーム」のエンディングでも♪雪の降る街を歌う篠原敏武。
パンフレットによると、篠原敏武は、ヘルシンキから車で1時間ほどのカルッキラ在住でカウリスマキのご近所らしい。
すでに、カウリスマキのプロデュースで音楽CDを3枚発売しており、フィンランド文学の翻訳者でもあるとのこと。
カウリスマキの、小津など日本映画、日本文化へのリスペクトの延長戦にあるのかと思うが、被差別部落問題がかかわる♪竹田の子守歌を選ぶところが、カウリスマキならではなのだろう。
対照的な音楽は、ホラッパが、フオタリと一緒にカラオケに行く際の曲♪Get Onだ。
1970年代から80年代に活動していたフィンランドのバンド、THE HURRIGANESの曲。
さあ、気晴らしにカラオケへ行くぞ、という場面にぴったりの軽快なBGMは、途中からカラオケで歌う客につながっていた。
また、酒で仕事を立て続けに失ったホラッパの転機となった、カラオケでのマウステテゥトットの♪悲しみに生まれ、失望を身にまとう、は、実に刺激的な歌である。
カウリスマキが大好きな姉妹の存在も大きい。
チャイコフスキー「交響曲第6番ロ短調「悲愴」」も、効果的に流れる。
そして、ラストシーンでの♪枯れ葉、は、これしかない、という曲。
(E)俳優の魅力
アンサとホラッパ、主役の二人はもちろん、素晴らしい。
また、フオタリ、リーサという、主役の友人たちを演じる俳優さんも、好演。
その他の脇役陣も、パブの酔っ払い客を含め、良かった。
そして、忘れてはならないのは、チャップリンを演じたアルマである。
同じような時期に観た「PERFECT DAYS」と「枯れ葉」は、どちらも、アカデミー賞外国語長編映画賞の最終候補15作に残った。
どちらも、現代でありながら、1960年代か1970年代かと思わせるような暮らしが描かれている。
この二つの映画は、現代社会の様々な歪を、あらためて見つめ直させてくれる。
そして、何より、幸せって何、ということを考えさせてくれる。
