映画「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」(8)
2023年 11月 03日
映画「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の八回目。
こちらが公式サイト。
公式サイト
原作のAmazonのページから引用。

デイヴィッド・グラン著『花殺し月の殺人ーインディアン連続怪死事件とFBIの誕生』
1920年代、禁酒法時代のアメリカ南部オクラホマ州。先住民オセージ族が「花殺しの月の頃」と呼ぶ5月のある夜に起きた2件の殺人。それは、オセージ族とその関係者20数人が、相次いで不審死を遂げる連続殺人事件の幕開けだった―。私立探偵や地元当局が解決に手をこまねくなか、のちのFBI長官J・エドガー・フーヴァーは、テキサス・レンジャー出身の特別捜査官トム・ホワイトに命じ、現地で捜査に当たらせるが、解明は困難を極める。石油利権と人種差別が複雑に絡みあう大がかりな陰謀の真相は?米国史の最暗部に迫り、主要メディアで絶賛された犯罪ノンフィクション。アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)受賞!
ということで、エドガー賞受賞作の映画化。
なお題の「花殺し月」とは、それまでに咲いていた小さな花が、5月に生えてきた大きな草や花によって駆逐されてしまうため、オセージ族は5月を、フラワー・キラー・ムーン、花殺し月と呼ぶことから。
単に「フラワームーン」は、5月の満月のこと。
落語『百年目』で、旦那が番頭を呼んで語る、栴檀と南縁草との関係とは違うが、大きな草花と小さな草花という関係においては、共通した自然の教えを伝えているように思う。
観終わってパンフレットを買おうと思ったのだが、作られていないとのこと。
スタッフ、キャストはWikipediaを元に記すことにする。
Wikipedia「キーラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
□主なスタッフ
〇監督マーティン・スコセッシ
〇脚本エリック・ロス、マーティン・スコセッシ
〇原作デヴィッド・グラン
〇製作レオナルド・ディカプリオ、ダン・フリードキン
エマ・ティリンジャー・コスコフ、マーティン・スコセッシ
ブラッドリー・トーマス
〇音楽ロビー・ロバートソン
〇撮影ロドリゴ・プリエト
〇編集セルマ・スクーンメイカー
□主なキャスト
〇アーネスト・バークハート - レオナルド・ディカプリオ
〇ウィリアム・ヘイル - ロバート・デ・ニーロ
〇モーリー・バークハート - リリー・グラッドストーン
〇ブライアン・バークハート - スコット・シェパード
〇ヘンリー・ローン - ウィリアム・ベロー
〇ヘンリー・グラマー - スタージル・シンプソン
〇アンナ・ブラウン - カーラ・ジェイド・メイヤーズ
〇トム・ホワイト - ジェシー・プレモンス
〇W・S・ハミルトン - ブレンダン・フレイザー
〇リジー・Q - タントゥー・カーディナル
〇ケルシー・モリソン - ルイス・キャンセルミ
〇ビル・スミス - ジェイソン・イズベル
〇リタ - ジャネー・コリンズ
〇ミニー - ジリアン・ディオン
〇リーワード検察官 - ジョン・リスゴー
〇ラジオ番組のプロデューサー - マーティン・スコセッシ
前回までに紹介したあらすじの題。
(1)オセージ族と石油
(2)アーネストがオクラホマへ
(3)すでに始まっていた虐殺
(4)オセージ族財産の白人による管理
(5)アーネストとモーリーの結婚
(6)アンナ・ブラウンの死
(7)モーリーが探偵を雇う
(8)キングと呼ばれる男
(9)私立探偵の調査
(10)ヘンリー・ローンの殺害
(11)私立探偵への暴行
(12)リジー逝去
(13)モーリーの注射
(14)モーリー、ワシントンD.C.へ
(15)フーヴァーが捜査員ホワイトを派遣
(16)リタとビル・スミス夫婦の死
(17)モーリーの入院
(18)ホワイトの捜査
(19)ヘイルとアーネストの逮捕
(20)裁判でのアーネスト
(21)リトル・アンナの死
(22)モーリーのアーネストへの質問
(23)収容所でのヘイルとアーネスト
(24)その後のことーラジオドラマとして
では、感想などを記したい。
もちろん、ネタバレ、なので、ご注意のほどを。
(A)埋もれていた史実発掘の価値
「福田村事件」と同じになってしまった。
時代も同じ1920年代に、かたや日本では朝鮮人や被差別部落出身者への差別と虐殺があったように、アメリカで先住民族への差別、そして虐殺があったという、多くの人が「なかったこと」にしたがる歴史を発掘した価値は大きい。
ただし、日本は、流言飛語に惑わされた、普通の人々の事件であるが、オクラホマは、石油資源を狙った根っからの悪党たちによる事件であったということ。
そして、そのオセージ族の人々が、日本の明治維新直後1872年に、それまで住んでいたカンザスを追われ、オクラホマの地に移り住んだというだけなら、これほどの被害には遭遇しなかっただろう。
オクラホマの居住地から、石油が噴き出したことから、富裕なインディアンが誕生し、その利権を周囲の白人が狙うことになった。
落語『夢金』で使われる言葉を思い出す。
「欲深き人の心と降る雪は、積もるにつれて道を忘るる」
この言葉は、まさしく、次に挙げるアーネストにあてはまる。
(B)モーリーとアーネスト夫婦中心に変更した脚本の魅力
すでに書いたように、グランの原作も、エリック・モスの最初の脚本も、主役はトム・ホワイトであり、ディカプリオはホワイトを演じる予定だった。
それが変更になった経緯について、映画に関するwebマガジン「FILMAGA」から引用する。
「FILMAGA」サイトの該当ページ
「(エリック・ロスによるシナリオは)オセージ族の核心に迫るものではなかった。オクラホマという、非常に激動的で危険な時代の文化や力学を法医学的見地から理解するというよりは、探偵の捜査のように感じられたんだ」
(レオナルド・ディカプリオのインタビューより抜粋)
そしてスコセッシは、ディカプリオの異議を全面に受け入れる。彼もまた、物語の焦点はミステリーではないと感じていた。
「『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』では、デイヴィッド・グランが見事に描写したストーリーを、私は限界まで追求した。エリック・ロスと私は、この作品が警察ドラマになりつつあるように感じていたよ。(中略)そうしたら、レオに “物語の核心はどこにあるんだ?”と聞かれたんだ。私は、アーネストとモリーのラブストーリーにこそ核心があると言った。でもそこに焦点を当てると、何年も取り組んできた脚本をひっくり返さなければならなくなる。だから脚本を完全に作り直したんだ」
(マーティン・スコセッシへのインタビューより抜粋)
ディカプリオの考えはよく分かる。
私も、たまたま読むことができた英文原作で、フーヴァーやホワイトに力点を置いた内容に、いわゆる勧善懲悪的な内容を感じていた。
正義が悪を暴き罰する、という内容でも、訴えられるものはあるだろう。
しかし、そうすると、あの時代のオクラホマのオセージ族の生活、文化などが希薄になる恐れがある。
スコセッシとロスの脚本の作り直しは、無駄ではなかった。
モーリーとアーネストの息遣いが伝わる内容となった。
最初は、アーネストは純粋にモーリーを愛していたはずだ。
しかし、ヘイルからの悪魔のささやきに逡巡しながらも従っているうちに、後戻りできなくなった。
アーネストは、ヘイルのような根っからの悪ではないはず。
どこかで、ヘイルの手先から離れる分岐点もあったに違いない。
しかし、ヘイルと同様に、石油利権を欲する立場で悪事に加担してしまった。
そこからは、まさに悪人アーネスト。
しかし、リトル・アンナの死、モーリーの訪問を契機に、彼は真実を語る決意をする。
アーネストの変貌する姿だけでも、この映画を見る価値があると思う。
「映画.com」で、スコセッシやディカプリオの特別映像が確認できる。
「映画.com」サイトの該当ページ
ご興味のある方はご覧のほどを。
(C)俳優の魅力
上述した、モーリーとアーネスト夫婦を演じる二人の演技が、まず、出色だった。
特に、リリー・グラッドストーンの演技が素晴らしい。
たとえば、初めてアーネストを夕食に誘った際の会話で、アーネストから「肌の色がきれいだ。何色?」と聞かれ、
「My Color」と答える短いカットで、モーリーという女性の強さが見事に表現されていた。
姉、母、妹を次々と失う悲劇の中でも、気丈にふるまおうとする姿も印象的だ。
また、アーネスト役のディカプリオも、難しい役をしっかりこなしたように思う。
彼の発案での脚本書き直し、ということもあり、相当役作りには入れ込んだと察する。
ロバート・デ・ニーロは、オセージ族に見せる善人の顔と、本性である悪人の顔を演じ分け、英文原作でみた実際のヘイルを彷彿とさせた。
脇役たちも良かった。
アンナ・ブラウン役のカーラ・ジェイド・メイヤーズの名演は特筆されて良いだろう。
私のお気に入りは、ケルシー・モリソン 役のルイス・キャンセルミで、いかにも小物の悪党を演じきった。
リリーと同様にインディアンの血をひく母親リジー・Q役のタントゥー・カーディナルも、ほとんど科白がないのだが、次第に衰弱する姿が印象的だった。
戸籍上のモーリーの最初の夫ヘンリー・ローン役のウィリアム・ベローも、この映画に重要なアクセントを与えていた。
他にも、演技ではないかもしれないが、出演した先住民の人たちによって、この映画にリアリティが与えられた。
オセージ族の祈りの場面、祭りのシーンがあったからこそ、1920年代のオクラホマの映画になったのだと思う。
(D)ロビー・ロバートソンの音楽の魅力
この映画が、ロビー・ロバートソンの遺作と知った時は、結構辛かった。
8月に彼が亡くなったことは、実は知らなかったのだ。
もちろん、The Bandが好きだったこともある。
そして、何と言っても、結果として解散コンサートになった"The Last Waltz"が好きなのである。
携帯音楽プレーヤーには、全曲入っている。
1976年11月25日、サンフランシスコのウインターランド(Winterland Ballroom)で行った解散ライブは、2年後、マーティン・スコセッシにより映画化された。
ロバートソンとスコセッシは、その後も親しい関係にあり、「レイジング・ブル」や「アイリッシュマン」の音楽をロビーが担当することになる。
「MUSIC LIFE CLUB」のサイトにある記事を引用し、二人の写真があるので拝借。
「MUSUC LIFE CLUB」サイトの該当ページ
ロビー・ロバートソン(1943/7/5〜2023/8/9)は、ザ・バンドのギタリストとしてその名を知られる音楽界のレジェンド。カナダのトロントに生まれ、10代から音楽活動をはじめた。ボブ・ディランのバック・メンバーとなり、68年〈ザ・バンド〉として『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』でデビュー。「ザ・ウェイト」等名曲の数々を発表しアメリカのみならず世界中のロック・シーンに多大な影響を与えた。1976年11月25日サンフランシスコで行なわれた解散ライヴはスコセッシ監督により『ラスト・ワルツ』(78)として映画化された。1歳違いのスコセッシとの縁は深く、バンド解散後は作曲や音楽監修で『カーニー』『レイジング・ブル』『カジノ』『ハスラー2』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『アイリッシュマン』等を手掛け映画音楽の世界でも才能を発揮。1987年からはソロ・アルバムも制作をはじめ自身のルーツであるネイティヴ・アメリカンをテーマにした作品も発表している。
サントラ配信と同時に、スコセッシ監督とロビー・ロバートソン=“マーティとロビー” の写真も公開された。

ロビーには、カナディアン・インディアンの血が流れている。
この映画に、何か縁を感じていたのではなかろうか。
余談だが、"The Last Waltz"の終演後、出演者はジャパン・タウンの都ホテルに泊まった。
私は、30年ほど前にアメリカに出張し、都ホテルに泊まったのだが、バーに行き、「ここでニール・ヤングは、何を吸っていたのか」なんて思いながらビールを飲んだことを思い出す。
オセージ族が湧き出る石油の周りで踊る際の、ドラムのBGMなど、この映画は、ロビー・ロバートソンの音楽の魅力も、忘れてはならないだろう。
この記事で予告編を載せなかったのは、一つの記事でYoutubeは一つしか載せられないからなのだ。
最後に、ロビー・ロバートソンの歌う"Still Standing"をご紹介して、このシリーズお開きとしたい。
蛇足ながら、日本とアメリカでほぼ同じ時代に起きた、差別が招いた事件を発掘した映画、「福田村事件」と「キラーズ・オブ・フラワームーン」は、どちらも必見!
どっちが上か、なんて聞くのは野暮。
私の記事は、どちらも8回シリーズでした。
「映画.com」サイトの「福田村事件」上映館のページ
公式サイトの「キラーズ・オブ・フラワームーン」上映館のページ
長らくのお付き合い、誠にありがとうございます。
