鈴木エイト著『「山上徹也」とは何者だったのか』より(9)
2023年 08月 25日

鈴木エイト著『「山上徹也」とは何者だったのか』
鈴木エイト著『「山上徹也」とは何者だったのか』(講談社+α新書、7月19日初版)の九回目。
目次。
□はじめに
□序 章 風化する「統一教会問題」と「なかったことにしたい」勢力
□第一章 山上徹也と安倍晋三、鈴木エイトをつなぐ「奇妙な縁」
□第二章 銃撃事件後、逮捕された山上が供述した「恨み」
□第三章 鑑定留置中の山上徹也に送った手紙
□第四章 事件の約一週間前に山上徹也から届いていたメッセージ(前編)
□第五章 山上徹也に複雑な思いを抱く「宗教二世」たち
□第六章 事件の約一週間前に山上徹也から届いていたメッセージ(後編)
□第七章 山上徹也が抱えていた「マグマのような憤り」の正体
□第八章 山上徹也は事件前からSOSを発していた
□第九章 山上徹也が見た「絶望」の正体
□第十章 「統一教会の被害を食い止めた」ために罪が重くなる可能性
□おわりに
今回は、第二章 銃撃事件後、逮捕された山上が供述した「恨み」、からご紹介。
2022年7月8日11時31分、山上徹也は、手製の銃で安倍晋三を狙った。
山上の放った銃弾は元首相の首筋から心臓に達していた。心肺停止状態のままドクターヘリで救急搬送された安倍。だが懸命の蘇生措置も叶わず17時3分、搬送先の樫原市にある奈良県立医科大学附属病院で失血死による死亡が確認された。
私は、その時、北海道の実家に帰省していて、母と二人で、テレビのニュースで事件を知った。
その時、母が発した言葉は記さないが、今年7月に帰省した際、あれから一年というニュースを見た母は、同じ言葉を発した。
さて、鈴木エイトは、その時、どうしていたのか。
安倍晋三と統一教会との関係が闇に葬られてしまう
2022年7月8日午前、私は妻子と都内のホテルに宿泊するため自宅を出ようとしていた。そこに飛び込んできたのが「安倍晋三元首相が選挙応援中に散弾銃のようなもので銃撃され心配停止」という速報だった。咄嗟に思ったのは、これは政治的なイデオロギー対立や暴力団絡みの事件ではないかということだった。なぜなら安倍には暴力団に関するトラブルも報じられていたからだ。
だとすると、このまま安倍が亡くなってしまった場合、私が追及してきた安倍と統一教会との関係についての疑惑は完全に闇に葬られてしまうことになる。非業の死を遂げた著名な政治家とカルト絡みの醜聞など、それまでと同様に取るに足らないものとして片づけられてしまうだろう。私はある種の失意を抱えたまま、妻子を車に乗せ、大崎のホテルへ向かった。
運転しながら脳裏をよぎったのは、それまで自分が安倍晋三という人物を追い、たどってきた足跡だ。
2013年の参院選で肝いり候補者だった北村経夫への組織票支援を安倍首相が直接統一教会へ依頼したことを示した教団内部文書を入手してから、ずっと安倍と統一教会の関係を追ってきた。安倍だけではなく、政権ナンバー2だった菅義偉官房長官も北村を極秘に統一教会へ派遣するなど、官邸ぐるみでこのカルト教団と裏取引をしていたのではないかという重大な疑惑だ。
ジャーナリストの藤倉善郎が開設した『やや日刊カルト新聞』というニュースサイトにも副代表として参画し寄稿していたが、これほど大きな“政界とカルトの癒着問題”は何とか一般誌で世に問いたいと思った。そこで統一教会問題の取材で知り合った先輩ジャーナリストの石井謙一郎に頼み、寄稿させてくれる媒体を当たってもらった。だが「北村経夫は小物だから」などと、どこの媒体も快い返事をくれなかった。そんな中、唯一興味を示してくれたのが『週刊朝日』の森下香枝副編集長(当時)だった。
「面白い、やろう」
森下副編集長のその一言をきっかけに、2017年までに何本も同誌へ寄稿した。当初取材班のひとりとしてだったが、後には署名記事を書かせてもらった。
森下香枝は、『週刊文春』編集部時代、神戸連続児童殺傷事件で加害者である少年Aの両親の手記という大スクープを取り、和歌山毒物カレー事件や、猛毒トリカブトによる連続殺人で話題になった「埼玉・本庄保険金殺人事件」などでも、数々のスクープを飛ばした人物。
『週刊朝日』編集長を務めた後、現在は、朝日新聞の記者である。
こちらが、『やや日刊カルト新聞』のサイト。
『やや日刊カルト新聞』のサイト
引用を続ける。
その後も、多くの自民党国会議員が統一教会と関係を持ち続けてきたことや、選挙での教団票の差配、選挙運動員の派遣など様々な局面における安倍を中心とした政治家と同教団の関係などを追ってきた。
2018年に教団系政治組織・国際勝共連合が議員会館裏のザ・キャピトルホテル 東急で開催した創設50周年式典に多くの自民党国会議員が出席していたことを現地取材し、扶桑社系のウェブメディア『ハーバー・ビジネス・オンライン』に寄稿した。
同メディアへの寄稿には著述家・菅野完が尽力してくれた。氏の著書『日本会議の研究』も『ハーバー・ビジネス・オンライン』での連載がもとになっている。
その『ハーバー・ビジネス・オンライン』の高谷洋平編集長から、安倍政権と統一教会について書いてみないかと打診があり、2019年1月、それまでの経緯をまとめて『政界宗教汚染~安倍政権と問題教団の歪な共存関係』という連載企画を受け持つことになった。数年間、十数回にわたり過去の事象をまとめ寄稿したが、この連載記事はアクセスランキングで毎回1位になった。
その後起こった事件についても「番外編」などで書いた。諸事情によって『ハーバー・ビジネス・オンライン』の更新が2021年5月に止まるまで、20数回ほど連載した。『ハーバー・ビジネス・オンライン』での連載において、度重なる教団からの記事削除の仮処分申請や、政治家からの抗議にも屈せず闘ってくれた扶桑社には心から感謝している。
安倍晋三と統一教会の関係をさらに世に問う手段として、この連載をもとにした書籍の出版の道も探った。高谷編集長の推薦もあり、扶桑社での出版を目指したが、実現には至らなかった。そのためいくつかの出版社に企画書を提出したが、「政治家はすぐに失脚するから」「統一教会は“旬”ではない」など、
様々な理由で企画が通ることはなかった。大手出版社が募集する複数のノンフィクション賞にも応募したがリアクションはなく、最終選考にも残らなかった。
(中 略)
そんな状況の中、疑惑の本丸である安倍元首相が亡くなってしまうかもしれない。そんな緊急事態に、心中穏やかではなかった。
事件当日の正午過ぎに投稿したツイッターにはこう書いていた。
「安倍晋三元首相が奈良で選挙応援演説中に、背後から散弾銃で胸を撃たれ心配停止状態との報道。昨年の衆院選でも約20人のSPが警護したいたのに、何故筒状の物を持った不審人物を近付かせたのか。安倍の疑惑を追及してきたが、ここで亡くなってほしくない」
安倍心肺停止の速報時点では、鈴木エイトは、“政治的なイデオロギー対立や暴力団絡みの事件”と思っていた。
だから、自分が追いかけて来た統一教会と国会議員との歪んだ関係、なかでもその象徴的人物の安倍晋三が亡くなることは、追及すべき対象が消滅する危機、と思ったのである。
鈴木の記事を発表する場が減り、出版の目途も立たない時期だったための焦りもあったのだろう。
そんな中でも、貴重な発表の機会を提供してくれた、今は亡き『週刊朝日』の副編集長だった森下香枝は、昨年の事件後10月に、同誌で鈴木エイトについて記事を書いている。
AERA.dotで読むことができる。
AERA.dotの該当記事
一部引用する。
記事タイトルは、“鈴木エイト氏が手応えを感じた瞬間とは 元週刊朝日編集長が見た「のら系」ジャーナリストの覚悟”、である。
9年ほど前、エイトさんと出会い、週刊朝日で旧統一教会の問題を一緒に取材を始め、年に数本書いてもらうようになった。そのやりとりをしていた時、電話口で赤ん坊の泣き声やトンカントンカンと大工仕事をしているような音がよく聞こえた。理由を聞くと、書く仕事だけでは、食べられないので不動産業もやっているという。契約社員を辞めた後、金融機関などに資金を借り、個人で会社をつくり、競売物件を落とし、業者と一緒に安くリフォームし、賃貸収入や施設管理などで生計を立てた。
そのため、朝早く作業服を着てトラックで出て行くので私生活まで教団関係者に調べられ、「ジャーナリストじゃなくて大工」と吹聴されたこともある。5年前に旧統一教会がまいた「自称鈴木エイト氏のフェイクニュース拡散の意図とその手法について」と題された文書を今でも持っている。
週刊朝日にエイトさんが書いた記事は空想に基づくデマで、全国霊感商法対策弁護士連絡会と連携したフェイクニュースと断罪されていた。
個人攻撃を受け、記事が次第にメディアに載りにくくなったが、逆に燃えた。それならば、とツイッターを使って国会議員と教団の関係を自力で発信した。
「教団関係者などからタレ込み情報が寄せられるようになった。教団イベントに参加した政治家の写真をアップすると、名前など詳しい情報が提供されることもあり、手応えを感じた」
副業の不動産業は、本書では分らない鈴木エイトの逸話である。
もう、家のリフォームはせず、社会のリフォームのための活動に集中できているのかどうか。
昨年7月8日、逮捕後の山上徹也が何を語ったのかを、次回振り返る。
メディアは、伝えるべきことを伝えないという問題に加え、言葉の誤魔化しで権力に与している。
「処理水」は、「汚染水」あるいは「処理済汚染水」とすべきだ。
加えて、トリチウムのみ語られるが、「汚染水」には、他の放射性物質も残っている。
名前は「アルプス」だが、そこで出来る水は天然水ではない。
