マルチバースのマルチな魅力満載、映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(5)
2023年 03月 14日
帰宅し、ユウの散歩に行き、この映画の五回目、最終の記事だ。
それにしても、アカデミー賞の七冠には驚いた。
まだ見てはいないが、見るつもりの「フェイブルマンズ」が無冠とは。
公式サイトから引用する。
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」公式サイト
この内容は、終演後に買ったプログラムの文章と同じだ。

物語は、疲れ果てた主人公エヴリンの日常から始まる。経営するコインランドリーに監査が入り、国税局からイチャモンをつけられ、税金の申告をやり直さなければならなくなったのだ。故郷の中国からエヴリンの住むアメリカへやって来た父親は、相変わらず頑固で介護も大変。娘のジョイは元々反抗的な上に、恋人のベッキーの存在を理解しない母親に不満を抱いている。夫のウェイモンドは優しいが、優柔不断で頼りにならない。そんな中、国税庁で役人に絞られていると、突然夫が豹変。別の宇宙のウェイモンドだと名乗る彼はエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と宣告! まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ! カンフーの達人である別の宇宙の〈私〉の力を得たエヴリンの全宇宙を舞台にした闘いが幕を開ける——!
こちらが、予告編。
スタッフとキャストをご紹介。
キャストの紹介部分で、すでにネタバレになっているので、ご注意のほどを。
<スタッフ>
□脚本・監督 ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート
□製作 ジョー・ルッソ/アンソニー・ルッソ/マイク・ラロッカ
ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート/ジョナサン・ワン
□撮影 ラーキン・サイプル
□編集 ポール・ロジャーズ
□音楽 サン・ラックス
□衣装 シャーリー・クラタ
□VFXスーパーバイザー ザック・ストルツ
<キャスト>※役名:俳優名の順
□エヴリン・ワン:ミシェル・ヨー
中国からの移民でコインランドリーを経営する女性。マルチバースの他の世界では、女優、カンフーの達人、歌手、シェフなどさまざまなエヴリンが存在する。
□ジョイ・ワン / ジョブ・トゥパキ:ステファニー・スー
エヴリンとウェイモンドの娘。他のバースで、マルチバースを破壊しようとするジョブ・トゥパキでもある。
□ウェイモンド・ワン:キー・ホイ・クァン
エヴリンの夫。エヴリンの父ゴンゴンの反対を押し切って駆け落ちして結婚し渡米。善良で優しい人物だが、アルファ・バースのアルファ・ウェイモンドは、カンフーも体得しているたくましい人物。
□ゴンゴン:ジェームズ・ホン
エヴリンの厳しい父親。中国から春節パーティーに参加するためエヴリンの家にやって来た。高齢で車椅子に乗っている。アルファ・バースでは、頑強な闘士。
□ディアドラ・ボーベアドラ:ジェイミー・リー・カーティス
IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁。Internal Revenue Serviceの略。米国国税庁、とも言われる)の監察官。
不正を見抜くことが評価され、過去に何度も表彰され、トロフィーを飾っている。
別のバースでは、エヴリンとパートナーになっていたり、ジョブ・トゥパキの部下になっている。
□ベッキー・スリガー:タリー・メデル
ジョイのガールフレンド。エヴリンは、最初、ジョイとベッキーの関係を受け入れることができなかった。
前半三回の記事で紹介した「あらすじ」の見出しのみを並べる。
<第1章:Everything>
(1)パーティー準備や納税などで大変なエヴリン
(2)IRS訪問と用具室
(3)アルファ・ウェイモンドのカンフー
(4)エヴリンがバース・ジャンプ
(5)ジョブ・トゥパキ登場
(6)エヴリンの戦い
<第2章:Everywhere>
(7)「エブリシング・ベーグル」
(8)アルファバースの刺客との戦い
(9)ジョイの救出
<第3章:All at Once>
(10)IRS再び
この映画の魅力について、次のように三つ挙げ、一つめについて前回の記事を書いた。
(A)多様性を軸に家族愛を描く魅力
(B)アクションの魅力
(C)オマージュたっぷりな映画へのリスペクトの魅力
それでは、二つめの魅力について。
(B)アクションの魅力
この映画を見て思うことの一つは、監督の二人組ダニエルズが、香港カンフー映画が大好きなのだな、ということだ。
マルチバースという横軸に、香港カンフーというアクションの縦軸が交差して、空間的な重層感を持たせているし、もちろん、バース・ジャンプにより時間的な重層感もある。
だから、この映画、そのスピーディーな展開に幻惑されると、何が起こっているのか分からなくなる危険性もあるのだが、最初と最後に、元の宇宙(税金の宇宙)でしっかりつなぐことで、整合性が保たれているのだと思う。
では、そのアクションについて。
まず、(3)のアルファ・ウエィモンドが、ウェストポーチを使って、IRSの警備員たちをなぎ倒す場面がある。
演じるキー・ホン・クァンは、「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」(1984年)で、中国人少年ショート・ラウンド役や、「グーニーズ」(85)のデータ役を演じた後、数作映画に出演した後は、なかなか俳優としての出演に恵まれず、南カリフォルニア大学に進み、卒業後は「X-メン」(88)などの武術指導アシスタントや映画の助監督をして、チャンスを待っていた。
そして、本作のオーディションに挑戦しウェイモンド役を得た。
そういった背景もあり、クァンのアクションは、実に見事だ。
(6)や(8)の場面でのエヴリンのカンフー・アクションには圧倒される。
VFXの効果もあるが、警官や刺客たちをなぎ倒すスピーディーで華麗な演技は、さすが「グリーン・デイスティニー」(2000)などでも発揮した、鍛え上げられたアクション・スターの姿が、そこにある。
そして、その姿は、この映画における、別な宇宙のカンフー・スターと重なるところが、何とも心憎い演出だ。
また、(6)で、ディアドラが、別の宇宙でレスラーのパワーを得て、エヴリンに立ち向かって来る場面の、ジェイミー・リー・カーティスの演技も出色だ。
IRSの監察官との落差が、一層、その怖さを際立たせている。
アクションの中には、コメディとしての笑える演出も盛り込まれている。
作品賞受賞に一抹の不安があったのが、ジョブがヌンチャクの代わりにあれ(これは書きにくい^^)を使うことと、アルファバースからの刺客たちが、バース・ジャンプをする際に、奇妙な行為として行う、尻にトロフィーを差すことだった。
あのとんでもないシーンを演じたアンディ・リーとブライアン・リーの兄弟は、格闘シーンの振り付け担当なのだ。
エヴリンが、この二人と戦う場面が、下品なだけで終わらないのは、アクションにエッジが効いているからと言える。
ともかく、マルチバースというジェットコースター的な構成の中での、見事なアクションシーンが、この映画の大きな魅力であり、それを演じるキャストの力量を物語っている。
(C)オマージュたっぷりな映画へのリスペクトの魅力
三つめの魅力のキーワードは「オマージュ」。
似ているようで、「パロディ」とも「パクリ」とも違うのだ。
対象となる作品への尊敬(リスペクト)があることが、重要。
落語愛好家の方は、桂才賀による「カラオケ刑務所」のマクラを思い出す方もいるかな(^^)
まず、IRSビルのエレベーターの中で、アルファ・ウェイモンドがバース・ジャンプでやって来て、エヴリンに、用具室の場所を指示する場面は、「マトリックス」(99)へのオマージュということはすぐわかりくすっと笑えた。
「マトリックス」の電話ボックスの代わりが用具室である。どちらもバース・ジャンプする場所なのである。
監督の二人、ダニエルズは、「マトリックス」のファンであることを公言しており、ダニエル・クワンは「この作品は、僕たちなりの『マトリックス』への答えだ」と語っていることが、プログラムで紹介されている。
シェフの宇宙で、エヴリンの同僚が、ネズミではなくアライグマを頭に乗せているのは、「レミーのおいしいレストラン」(87)のオマージュ。とはいえ、私は、その映画は見ていないけどね。
エヴリンが映画スターの宇宙へバース・ジャンプして、夜の路地裏でウェイモンドと会う場面は、CSで見たことがあるウォン・カーウァイ監督『花様年華』(00)を思わせる。実は、キー・ホイ・クァンは、この作品の続編『2046』(04)の助監督を務めていた。内輪ネタ、とも言えるが、ダニエルズとしては、クァンへのリスペクトがあるように思う。
ホットドッグの宇宙では、エブリンもディアドラも指がソーセージになっているが、途中で挟まれるあの映像、類人猿が大きな石柱を囲んでプヨプヨしたソーセージの指で骨を砕こうとしているシーンは、もちろん「2001年宇宙の旅」(68)のオープニングだ。あれには、笑った。
プログラムには、他にも監督たちが着想を得た映画なども紹介されているが、割愛する。
ともかく、監督の二人は、映画が好きで好きで、好きな映画へのリスペクトから、この映画が出来上がったと私は思う。
アカデミー賞候補作をたくさんご覧になっている居残り会のIさんから、いくつか推奨作品を教えていただいた。
何とか時間をやりくりして見たいものだが、エブエブの上映回数が増えることで、他の作品の上映が終るようなこともありえる。
どの映画と縁があるのだろうか。
バース・ジャンプして、一挙に複数の映画を見る、なんてことはできないよね。
では、このシリーズは、お開き。
