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マルチバースのマルチな魅力満載、映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(4)

 アカデミー賞で、10部門11ノミネートだった。
 
 結果として、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞、助演男優賞、脚本賞、編集賞の7部門を受賞。

 圧倒的な存在感を示した。

 さて、拙ブログでこの映画の四回目。


 まず、公式サイトから引用する。
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」公式サイト

 なお、この内容は、終演後に買ったプログラムの文章と同じだ。

マルチバースのマルチな魅力満載、映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(4)_e0337777_09463643.jpg


物語は、疲れ果てた主人公エヴリンの日常から始まる。経営するコインランドリーに監査が入り、国税局からイチャモンをつけられ、税金の申告をやり直さなければならなくなったのだ。故郷の中国からエヴリンの住むアメリカへやって来た父親は、相変わらず頑固で介護も大変。娘のジョイは元々反抗的な上に、恋人のベッキーの存在を理解しない母親に不満を抱いている。夫のウェイモンドは優しいが、優柔不断で頼りにならない。そんな中、国税庁で役人に絞られていると、突然夫が豹変。別の宇宙のウェイモンドだと名乗る彼はエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と宣告! まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ! カンフーの達人である別の宇宙の〈私〉の力を得たエヴリンの全宇宙を舞台にした闘いが幕を開ける——!

 こちらが、予告編。



 スタッフとキャストをご紹介。

 キャストの紹介部分で、すでにネタバレになっているので、ご注意のほどを。

<スタッフ
□脚本・監督 ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート
□製作 ジョー・ルッソ/アンソニー・ルッソ/マイク・ラロッカ
    ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート/ジョナサン・ワン
□撮影 ラーキン・サイプル
□編集 ポール・ロジャーズ
□音楽 サン・ラックス
□衣装 シャーリー・クラタ
□VFXスーパーバイザー ザック・ストルツ

<キャスト>※役名:俳優名の順
□エヴリン・ワン:ミシェル・ヨー
中国からの移民でコインランドリーを経営する女性。マルチバースの他の世界では、女優、カンフーの達人、歌手、シェフなどさまざまなエヴリンが存在する。
□ジョイ・ワン / ジョブ・トゥパキ:ステファニー・スー
エヴリンとウェイモンドの娘。他のバースで、マルチバースを破壊しようとするジョブ・トゥパキでもある。
□ウェイモンド・ワン:キー・ホイ・クァン
エヴリンの夫。エヴリンの父ゴンゴンの反対を押し切って駆け落ちして結婚し渡米。善良で優しい人物だが、アルファ・バースのアルファ・ウェイモンドは、カンフーも体得しているたくましい人物。
□ゴンゴン:ジェームズ・ホン
エヴリンの厳しい父親。中国から春節パーティーに参加するためエヴリンの家にやって来た。高齢で車椅子に乗っている。アルファ・バースでは、頑強な闘士。
□ディアドラ・ボーベアドラ:ジェイミー・リー・カーティス
IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁。Internal Revenue Serviceの略。米国国税庁、とも言われる)の監察官。
不正を見抜くことが評価され、過去に何度も表彰され、トロフィーを飾っている。
別のバースでは、エヴリンとパートナーになっていたり、ジョブ・トゥパキの部下になっている。
□ベッキー・スリガー:タリー・メデル
ジョイのガールフレンド。エヴリンは、最初、ジョイとベッキーの関係を受け入れることができなかった。


 これまでの三回の記事で紹介した「あらすじ」の見出しのみを並べる。

<第1章:Everything>
(1)パーティー準備や納税などで大変なエヴリン
(2)IRS訪問と用具室
(3)アルファ・ウェイモンドのカンフー
(4)エヴリンがバース・ジャンプ
(5)ジョブ・トゥパキ登場
(6)エヴリンの戦い
<第2章:Everywhere>
(7)「エブリシング・ベーグル」
(8)アルファバースの刺客との戦い
(9)ジョイの救出
<第3章:All at Once>
(10)IRS再び

 この映画の魅力は、まさにマルチなのだが、大きく次のように記すことができるだろう。

(A)多様性を軸に家族愛を描く魅力
(B)アクションの魅力
(C)オマージュたっぷりな映画へのリスペクトの魅力

 この順番に、感想などを記したい。
 内容としては、あらすじの補足的な意味合いもある。

 なお、検索し、この映画の台本を見つけた。
'Everything Everywhere All At Once' Screenplay

 最終稿ではないだろうが、映画の筋書きや科白を全て覚えているわけではないので、この台本から適宜引用したい。


(A)多様性を軸に家族愛を描く魅力
 エヴリンにとって、彼女とウェイモンド、ジョイ、ゴンゴンとの関係は実に壊れやすい状況にあった。
 三人それぞれに、大きな不満、ストレスを抱くエヴリン。
 一緒にコインランドリーを経営するものの、ウェイモンドが頼りにならず、困った客の対応も、納税申告も、パーティの準備も何もかも自分がやらなくてはならない、という夫への不満。
 反抗期を迎え身勝手な上、同性を好きになってしまった娘ジョイへの不満。
 頑固でわがままで介護が必要な父ゴンゴンへの不満。

 しかし、エヴリンは、バース・ジャンプをすることで、この家族たちの別な姿、そして、自分が行った過ちを知ることになる。
 どんな宇宙でも、優しさを忘れないウェイモンドの姿を確認する。
 そして、マルチバースを混乱(カオス)に陥れようとするのが、自分がアルファバースで実験台にしたため精神に異常をきたし、虚無的になったジョイ(=ジョブ・トゥパキ)であったことを知る。
 アルファバースのアルファ・ゴンゴンは、マルチバースを救うために、戦士を統括する気丈な男であったし、危機一髪の場面では自分を救ってくれた。
 (8)の刺客との戦いで、最後にはウェイモンドの言葉を思い出し、彼らと戦うのではなく親切にすることを考え、相手が困っていることを取り除き、戦闘意欲をなくさせる、という場面で、私はウクライナ戦争のことを思っていた。
 (9)のジョイの救出場面、元の宇宙とすぐ近くに、ジョブが支配する宇宙がある。
 だから、コインランドリーとエブリシング・ベーグルの場面は並行して描かれている。
 
 ジョイを救い出す直前、印象的な二人の会話がある。

 台本から引用。
JOBU
That bagel is where we finally find peace Evelyn.
EVELYN
Stop calling me Evelyn!
I. AM. YOUR --------Mother!

 「ベーグルが、私達がやっと平和を発見できる場所なの、エヴリン」とジョイは言う。
 しかし、日常でも「お母さん」とは言わず「エヴリン」と名前で呼ぶジョイに、
 「エヴリンと呼ぶのはやめなさい。私はあなたの・・・・・・お母さんよ!」と言い切るエヴリン。

 しかし、ジョイはなおもエヴリンをベーグルへ引き込もうとする。
 竜巻のような風でベーグルに吸い込まれそうになるエヴリン。
 彼女は、様々なバースで善い行いをしながら、マルチバースのほころびを繕っていくのだが、その内容を台本から少し紹介したい。
 バース(UNIVERSE)の名前のみ太字にする。

118-2 CHEF UNIVERSE: EXT. STREET - Evelyn leaps off Chad and beckons him to get on her back.
CHAD (CHEF)
What are you doing?
EVELYN
Get on!
Chad jumps on her back. He pulls her hair and they are on their way. Evelyn screams as she pushes her body-
118-3 HOT DOG UNIVERSE: INT. APARTMENT - Evelyn and Deirdre circle
each other continuing the mating ritual.
118-4 MOVIE STAR UNIVERSE: EXT. BUSTLING STREET - Evelyn tearfully
pours her heart out to Waymond but we can’t hear her words.
118 ACTION UNIVERSE: Suddenly Evelyn and Jobu stop moving. Two robot arms are wrapped around Evelyn’s waist. What?
It’s Alpha Gong Gong pulling them away from the Bagel as well. Evelyn can’t believe her eyes.
118-5 TAXES UNIVERSE: INT. LAUNDROMAT
119.
GONG GONG
⼥朋友?好吧. (In Cantonese)
GONG GONG
Girlfriend? Hao ba.
BECKY
What? What did he say?
Becky is tearing up, she doesn't need words to understand.
ACTION UNIVERSE: INT. IRS 118 9TH FLOOR ATRIUM
ALPHA GONG GONG
I can't believe I'm doing this.
A bloody Waymond stumbles over and weakly tries to help as
well. The whole family is trying to drag Jobu away.
JOBU
Seriously...
118-6 ROCK UNIVERSE: Jobu Rock is approaching a cliff’s edge with
Evelyn rock on her tail-
JOBU ROCK
... can you please just...

 シェフの宇宙では、同僚の秘密を暴いていたエヴリンは、その秘密のアライグマを助けようとする。

 指がホットドッグのソーセージの宇宙では、パートナーのディアドラと和解する。
 エヴリンは、別な宇宙の自分を見ることで、娘のことを理解できるようになるのだ。

 アクションの宇宙では、ゴンゴンがロボットアームで、エヴリンを救おうとする。

 元の宇宙では、そのゴンゴンに、ジョイのパートナーである同性のベッキーを「恋人」と紹介する。
 ゴンゴンはそれを受け入れ、ベッキーはゴンゴンの車椅子を押してあげる。

 そして、アクションの宇宙では、血まみれのウェイモンドが、エヴリンを支え、ベーグルに入ろうとするジョイを引き出そうとする。

 なお、「岩の宇宙」の岩が、プログラムの表紙にもある。
 エヴリンの岩がジョイの岩に近づこうとして、ジョイが逃げて・・・というあたりは、なんとも可笑しい。

 さあ、クライマックスが近づいた。
 母と娘の和解の場面。

 あらすじで紹介したように、元の宇宙(税金の宇宙)での二人の会話はこんな感じだった。

ジョイ(車で去って行こうとする)
「この世界で意味のある時間なんてほとんどない・・・疲れちゃった。互いが傷つかないためにも行かせてほしい」
エヴリン(いったん諦めかけたエヴリンだがジョイの車に戻ってくる)
「その少ない時間でも一緒にいたい」
(ジョイを抱きしめるエヴリン。涙ぐむジョイ)

 ジョイが好きなように自分の人生を歩むことを認めたエヴリン。
 そして、そのエヴリンを、母親として受け入れたジョイ。

 まさに、マルチな多様な宇宙を見てきたエヴリンとジョイが、多様性を認めた上での和解と言えるだろう。

 
 最終章「All at Once」は、再び、エヴリンにとってもっとも悲惨な宇宙と思える「税金の宇宙」のIRSの場面だ。
 
 女優でもなく、アクションスターでもない世界。
 しかし、そういう世界で家族が力を合わせて懸命に生きることに、エヴリンは、そして、この映画の作者は意味を見出しているのだろう。

 人生の岐路で、さまざまな選択肢がある。
 そして、「あの時、こうしていれば」という思いは、誰にしてもあることだ。

 しかし、後悔先に立たず、である。
 今いる世界で、人にはそれぞれの性格や考え方があること、その違いを認めた上で助け合って生きることが大事と、この映画は伝えている。


 プログラムでは、監督・脚本のダニエルズのクワンは、こう語っている。
 「簡単に言えば、混沌の中で家族の大切さを学ぶ母親の話です」

 とはいえ、二人は、「どんな映画なのか説明を求められると、整理がついた今でもうまく答えられません」と笑う。


 最初、エヴリンは、ADHD(注意欠如・多動性障害)の女性という設定だったようだ。

 しかし、ADHDという症状を安易に扱っているのではないかと心配になったクワンは、深く調べた結果、自分にもADHDの要素があることに気づき、その後、セラピストに通い、正式にADHDと診断された。

 その結果、エヴリンを新しい視点で見ることができた、と語る。

 映画では、ADHDという言葉は登場しない。

 しかし、製作にあたる、そういった背景が、この映画がいかに多様性を求めることや、相手への思いやりが大事であるかを伝える映画になったと思う。

 派手なアクションやVFXの効果、また、そこまでやるかというお茶目で下品な演出に騙されてはいけない。

 なによりも、多様性を軸に家族愛を描いていること、それが、この映画の魅力だ。


 象徴的なこととして、冒頭の会話は、アメリカ映画でありながら、中国語なのである。

 主演女優賞と助演男優賞をアジア系俳優が受賞するというのも、多様性を重要視するアカデミー会員の思いが反映されたのかもしれない。


 次回は、他の魅力について。

Commented by tanatali3 at 2023-03-13 18:55
あぁ、そうでした、カミさんたちと外食をしていて、見逃しました。(笑)今年は作品を前もってあまり観ていないこともあり、だんだん熱が冷めてきたのかなぁ。いやいや、じっくり観て、感想はその後にします。
幸兵衛さん、ご明察の通りでしたね。
Commented by kogotokoubei at 2023-03-13 23:06
>tanatali3さんへ

いえいえ、三作品しか見ていませんから。
候補作品のみならず、見たい映画がまだあるので、なんとか時間をやりくりしなきゃ^_^
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by kogotokoubei | 2023-03-13 12:57 | 映画など | Trackback | Comments(2)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


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