東京地検特捜部に、五輪贈収賄事件の全貌解明を期待。
2022年 09月 16日
ニ、三年前、俯瞰する、という言葉が少しだけ流行ったような記憶がある。
東京五輪贈収賄事件の話題では、どうも、五月雨的に明らかになる点と線に焦点が当たって、全体を俯瞰しての報道がほとんどないと思う。
あるいは、全体像を明らかにすることに対して、含まれてくる名前を考え、忖度しているのかもしれない。
収賄容疑の五輪組織委員会の元理事と、いくつかの贈賄容疑企業のことに目がいくが、それだけでは、この事件の全貌は見えてこない。
朝日新聞の9月6日の記事にある構図を元にして、もう少し全貌が見えるような図を作った。
朝日新聞の該当記事

今後左側に新たな企業名が加わる可能性もある。
招致委員会の段階から、疑惑だらけなのだ。
過去の疑惑も含めて、振り返りたい。
まずは、検察の五輪贈収賄事件捜査が、“本丸”までに進む兆しがあり、期待している。
本丸とは、当時の竹田恒和JOC会長(&招致委員会理事長)、そして、森喜朗五輪組織委員会会長だ。
二人とも、今は、事情聴取段階であるが、その先までぜひ進めてもらいたい。
まず、森元会長への疑惑について「NEWSポストセブン」から引用。
NEWSポストセブンの該当記事
2022.09.16 07:00
週刊ポスト
五輪汚職、森喜朗氏に迫る特捜部 角川歴彦会長らとの赤坂・高級料亭での密談全容
次々に明るみに出る「五輪汚職」の闇。そのシンジケートの中心に元首相がいることをいち早く報じたノンフィクション作家・森功氏が、さらなる追及レポートを放つ。(文中敬称略)
* * *
県知事の馳浩や北國新聞社主に会う予定が入っていた森喜朗(85)は、その日早朝7時過ぎ、東京駅から北陸新幹線グランクラスで石川県に向かった。奇しくも朝日新聞が一面に「森元首相を参考人聴取」という特ダネを載せた9月8日である。
森は8月下旬から9月初めにかけ、東京地検特捜部からホテルオークラで3回事情聴取されている。それが終わったすぐあとに元気に地元入りしているから、検察首脳はメンツをつぶされた思いではなかろうか。
東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件捜査が、新たな展開を見せ始めた。大会組織委員会元理事の高橋治之(78)が、電通時代の後輩である深見和政(73)の経営するコンサルタント会社を通じて出版大手「KADOKAWA」から賄賂を受け取っていたという。
特捜部は高橋を再逮捕し、深見を受託収賄の身分なき共犯と見立て、贈賄側のKADOKAWA元専務で顧問の芳原世幸(64)と同社幹部の馬庭教二(63)とともに逮捕した。馬庭は五輪のスポンサー契約窓口「2021年室」元室長だ。
賄賂の受け皿となったコンサルタント会社名は、AOKIホールディングスのときの「コモンズ」にちなんだ「コモンズ2」だ。その株式の80%を深見が保有し、高橋もまた株主となってきた。KADOKAWAが2019年4月に協賛金2億円超で五輪のスポンサーに決まったあとの7月以降、10回に分けてコモンズ2に計約7600万円を振り込んだとされる。特捜部はそれが五輪スポンサーへの見返りだと睨んでいる。
先のAOKI、広告代理店「大広」の1400万円という3ルート合わせて1億4100万円が高橋側に渡っている。まだまだ広がりそうな五輪汚職において、やはり関心事は森の動向だ。
森元総理を含む、ある重要な会食について、次のように伝えている。
2017年5月に東京・赤坂の高級料亭で開かれた関係者の密会だ。
会合は組織委員会の元理事高橋が呼びかけた。判明しているだけで参加者は7人いる。高橋自身をはじめ、出版社はKADOKAWAの角川と逮捕された元専務の芳原、講談社の野間、電通側ではコモンズ2の深見、高橋の後輩にあたる元電通スポーツ局長、そして元首相の森喜朗である。
このときの会合は、五輪汚職を語るうえで極めて重要だといえる。元電通スポーツ局長は高橋と同等のスポーツビジネス界における有名人だ。東京五輪招致で暗躍した。
たとえば東京五輪をめぐっては、日本オリンピック委員会(JOC)による元国際陸上競技連盟(IAAF)に対する招致の裏工作疑惑も浮上した。JOCが2013年7月と10月の2度にわたり、国際陸連のマーケティングコンサルタントだったパパ・マッサタ・ディアクに230万ドル(約2億5000万円)を渡していた事実が判明。パパ・マッサタは陸連会長のラミーヌ・ディアクの息子である。
当時のJOC会長・竹田恒和が国会に呼ばれ、「コンサル料」だと言い逃れた。このとき高橋とともに裏工作に奔走したキーパーソンが、この元スポーツ局長なのである。陸連会長のディアクと電通が交わした契約書には、元スポーツ局長が署名していた事実まで発覚している。
2017年の赤坂・料亭の密会は東京五輪における重要人物が集った。2016年には高橋の考案したトータル5億円のスポンサー料スキームができ、それも組織委員会に提出されていた。組織委員会会長の森喜朗はまさに赤坂会合のメインゲストである。
パパ・マッサタが、ラミーヌの息子、ということで、少し、ややこしい。
やはり、JOCの、このパパ・マッサタへの「コンサル料」という名の賄賂疑惑を、結果として見逃したことが、その後の不正にもつながっていると思う。
なぜ、見逃されたのか。
安倍晋三の存在が、間違いなく大きかったはずだ。
安倍がいるから検察は抑えられると、竹田も高橋も、そして、森も思ったに違いない。
その「コンサル料」問題に関する、2016年の日経の記事を引用する。まだ、リンク可能。
日経サイトの該当記事
JOC、第三者調査チーム発足 東京五輪招致不正疑惑で
2016年5月18日 11:20
2020年東京五輪・パラリンピックの招致を巡る不正疑惑で、招致委員会理事長を務めた日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は18日の衆院文部科学委員会に出席し、外部の弁護士などを交えた第三者調査チームを発足させ、送金の経緯を調査する考えを示した。
竹田会長は「招致委は解散しており、JOC事務局だけでは事実関係の調査に限界がある」と述べたうえで、弁護士らによる調査チームの立ち上げを表明。招致に関係した職員らからヒアリングを行うなどして、シンガポールのコンサルタント会社「ブラック・タイディングス」にコンサル業務を委託したことに問題がなかったか、調べる。
招致活動をめぐっては、東京での五輪開催が決まった13年9月の国際オリンピック委員会(IOC)総会の前後、招致委が同社に約2億3千万円を支出。フランスの検察当局がIOC委員の関係者への賄賂に当たる疑いがあるとして、捜査を進めている。
竹田会長は同社について、「電通から契約に値する会社と助言を受けた。有形無形の成果があった」と説明。ただ、14年7月に会社を閉鎖しているといい、「現在どうなっているかは確認していない」としている。
このシンガポールのコンサル会社が、パパ・マッサラの会社。
JOCの調査は、笊そのものだった。
兄弟ブログ「幸兵衛の小言」で、その時の東京新聞の記事(現在リンク不可)を紹介していたので、掲載する。
「幸兵衛の小言」の該当記事
竹田会長、潔白根拠のJOC調査 「欠陥だらけの報告書」調査とは名ばかりだったが、この後、司法の手が伸びることはなかった。
2019年1月16日 朝刊
二〇二〇年東京五輪招致を巡る汚職疑惑に揺れる日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は十五日の説明で、一六年に公表されたJOC調査チームの報告書により「結論づけられている」として身の潔白を訴えた。だが報告書は当初から内容に疑問が持たれており、専門家は「欠陥だらけ」と批判。関与を否定する根拠とするには厳しい見方をされている。 (原田遼)
JOCはこの日、弁護士や公認会計士による当時の調査チームの報告書を改めて報道陣に配り、疑惑回避を狙った。
報告書は、シンガポールのコンサルタント会社への支払いについて、「代表者が国際オリンピック委員会(IOC)で秘匿性の高い情報を入手できる立場だった」と正当性を述べた。資金の一部が票集めとしてIOC委員側に渡ったとする疑惑には、コンサル会社と委員の親密性を「認識できていたとは認められない」と招致委側の主張を追認。贈賄罪は「日本の刑法上、民間人には適用されない」とも記した。
一方、この報告書の精度を疑問視したのは、企業法務に詳しい弁護士らでつくる「第三者委員会報告書格付け委員会」だ。不祥事の際に設置される第三者委員会の活動を五段階で評価しており、一七年にJOCに対し、八人の委員のうち二人が最低の「不合格」判定。残る六人が次に評価が低い「D」判定を下した。
格付け委の評価書には「調査チームにオブザーバーとしてJOC理事などが加わり、独立性がない」「コンサル会社の代表やIOC委員から調査の返答を得られていない」「日本法の解釈論に終始するばかり」などの意見がつづられた。
弁護士の久保利英明委員長は本紙の取材に「コンサル会社の役割が何も解明できていない」と報告書の信用性を疑問視。この日の竹田氏の対応にも「説明を軽視している。五輪のイメージダウンにつながりかねない」と苦言を呈した。
ちなみに、なぜ、この贈収賄疑惑が明るみになったかと言うと、パパ・マッサタが、“爆買い”したからだ。
「幸兵衛の小言」の記事で、今はリンク切れのテレ朝ニュースのサイトから、下記の記事を紹介していた。
捜査のきっかけは「爆買い」 東京五輪招致疑惑(2016/05/14 21:55)
東京オリンピック招致を巡る送金問題で、国際陸上連盟元会長の息子が、招致決定時期にパリで高級時計など高額な買い物をしたことがフランス検察の捜査のきっかけだったことが分かりました。
フランスの検察関係者によりますと、国際陸連元会長でIOC(国際オリンピック委員会)元委員、ラミン・ディアク氏の息子、パパ・マッサタ氏は2013年9月ごろ、パリで高級時計など2000万円近い買い物をしたということです。検察当局は、買い物に使われた金の流れを調べた結果、東京の招致委員会側が振り込んだ約2億円が代理店などを介してパパ・マッサタ氏に渡ったとみられることを確認したとしています。また、この高級時計などは東京招致に協力した複数のIOCメンバーに渡されたとみて捜査しているということです。
フランスの検察は、なぜか、その後、この疑惑について捜査を進展させたように思えない。
2024年夏季五輪がパリで開催されるのと、何らかの関係があるように私は思っている。
パパ・マッサタに渡った「コンサル料」という名の賄賂の原資は、国民の税金である。
竹田元JOC会長は、シンガポールの会社が、パパ・マッサタの会社だと、当初は知らなかった、と嘯いた。
自民党議員の「旧統一教会と関連する団体とは知らなかった」という言葉と同様の大嘘だ。
五輪は、クーベルタンの時代には想像もできない、巨額マネーが動くイベントになった。
NHKと民放を含む“ジャパンコンソーシアム”でオリンピックやサッカーW杯の放映権を管理するようになって以降の放映権料を、Wikipedia「ジャパンコンソーシアム」で確認できる。
Wikipedia「ジャパンコンソーシアム」
冬季 1998年 長野オリンピック 3700万ドル(39億円)
夏季 2000年 シドニーオリンピック 1億3500万ドル(142.7億円)
冬季 2002年 ソルトレイクシティオリンピック 3700万ドル(49億4000万円)
夏季 2004年 アテネオリンピック 1億5500万ドル(170.5億円)
冬季 2006年 トリノオリンピック 45億3000万円
夏季 2008年 北京オリンピック 1億8000万ドル(198億円)
これ以降は、冬季&夏季を合わせた放映権。
冬季 2010年 バンクーバーオリンピック
+
夏季 2012年 ロンドンオリンピック 325億円
冬季 2014年 ソチオリンピック
+
夏季 2016年 リオデジャネイロオリンピック 360億円
冬季 2018年 平昌オリンピック
+
夏季 2020年 東京オリンピック 660億円
冬季 2022年 北京オリンピック
+
夏季 2024年 パリオリンピック 440億円
冬季 2026年 ミラノオリンピック
+
夏季 2028年 ロサンゼルスオリンピック 470億円
冬季 2030年 未定
+
夏季 2032年 ブリスベンオリンピック 500億円
東京五輪の割高さが目立つ。
今年6月に発表された東京五輪の経費は、1兆4238億円。
組織委が6404億円、東京都が5965億円、国が1869億円。
招致時の立候補ファイルに示された予算は7340億円。
ほぼ倍増。
経費がかかるから、税金のみならず、五輪公式スポンサーとの契約料も増やさなくてはならない。
企業側は、オフィシャルスポンサーとなることでの売上増を期待して、契約金を支払うのだが、その前に、スポンサーとして認められなければならない。
巨額が動くから、不正も起こりやすい。
AOKI、KADOKAWA、大広と、贈賄側の名が挙がってきたが、まだ、増える可能性は高い。
そして、次に検察が狙うのは、政界だろう。
テレ朝ニュースに、若狭勝弁護士のコメントがあったので、引用する。
テレ朝ニュースの該当記事
元東京地検特捜部・若狭勝弁護士:「今回、名前の挙がっている3社以外にも同じような構図があるのだとすれば、さらに“横の広がり”を見せる可能性はあると思います。恐らく相当の数の企業から事情聴取をしていると思いますので、そのなかで金額が比較的、高くて便宜供与が見返りとしてなされたことが証明しやすいところに絞って立件していくという可能性が高いと思います。“横の広がり”の事件捜査としては長くても12月までであろうと。ただ何らかの政治家が関与しているとか“縦のライン”が出てくるともう少し長いスパンで捜査が継続される可能性はある」
ぜひ、“縦のライン”まで、捜査を進めて欲しい。
安倍晋三亡き後、東京五輪贈収賄事件への捜査が一挙に進んだ。
東京五輪贈収賄事件が、安倍晋三政権時代で明るみに出なかったのは、安倍本人の存在も大きかっただろうし、次の経歴を持つ人物の存在も大きかったはずだ。
■法務省大臣官房長(2011年8月26日~2016年9月5日)
■法務事務次官(2016年9月5日~2019年1月18日)
■東京高等検察庁検事長(2019年1月18日~2020年5月22日)
そう。安部信三の厚い信頼を元に検察に睨みをきかせていた、黒川弘務である。
黒川は、安倍内閣時代の菅官房長官や、警察庁出身の杉田和博官房副長官、北村滋国家安全保障局長と密接な関係にあった。
いわゆる、“官邸ポリス”たちにとっては、閣議決定で定年延長させ、検事総長にさせたかったのが、黒川弘務だ。
利権の固まりのスポーツイベントは、アスリートの汗や涙の背後に、カネの亡者たちがひしめいている。
そういった金まみれの五輪を見直す契機にするためにも、検察は、“横のライン”から“縦のライン”まで、東京五輪贈収賄事件の全貌を解明してもらいたい。
金まみれ五輪の膿を出し切るべきだろう。
