山崎雅弘著『日本会議 戦前回帰への情念』より(11)
2022年 05月 25日

山崎雅弘著『日本会議 戦前回帰への情念』
山崎雅弘著『日本会議 戦前回帰への情念』(集英社新書、2016年7月発行)から十一回目。
目次を確認。
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はじめに
第一章 安倍政権と日本会議のつながりー占領された内閣
第二章 日本会議の「肉体」ー人脈と組織の系譜
第三章 日本会議の「精神」ー戦前・戦中を手本とする価値観
第四章 安倍政権が目指す方向性ー教育・家族・歴史認識・靖国神社
第五章 日本会議はなぜ「日本国憲法」を憎むのかー改憲への情念
あとがき
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引き続き、第四章、安倍政権が目指す方向性ー教育・家族・歴史認識・靖国神社、からご紹介。
前回、日本会議やその論客たちが、「教育直勅語」を復活させ、「一旦緩急あれば」国民が国のために命を犠牲にすることを厭わない義勇を発揮することを求めていることを紹介した。
果たして、彼らは、どんな歴史教育を望んでいるのか。
◆「肯定的自我を形成できる歴史教育」を重視する
国家への献身と奉仕こそが国民の義務である、という教育勅語の教えに加えて、日本会議が重視しているのは、「肯定的自我を形成できる歴史教育」という観点です。
例えば、「日本の息吹」2015年1月号には「歴史教育に衝き動かされる世界」と題された渡辺利夫(当時拓殖大学総長、現在は同大学学事顧問)と小川榮太郎の対談が掲載されていますが、両人は次のような言葉で、日本会議の理想とする歴史教育のあり方を語っています。
<渡辺 いかに肯定的自我を形成するか、という観点に立って歴史教育は行われなければならないということです。(中略)
もちろん、共同体の歴史には負の歴史もある。先の大戦が無惨な敗北に終わったということもその一つでしょうが、そのどん底から立ち上がっていけたのは、天皇を中心にとして大いなる共同体としての凝集力が発揮されたからだと見ることができます>
<小川 近代史学は、実証能力は高いかもしれませんが、歴史とは何かという歴史哲学が欠落している。教科書に載せるべき歴史は、近代史学が主人公ではなく、物語としての歴史を主人公に復権させるべきだと思います>(13ページ)
これらの言葉が示すように、日本会議の論客は「人が歴史を学ぶ理由」について、自国や他国の経験を客観的・批判的に検証して、自国が犯した過去の失敗を反省し、社会の向上に役立てるという観点をほとんど重視していません。
物語としての歴史、とは、例えば、神武天皇の建国神話を教育の現場で題材として、天皇崇敬の価値感を植え付けようとすることだ。
こうした考えのもとでは、当然のことながら、日中戦争や太平洋戦争で日本軍が行った他国への侵略や虐殺、捕虜虐待などの「非人道的行為」は、子どもが「肯定的自我を形成する上で支障になる」との理由で、教科書から除外すべきだ、という結論になります。
心理学に「自己肯定感」という言葉があるが、日本会議の論客の言う「肯定的自我」とは、この「自己」が「自国」であることに注意すべきだろう。
自分に自信を持つ、自分の存在に誇りを持つ、ということと、「自国」に誇りを持つことは、大きく違う。
果たして、過去の過ちを検証することなく、国を誇りに思うことが、できるのだろうか。
著者は、こう指摘する。
自国の軍人が戦争や紛争などの国策遂行の過程で行った「非人道的行為」を、子どもの目に触れないところへ隠し、あるいは「なかったこと」として社会の表面から抹消して、自国の過去についての「いい話」「ほほえましい話」「美しい話」だけを学校で子どもに教えたなら、子どもは自分の国に誇りと愛情を持ち、この国に生まれて良かったと思うだろう、と大人が考えるのは、子どもの知性をかなり馬鹿にした発想だと言えます。
なぜなら、子どもは「大人がつく嘘」に敏感で、自分が学んできた歴史が「いいことだけを並べた綺麗ごと」だと知ったとき、自分の国への誇りどころか、逆に強烈な不信感や失望感を抱くのではないか、という現実的な視点が、完全に抜け落ちているからです。
嘘はばれる、のである。
また、嘘は次の嘘を誘発する。
歴史の事実は「なかったこと」にはできない。
しかし、未だに、自国にとって都合の悪いことを隠し続けている国があるのも事実だ。
戦後の国際社会において、旧ソ連や中国、北朝鮮などの共産主義国は、自国の過去についての歴史教育を行う際、他国への軍事侵攻などの不都合な出来事は教科書に載せず、国家体制にとって好ましい事実だけを子どもに教える方針をとっていました。
そして戦前の日本もまた、同様に自国の歴史を「国体明徴運動」の中で美化し、愛国心の涵養を重視して、不都合な歴史は子どもに教えない教育方針をとりました。
以上のように、日本会議が提唱する教育方針の方向性は、全体として、戦前・戦中への回帰を指向しています。しかし、その教育の結果として、日本が1945年にどのような「結末」に到達したのかという「歴史」への目配りは、見つけることができません。
日本会議が目指す歴史教育、そして国のあり方は、皮肉にも、ロシアや中国、北朝鮮と極めて近いものと言えるだろう。
それは、個人の自由を認めず、個人の生活や思想を国家全体の利害と一致するように統制を行う思想あるいは政治体制、のことである。
それを、「全体主義」と言う。
「一旦緩急あれば」国のために生命を捧げることを強いるのは、まさに全体主義の発想だ。
憲法を改正(改悪)し、戦争のできやすい国にしよう、という試みは、ロシアのウクライナ侵攻、そして、バイデン・岸田会談を追い風にしようとしている。
23日、ある会合が開かれた。
朝日新聞のサイトから引用。
朝日新聞の該当記事
安倍元首相、改憲発議めぐり「状況整いつつある」 超党派議員の大会
2022年5月23日 20時46分
超党派による新憲法制定議員同盟は23日、都内で「新しい憲法を制定する推進大会」を開いた。自民党の安倍晋三元首相が出席し、「しっかり国会で議論して国民の審判を受けるべきときがやってきた」と述べ、改憲の手続きを進めるべきだとの認識を示した。
安倍氏は、「(衆院の)憲法審査会でも9条について議論がなされ、コロナ禍を経験し、緊急事態条項の必要性についても国民的な理解が高まってきた」と主張。「(改憲の発議をするために衆参両院で必要な)3分の2を形成する状況は整いつつある」と語った。
また、同日行われた日米首脳会談後に岸田文雄首相が防衛費の増額を表明したことを受け、来年度の防衛予算は「6兆円の後半という意味ではないか」と語った。同大会には岸田首相や自民の麻生太郎副総裁もビデオメッセージを寄せたほか、公明党や日本維新の会、国民民主党からも代表者が出席した。
テレビのニュースでも、岸田首相のビデオメッセージを含む、この会合の様子が流れていたが、それは、事実を伝えるのみで、決して批判的な視点で取り上げられたものではなかった。
コロナ禍での緊急事態宣言と、自民党の緊急事態条項は、本来は、全く関係がない。
自民党案の「緊急事態条項」が、どれほど危険なものかは、このシリーズ5回目で本書から紹介した通りだ。
2022年5月4日のブログ
あらためて、本書から紹介する。
自民党改憲案では、日本国憲法にはまったく存在していない「第9章 緊急事態」という項目を、新たに創設して追加しています。
「第98条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認められるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。(中略)
第99条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる(中略)
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国とその他公の機関の指示に従わなければならない」
これは、もし日本が戦争や紛争の当事国となった場合に、時の内閣が一方的に「法律と同一の効力を有する政令」を制定でき、国民はそれに基づく指示に「従わねばならない」とするものです。しかし、発動の対象に「内乱」も含まれているので、例えば国内で大規模な反政府デモが発生して政権が転覆しそうになった時にも、この条項は効力を持つということになります。
つまり、自民党の改憲案が正式な憲法となれば、時の政権は、自らを批判して退陣を求める反政府デモを鎮圧するために、この条文を使う可能性があります。
ロシアのウクライナ侵攻、そして、コロナ禍までも利用して、こんな危険な憲法改悪をしようとしているのである。
日本国憲法は、権力者が暴走しないよう歯止めとしての役割がある。
だから、国民の権利を守るための条項が定められている。
しかし、自民党案は、権力者のための条項を追加しようとしているということを、忘れてはならない。
バイデンの口車に乗って、日本の国土と国民を危険な目に陥れようとしているのが、日本会議とその組織が支援する政治家たちではないのか。
状況は整いつつある、などと言っている彼らの暴走を止めなければならない。
次回は、第五章 日本会議はなぜ「日本国憲法」を憎むのかー改憲への情念、からご紹介予定。
さて、これからユウの散歩をして、飲食店のアルバイトだ。
