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金芝河の冥福を祈る。


 今日、韓国では、ユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の就任式があった。
 5年ぶりの保守政権で、日韓関係が正常化する期待もあるが、楽観はできない。

 あの国は、保革で、頻繁に政権が変わるからね。

 また、尹大統領が党内予備選挙中、かつて民主化運動を弾圧した全斗煥(チョンドゥファン)元大統領の功績を認めるような発言をして波紋を呼んでいた。


 全大統領は。同じ軍人出身の朴正熙(パクチョンヒ)を継いだ大統領だった。

 その朴正熙政権で民主化運動のシンボル的な存在だった金芝河(キムジハ)が、8日に亡くなった。
 朝日新聞から引用。
朝日新聞の該当記事
韓国民主化運動の象徴、金芝河さん死去 痛烈風刺詩で死刑判決→無罪
ソウル=鈴木拓也2022年5月8日 21時06分

 1970年代の韓国の民主化運動の象徴として知られる詩人、金芝河(キムジハ)さんが8日、韓国・原州の自宅で死去した。81歳だった。関係者によると、長く闘病生活を送っていたという。

 金さんは、軍事独裁を敷いた朴正熙(パクチョンヒ)政権下の70年、財閥や国会議員を痛烈に批判した風刺詩「五賊」を発表して投獄され、74年に死刑判決を受けた。作家の大江健三郎さんらがハンガーストライキを行って朴政権に抗議。金さんは減刑されたが、約7年間を獄中で過ごした。2013年にソウル中央地裁の再審で39年ぶりに無罪判決が言い渡されていた。(ソウル=鈴木拓也)

 74年の死刑判決には、大江健三郎の他、ジャン=ポール・サルトルやノーム・チョムスキー、シモーヌ・ド・ボーヴォワールという人々が抗議の声を上げた。

 共同通信のウェブニュースサイト「47NEWS」に、「地球人間模様」というシリーズがある。

 その中に、金芝河のインタビューが掲載されているので、ご紹介したい。
「地球人間模様」の該当ページ

「私は右でも左でもない。中道進歩だ。私が監獄に入った時、私を不屈の革命家と持ち上げて、一種の左翼神話をつくろうとした。私はそれに悪口を言うこともできなかった。なぜなら、民主化に進む一つの道なのだから、戦術的な誤りもあるだろう。私だけが我慢すればよいと思った」
 韓国の抵抗詩人として知られる金芝河(キム・ジハ)(68)はソウル近郊、京畿道の自宅で、自らの立場をこう説明した。
 1970年に処女詩集「黄土」や、痛烈な風刺詩「五賊」で鮮烈に登場。74年に民青学連事件で死刑判決を受け、国際的な釈放運動で75年2月に出獄するが、同三月再び逮捕され、80年12月まで5年9カ月を獄で送る。長い独房生活は精神にも支障を与え、その後、精神科病院へ12回も入院した。

 2008年、今から14年前のインタビューだ。
 
 彼は、三度自殺を図っている。

 91年、学生運動の活動家の焼身自殺が相次いだ。金芝河は「今、すぐ、死の賛美を中止せよ」と自殺の中止を訴えた。だが、左派陣営から大きな反発を招いた。「私や家族への危害、妻の母にまで侮辱を加えた」
 自殺中止を訴える背景には自らの体験もある。21歳の時、3度、自殺を図った。「家も貧しくて何の希望もなかった。高校の時から肺結核で、恋愛も片思いで失敗した。私が生きる意味は何か分からなかった」
 大学の担任教授へ手紙を書き、悩みを訴えた。教授は「老子」を読めと勧めた。すぐ「老子」を買って読むと、教授の言葉通り自殺する気持ちがなくなった。「だまされたという気持ちと、もう一つは人生というのはこんなものなのか、何かを捨てなくてはならないということを学んだ」

 何かを捨てなくてはならない、という言葉は、実に意味深い。
 
 引用を続ける。
 
「市場には『互恵』『交換』『再分配』という3つの機能がある。これからは資本主義の『交換』の機能だけでは駄目で、今まで宗教が担ってきた『慈善や互恵』、社会主義に期待した『再分配』を統合する新しいシステムが必要だ」
 「古いアジアにはそういうシステムがあった。例えば一戸の農作業を村全体で取り組む『プアシ』(助け合い)や『契(ケ)』(頼母子講)のようなシステムが昔の韓国にあったし、日本にもあった。こうした『人間の顔』をした市場が可能にならなければならない」
 金芝河の闘いにゴールはない。今、華厳経と東学思想の統合を模索している。「私は旅人(ナグネ)だよ。旅人は道で死ぬものだ。今まで、やらねばならないことをやっただけだ。私は自分をそんなふうにしか説明できない」

 大乗仏教仏典の一つ「華厳(けごん)教」について、Wikipediaから引用。
Wikipedia「華厳教」

経名は「大方広仏の、華で飾られた(アヴァタンサカ)教え」の意。「大方広仏」、つまり時間も空間も超越した絶対的な存在としての仏という存在について説いた仏典である。

 華厳宗総本山、東大寺のサイトには、聖武天皇が華厳経に基づき、あの大仏建立のため奔走したことが記されている。
東大寺サイトの該当ページ

 その華厳経と東学思想の統合を模索する金芝河は、韓国と日本との関係について、こう話している。

「新しい花を東アジアで咲かせなければならない。そのためには、韓国と日本が手をつながなくてはならない。私は日本の悪い点も分かりながら、それでも日本の可能性を重要視している」と強調した。
 「玄界灘を行ったり来たりしながら、新しい夢を持って、アジアに新しい転機を起こさなくてはならない。玄界灘を新たな視点で見よう」と訴えた。

 玄界灘を行ったり来たりする観光客は、少なくない。

 しかし、それだけでは、新しい花は、咲かない。

 締めまでを引用。

 金芝河は「互恵」「交換」「再分配」という3つの機能を統合する新しい経済システムを日韓が協力して生み出そうと強調した。
 また、現在の日本が持つさまざまな長所を指摘した。「日本は隠れた金を持っている。経済が危機であればあるほど、実際に使える金を持っていることが大切だ。また、女性運動や生協活動、市民運動など市民社会の蓄積がある。韓国と日本には共通の歴史的な文化的蓄積もある。日本と米国との関係が良好なことも大きな意味を持つ」
 「私は希望を持っている。大きな文明変動も最初は少数が始めなくてはならない。私が心配するのは日本の人たちがあまりに現実にとらわれ、夢が弱いことだ」
(文 平井久志、写真 ソウル支局 金閔熙、文中敬称略)=2009年3月4日配信

 日本の長所を認める発言は、なかなか韓国の言論人からは聞くことが出来ないのではなかろうか。

 また、日韓に共通する歴史的な文化的蓄積、という指摘は、韓国からも日本からも、なかなか目にすることがない。

 最後の「日本の人たちがあまりに現実にとらわれ、夢が弱い」という指摘は、今もあてはまるようだ。

 「私は希望を持っている」は、あのキング牧師の"I have a dream"を思い起こす。

 慰安婦問題を含め、まだまだ日韓の間の溝は深い。
 そして、その問題そのものを否定するような人物が、自民党の最大派閥を率いている。

 せっかく、日韓の政治リーダーによる対話が再開されようとする今、金芝河が遺した言葉は、実に重要だと思う。

 日韓問題は、政治家だけではなく、日韓の国民が、金芝河のように、相手の長所を認め、共通する文化的蓄積を確認し、夢を共有できるかどうかにかかっているように思う。

 「慈善」「互恵」・・・大事な言葉であり、日韓で共有できる言葉に違いない。


 金芝河の冥福を祈る。

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by kogotokoubei | 2022-05-10 20:18 | ある人物 | Trackback | Comments(0)

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by 小言幸兵衛
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