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「ドライブ・マイ・カー」の3時間は、あっと言う間だった(2)

 今日は、旧暦で1月15日。
 小正月だ。
 その年の最初の満月を祝う日であるが、月齢での満月は明後日17日。
 とはいえ、今夜の月も、きっと綺麗なことだろう。

 以前、旧暦のこの日、小正月のことを書いたことがある。
2019年2月18日のブログ
2015年3月5日のブログ

 重複するが、あらためて少し蘊蓄。

 左義長(さぎちょう、三毬杖)と言われる、小正月に行われる火祭りの行事は、日本にももちろんあって、地方により、どんど焼、どんと祭り、歳の神、墨塗り、ぐろ、かんがり、などさまざまな呼び方がある。
 多くは正月飾りや書き初めを燃やす行事で、その煙に乗って年神様が天上に帰るとされており、その火で焼いた餅を食べると一年健康で過ごせる、という言い伝えもある。

 今でも、新暦1月15日に行事が行われる地方があるので、テレビのニュースなどで知っている人も多いだろう。

 しかし、お祝いの主旨が月に関わっているので、これは旧暦で祝って欲しいと思う。

 中国や韓国では、旧暦での行事をいまも継承している地域がある。
 しかし、五輪開催中の北京では、春節での花火や爆竹が禁止されていたから、火を使う行事はできないだろう。


 さて、この映画の二回目。

 キャストを確認。

<キャスト>
 家福悠介:西島秀俊
 渡利みさき:三浦透子
 高槻耕史:岡田将生
 家福音:霧島れいか
 イ・ユナ:パク・ユリム
 柚原:安部聡子
 コン・ユンス:ジン・デヨン
 ジャニス・チャン:ソニア・ユアン
 Roy Lucelo:ペリー・ディゾン
 Ryu Jeong-eui:アン・フィテ
 


 前回、この映画を起承転結に分けるならこんな感じ、と書いた。

 妻への疑惑と別れ
 舞台「ワーニャ伯父さん」とドライバーみさき
 高槻との会話と彼の離脱
 二人の浄化と再生

 前回の「起」に続き「承」を書く。

 もちろん、ネタバレなのでご注意のほどを。

転結
「舞台『ワーニャ伯父さん』とドライバーみさき」

(1)音の葬儀
 この場面は「起」に入れるべきなのだろうが、音の死因を前回の記事で明らかにしたくなかったので、「承」のプロローグとした。
 祭壇に、音の遺影。
 寺の門に立ち、弔問客を見送る家福。
 「急ですよね、くも膜下って・・・・・・」と囁く声。
 高槻も弔問客の一人だった。
 涙を浮かべる高槻が、家福に、深々と頭を下げる。

(2)二年後ー広島、みさきとの出会い
 やっと、クレジットが出る。
 家福は、広島国際演劇祭から「ワーニャ伯父さん」の演出を依頼され、愛車を自分で運転し広島にやって来た。
 劇場に到着すると、柚原とドラマトゥルク兼通訳のユンスが迎えてくれた。
  ※ドラマトゥルクについて。
artscapeサイトの該当ページ
舞台芸術における職分で、劇場やカンパニー(劇団など)、あるいは個々の公演の創作現場において生じるあらゆる知的作業に関わり、そのたびごとにサポート、助言、調整、相談役などの役割を果たす。
 ユンスから、アジア各国からの分厚い応募書類の束を家福は渡された。
 滞在先は家福の要望通り、車で一時間ほどの、窓から瀬戸内海が見える家(レジデンス)だと説明を受ける家福。
 運転しながら、カセットテープに音が吹き込んでくれた芝居の科白を聞くために、往復2時間が欲しかったのだ。
 しかし、演劇祭の規則で、滞在期間中は、自分で車の運転をしないよう、専属のドライバーを手配したと告げられる。
 その申し出を断る家福に、ユンスは、まず、テストドライブをしてもらい判断して欲しいと言う。
 ドライバーとして待っていたのは、渡利みさきという、左頬にかすかに傷のある若い女性だった。
 みさきが「助手席でご覧になりますか」と言うが、家福は後部座席に座った。
 車は、レジデンスへ向かう。家福はカセットテープを再生してくれるよう、みさきに依頼し、「ワーニャ伯父さん」の科白を暗唱する。
 瀬戸内の海が一望できる部屋。
 駐車場で待つみさきが「明日の朝、8時に迎えに来ます」と言うと、「早くて申し訳ない」と答える家福。
 テストドライブが合格だったことで、笑顔を浮かべるユンス。

 さて、次に進む前に、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』について、登場人物と簡単にあらすじを補足しておく。
 なぜならこの映画は重層的な構成となっており、なかでも、映画本編とこの舞台が、極めて密接にシンクロしているためだ。

 実は、日曜日に観終わってから、駅へ行く途中にある三省堂書店で、『かもめ・ワーニャ伯父さん』の文庫を買って読んだ。

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チェーホフ著『かもめ・ワーニャ伯父さん』(新潮文庫)

 「ワーニャ伯父さん」の登場人物。

 セレブリャコーフ:退職の大学教授
 エレーナ:その二番目の妻、二十七歳
 ソーニャ:セレブリャコーフの先妻の娘
 ヴォイニーツカヤ夫人:三等官の未亡人、セレブリャコーフの先妻の母
 ワーニャ:ヴォイニーツカヤ夫人の息子(ソーニャの伯父)
 アーストロフ:医師
 テレーギン:落ちぶれた地主
 マリーナ:年寄りの乳母

 ワーニャは、妹と結婚したセレブリャコーフを支援するため懸命に働き金銭的に支援をしていた。
 姪のソーニャも、伯父を助けた。
 しかし、ワーニャの妹が亡くなり、若いエレーナと一緒になった教授が、退職して亡くなった先妻の領地にやって来たのだ。   
 この領地は、ワーニャの妹が嫁入りの際に祖父から買い与えられたもので、現在は正確にはソーニャのものである。
 教授が寝ずに部屋に閉じこもって調べものや著作の仕事をすることで、皆が生活のリズムが壊されたり、彼が痛風の病気のせいもあって、わがまま放題であることで、周囲の者や、呼び出される医者は迷惑を被っていた。

 これ位で、映画の方のあらすじに戻る。
 
(3)「ワーニャ伯父さん」オーディション
 前夜、家福は、応募書類をめくりながら、その中に、高槻がいることを知った。
 彼を含む、オーディションが翌日始まった。
 日本人女性とフィリピン男性が、違う言語で「ワーニャ伯父さん」のセレブリャコーフとマリーナの一場面を演じたが、うまく嚙み合ってはいなかった。
 次に、台湾出身で英語で話すという女性ジャニスと高槻が、希望した役と場面が一致していたので、エレーナとアーストロフの一場面を演じさせた。熱を帯びた演技が続き、高槻はジャニスにキスをすると、慌てた家福が止めた。
 ユンスが、「次が最後です。少し変わっています」と言うと、一人の女性(イ・ユナ)が入って来た。
 彼女は、韓国手話で演技する、と言うのを、ユンスが通訳した。
 「大切な、たった一人の私の伯父さん。お願い、あたしたちのことを想って、この悲しみを耐え抜いて」
 手話で演技をしながら、イ・ユナは涙をためてソーニャ役を演じた。
 オーディションの結果が発表された。
 ワーニャ役と告げられた高槻が、「僕がワーニャ役ですか、歳が違いすぎませんか」と言うと、家福は「メイクすればいい。もし意に添わないのなら、誓約書にサインしなければいい。別の訳者に役は行く」と淡々と答える。
 高槻は、他の役者が誓約書にサインする様子を見て、自分もサインをした。
 
(4)「ワーニャ伯父さん」本読み
 毎日のように本読みが行われた。
 家福は俳優たちに、感情を込めず、ゆっくち読むように指示するが、高槻は、つい感情が入り、家福から注意を受ける。
 台湾出身のエレーナ役ジャニスは、「私達はロボットではありません」と意見するが、家福は「うまく演じなくてもいい」と応じる。まず、文字を体に入れることがこの本読みの目的なのだった。
 実は、この本読みのスタイルは、この映画においても実施されたものだ。
 濱口監督は、感情を込めず台本の科白を読み上げ、相手の科白も含めて全体を十分に把握することを優先している。 
 この映画とこの舞台のシンクロは、その稽古のスタイルも含めてのものである、ということが、まさに重層的と言えるのである。

(5)バーでの二人①
 稽古が終わった後、高槻がやって来て、話がしたいので、彼のホテルのバーで一杯やりましょうと家福は誘われる。
 みさきが二人をホテルへ送り、二人はバーのカウンターで、ウイスキーのロックを飲む。
 高槻は家福のことをネットで検索したら、たまたまオーディションの最終締め切り日だった、と言う。
 そして、自分がいかに音の脚本に惹かれていたかを語るのだった。
 彼は「今はフリーです」と言うと家福は「知っている」という。
 テレビドラマで売れっ子になっていた高槻は、未成年の女性との関係が週刊誌で報道され、事務所を辞めていたのだ。
 「はめられたんです」と言う、高槻。
 家福は、「キャリアを大事にしろ」、と言う。
 そんな会話中、近くでスマホのシャッター音がした。
 高槻は、音のした方にいた同じカウンターのアベックの男に、「今、撮っただろ、消せ!」と突っかかる。
 その高槻を制して、家福は勘定を支払い、外へ。
 ホテルの車回し、高槻の詫びを家福は聞きながら、みさきの運転で愛車が走り出す。
 
(6)本読み終了後のユンス家での晩餐
 本読みの稽古が終了し、ユンスを愛車で家まで送ることになった家福。
 ユンスから家によって食事をしていってくれと懇願される。
 家福さんに実は隠していることがあるのだと、彼は言うのだった。
 ユンスの家の手前まで来ると、そこには、愛犬と一緒に、ソーニャ役のイ・ユナが待っていた。
 なんと、彼女はユンスの妻だったのだ。
 ユンスは、みさきも是非一緒にと誘う。拒むみさきに家福は、ユンスががっかりするから、同席するように言う。
 ユナの手作りの韓国料理を楽しむ、家福とみさき。とは言っても、みさきの表情はほとんど変わらないけどね。
 家福は、なぜ、ユナが妻であることを隠していたのかとユンスに尋ねる。
 ユンスは、それを明かすと家福が、彼女をオーディションで落としにくくなるからと明かす。
 ユンスが韓国手話を覚えたのは、韓国での仕事の際、当時ダンサーだったユナに一目惚れし一緒になり、彼女とのコミュニケーションのために覚えたと振り返る。
 「どうしてオーディションを受けようと思ったのか」と家福が聞くと、ユナは手話で語り始めた。
 彼女はもともとダンサーとして活動していたが、流産し、活動を休止した。
 復帰したいと思ってもずっと体が動かなかった。でもチェーホフの劇が体の中に入ってきて、演じたいと思ったと語類。
 ユンスがみさきの運転はどうかと家福に話をふると、家福は「こんなに心地いいのは初めて。加速も減速も滑らかで、彼女にドライバーを頼んでよかったと思います」と答えた。
 それを聞いていたみさきは、表情をほとんど変えなかったが、急に立ち上がり、ユンスたちの飼い犬のところに行き、頭をなで始めた。
 その帰り道、いつものようにテープをかけ、練習を続ける家福。
 「うんざりしないか」とみさきに尋ねると、彼女は「しません。この声が好きなんです」と応じるのだった。
 二人は徐々に言葉を交わし始める。
 みさきは、生い立ちを語り始めた。
 北海道の田舎町出身で、札幌へ水商売の仕事をしに行く母を駅に送るため、中学生の時から運転していたと明かす。
 車中で眠りたがる母を起こすような運転をすれば背中を蹴られたことで、運転が巧くなったと振り返る。
 五年前、18才になって免許が取れた年、実家が土砂崩れに遭った。
 自分は這い出して助かったが、母が生き埋めになって死んだ。
 二十歳になって車に乗って飛び出し、広島に来たところで車が故障したこと、生きるためにゴミ収集の運転者になったことなどをみさきは淡々と語るのだった。
 この夕食の場面は、家福とみさきとの関係における、大きな転換点だ。

(7)公園での立稽古
 ある日の稽古で一行は外に出て公園の一角で立ち芝居を始めた。
 エレーナ役のジャニスと、ソーニャ役のユナが芝居を終えた。
 「ワーニャ伯父さん」の中でのエレーナとソーニャは、当初は口もきかなかった状況から、次第に心を通じさせ、ソーニャはエレーナをお母さんと呼ぶようになるのだが、まさに、その稽古では二人が深く通じ合ってのが演じられた。
 家福は「今、何かが起こった」と感想を述べた。「その何かを観客に起こさせなければならない」、と家福は続けた。


 さて、「承」は、ここまで。

 もっとも、起承転結の中で、もっとも長い時間を要した場面なのだが、「ワーニャ伯父さん」のオーディション以降、あっと言う間なのだった。
 家福とみさきとの関係の変化も、今後に、期待を持たせた。

 心配なのは、やはり、高槻だ。

 その後の大きな変化は、「転」にてご紹介。

 
 さて、今日は飲食店のアルバイトが昼のシフト。

 少し早めに出かけ朝食後、本屋に立ち寄るつもり。

 どんな本を探したのかは、このシリーズ内で紹介できるかもしれない。

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by kogotokoubei | 2022-02-15 09:18 | 映画など | Trackback | Comments(0)

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by 小言幸兵衛