中村哲『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』(聞き手 澤地久枝)より(12)
2022年 01月 13日
ネットのニュースでは、各地域でオミクロン株による感染拡大予測であふれている。
ただ、ワクチン接種を急ぐということしか政府は何もしようとしない。
昨日の記事で紹介したように、新たなステージ分類には、数値指標が存在しない。
リーダーの状況把握力、判断力、実行力が問われる。
かつて会社の管理職研修で、プライオリティ(優先順位)は、重要性・緊急性・拡大傾向、の三つを元に判断すべきと教わった。
今の感染状況は、そのどれもが最大値を示していると思う。
しかし、人の言うことをよく聞くはずの総理は、いろんな人の話を聞くばかりで、時を無駄にしているとしか思えない。
放っておけば、医療崩壊により、他の疾病や怪我の患者への影響も当然出てくるだろう。
東京圏、関西圏は、緊急事態宣言をすぐに出すべきだと思う。
もちろん、補償もしっかりしてのことだ。
そして、目を少し狭い日本から外に向けてみることも必要だ。
コロナ以外にも、世界には、待ったなしで生命の危機に直面している人々がいる。

『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』
『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』の副題は「アフガンとの約束」となっている。
澤地さんが中村さんの活動を支援したいと思い、中村さんに会って本を出そうと考え、ようやく2008年と2009年に実現した対談を元にした本。
2010年に岩波から単行本が刊行され、昨年9月に岩波現代文庫で再刊された。
十二回目。
目次をご紹介。
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はじめに
Ⅰ 高山と虫に魅せられて
Ⅱ アフガニスタン、命の水路
Ⅲ パシュトゥンの村々
Ⅳ やすらぎと喜び
あとがき 澤地久枝
あとがきに添えて 中村哲
岩波現代文庫版あとがき 澤地久枝
[現地スタッフからの便り1] ジア ウルラフマン
[現地スタッフからの便り2] ハッジ デラワルハーン
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引き続き、第三章「パシュトゥンの村々」から引用したい。
2008年8月の最初の対談の後、参議院の要請で再来日した11月に二度目の対談が実現した。
そして、ご長男の結婚式のあった2009年2月に三度目の対談が実現。
紹介するのは、その三度目の対談の内容。
前回は、9.11後のアメリカのアフガン侵攻の標的は、次第に、オサマ・ビンラディンやアルカイダではなく、タリバンに置き換わっていったこと。そして、結婚式場やアフガニスタンの人々にとって大事な集会場であり学校であるマドラッサが爆撃されたことなどをご紹介した。
本書には、水路建設する大地の上を飛ぶ米軍ヘリコプターの写真も掲載されている。

丸腰の米兵が水路を掘れば
澤地 米軍は全員、武装を捨てて水路を掘ったらいい。そしたら歓迎されますよね。
中村 水路を掘ったら、アフガニスタンは親米的になるんじゃないですか。
澤地 「タリバン征伐」をするよりもよっぽど効果があるんじゃないですか。
中村 というか、タリバンも一緒になって掘るんじゃないか。アルカイダが育つ地盤というのは、はっきり言って、アフガニスタンの農村にはないと断言できます。というのは、アルカイダのアラブ系の人たちを見ていると、非常に裕福な家庭に育っていますね。タリバンと違う点はそのあたりで、いわば都会化された・・・・・・。
澤地 高度の教育された・・・・・・。
中村 エリート的な人たちを中心とした人たちです。一方、タリバンというのは、日本でいえばさしずめ、普段は肥(こえ)だごを担いで、畑に撒くような、田舎っぺというか・・・・・・。
澤地 ローカルな人たちですね。
中村 非常にローカルな人たちです。アルカイダとタリバンはずいぶん違う。アフガニスタンの純朴な人たちは、たまたまイスラム教という同じ宗教で、アラブの国からやってきた信仰深い人たちだなぁという以上の受け止め方をしているとは思えない。
澤地 一つ一つの集落が、わりにきちんとしていて、たとえ同じイスラムの人たちであっても、よそ者が簡単には入り込めない感じがします。
中村 ええ。
澤地 たとえば、アラブで教育を受けて逃げてきた人が、突然、ここで一緒に暮らしていけますか。
中村 金の力でやった人たちもいますけれども、それはやむを得ず。皆、食えないから・・・・・・。ワッハーブの人たちがアラブから大量にやってきたことがありましたが、皆、食えないからやむを得ず従ったというだけの話で、それ以上のものではなかったですね。それも、ごく一部の地域で、ほかの地域は、それに反感をもっていました。
あの当時、ソ連対イスラム教勢力というふうに二分法で分かれる戦いじゃなくて、ゲリラ同士もかなり激しい戦闘をしていたんですね。それはアラブ系の入った地域になびいた人々と、それに反発するオリジナルのグループとの対決。これがかなり強かったですよね。いわゆるアラブアフガンです。
逆に言うと、それだけアフガニスタンという国全体が伝統的な体質を尊重する国だということで、そこからは、われわれが想像するような国際テロ組織というのは生まれようがない。コンピュータを駆使して、飛行機を乗っ取ってというような芸当が、あのオジサンたちにできるはずがない。いわゆるテロ実行犯というのは、アラブ系のエリートで、ほとんどはドイツ、アメリカ、イギリスで育った若者たちです。
澤地 そうですね。
中村 だから、この戦争そのものがおかしいのは、皆が言っているようにそれですよ。「うちから、どのテロリストがアメリカに渡って米国人を攻撃しましたか」と。テロの温床は、実は先進国の病理です。
だから、むしろアメリカの病は自分たちのなかにある。それを外に転嫁して、タリバン掃討だとか言っているわけです。
Wikipedia「アメリカ同時多発テロ事件」から、実行犯一覧を拝借。
Wikipedia「アメリカ同時多発テロ事件」

国籍から一目瞭然なのである。
アラブ系国家出身で、ヨーロッパやアメリカで教育、訓練を受けた“エリート”たち。
中村医師が指摘するように、モスクを中心にしたマドラッサで、長老たちの教えを受け、寺子屋に似た教育を受けてきた子どもたちから、テロリストは育つはずがないのだ。
その子どもや女性たちが、重い水瓶を持って、何キロも離れた川に水を汲みに行く労苦を、中村さんたちは水路建設で大幅に改善し、彼らに故郷を取り戻す支援をしていた。
20年の侵攻から撤退するまでに、米軍は、水路を掘るどころか、結婚式場やマドラッサに集う、罪なきアフガンの人々を殺害し続けた。
米軍の撤退時期と重なるように、アフガニスタンでタリバンが実権を握った。
しかし、国際機関は、タリバン=イスラム過激兵士たち、という従来の誤った図式で、支援を打ち切っている。
その結果、どんな状況に陥っているのかを、テレビ朝日の昨年12月24日、APの配信を元にしたニュースから紹介したい。
TV朝日ニュースの該当記事
人道支援滞るアフガニスタン 干ばつで更なる打撃
[2021/12/24 18:20]
イスラム主義勢力「タリバン」が政権を握ったアフガニスタンでは、人道支援が滞ったうえに気候変動によるとみられる干ばつが深刻化していて、国民の生活にさらなる打撃を与えています。
AP通信によりますと、アフガニスタンでは数十年で最も深刻といわれる干ばつが2年連続で起き、食料不足の大きな要因となっています。
近年、干ばつの頻度は1980年から2000年の20年間と比較して2倍に増えていて、気象の専門家は今後、さらに深刻化すると警鐘を鳴らしています。
アフガニスタンでは8月に「タリバン」が実権を掌握して以降、政情不安定などから人道支援が滞っている状況です。
国連機関は11月、「1800万人以上が十分な食料を得られていない」と報告していて、2021年末にはその数がアフガニスタンの人口の6割にあたる2300万人近くに上ると予想しています。
このニュースにしても、ミスリードがある。
「タリバン」→「政情不安」→「人道支援停滞」
という図式によって、問題の原因をタリバンに押しつけようとしている。
大きな誤解、いや、嘘だと思う。
せっかく米軍が撤退し、戦闘がなくなった今こそ、飢える人々への支援をすべきなのだ。
もちろん、そういう実態を憂いている組織もある。
昨日の時事ドットコムから引用したい。
時事ドットコムの該当記事
アフガン支援で5700億円要請 国連、創設以来最大額
2022年01月12日12時31分
【ニューヨーク時事】国連人道問題調整事務所(OCHA)と難民高等弁務官事務所(UNHCR)は11日、深刻な食料不足などに見舞われているアフガニスタンへの人道支援計画を発表し、2022年の1年間で50億ドル(約5700億円)以上が必要だとして、各国に拠出を求めた。国連創設以来、1カ国への支援額としては最大規模になるという。
アフガンの経済状況は、昨年8月のイスラム主義組織タリバンによる権力掌握後、急速に悪化。発表によれば、人口の半分以上の2440万人が人道支援を必要としており、過去数十年で最悪の干ばつも発生したことから、世界で最も多くの人々が食糧難に苦しんでいる。
私は、中村哲医師の本を読んで、遅ればせながらペシャワール会に入会した。
個人でできることは、それ位かと思っていた。
この呼びかけに、ぜひ日本は相応の額の支援で応えて欲しい。
そのために、私の税金が使われるのなら、嬉しい限りだ。
前回の記事で紹介したが、9.11後の20年間にアメリカが「テロへの報復」として費やした額が8兆ドル(880兆円)。
一年間平均4000億ドル(44兆円)だ。
ただし、当時のアメリカ国民の多くは、この支出を支持したということは忘れてはならない。
では、今の日本。
中村哲医師が孤軍奮闘して助けようとしていたアフガンの人々を救うために税金が使われるのに同意する国民は少なくないと思う。
そして、国際機関は、緊急事態への対応のみならず、中村医師たちが行ったような水路建設による故郷の復活、食糧自給の確保という長い目での支援も行うべきだと思う。
次回は、その水路建設のことなどを紹介する予定。
おっしゃる通りです。
メディアの罪は大きい。
しかし、もちろん、メディアも悪いばかりではない。
今、NHK BS1の「クローズアップ現代+」を見ています。
アフガニスタンからの脱出を支援するドイツや日本人による民間団体のことです。
とどまるために水路建設をしてきた中村医師、そして、生きるために脱出したい人を支援する日本人を含むNPO。
どちらも、民間の活動だけでは、限界がありますね。
