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小三治の稽古と趣味ー郡山和世「噺家カミサン繁盛記』より(1)

 新聞各紙、そして、ネットのニュースなどで、小三治のことを取り上げている。

 その偉大さを伝える内容に嘘はないとは思うが、もう少し、人間臭い側面にも光を当ててみたい。

 小三治を、すぐ近くで見てきた方の著作がある。

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郡山和世『噺家カミサン繁盛記』
 
 何度か紹介したことのある、小三治の奥様、郡山和世さんの本『噺家カミサン繁盛記』を、久しぶりにめくってみた。
 ちなみに、単行本(1990年発行)も文庫(1999年発行)も持っている。

 女子美大卒で開業医のお嬢さん(?)が、郡山剛蔵さんと縁あって結婚することになり、思いもかけぬ弟子達との“格闘”を繰り広げた日々を書き綴った本だ。
 
 これまでは、弟子のことを本書から紹介したが、今回は、小三治ご本人のこと。

 小三治の稽古と趣味

 何かと忙しくなった小三治は、家でキッチリと落語の稽古をすることが少なくなったが、一緒になりたての頃は、家で夜中に稽古することが多かった。昼日中は、ヒトの目もあって、稽古に集中できなかったのだろう。まして、子供達もまだ小さく、特異な父親の挙動に、不審を抱かぬとも限らない。
 ひとくちに落語の稽古といっても、ただ長い文章をマル暗記したり、早口ことばの練習をしたりするのではない。
 古典落語は、噺のスジ、骨格は大体決まっている。それを演者が夫々の演出、味つけで、仕上げていき、自分ならではのものにするのだ。
 登場人物の設定なども、大きな問題になる。どんな暮らし向きで、何歳位なのか? 性格、人相、体格は? など、最初にきちんとして置かないと、その人物像が噺の中で浮かんでこない。お客様に伝わらない・・・・・・という小三治の持論があって、自分なりの台本を作るまでに可成りの日時を費やす。
 台本が出来上がって、憶える段階に入ってからも、ひと言ひと言のセリフの言い回しを、ああでもない、こうでもない・・・・・・と何回も言い替えてやってみる。しつこい性格なのだ。イエ、完璧主義なのだ。
 そのうえ「暗記」という意味での、もの憶えは、あまり良い方ではない。そばで何気なく聴いている私の方が、ずっと早く覚えてしまう。覚えりゃいいってもんじゃないのは、先刻承知だが、
「エーと何だっけ・・・・・・アア・・・・・・と・・・・・・」
「コレコレコウでしょ!」
 つい口が出てしまう。
 何日かかかって、やっと噺を仕上げて覚え終るのは、やっぱり真夜中。うつらうつらしていた私は、突然蹴とばされ、湯気が出ている、新ネタを一席、サシで聴かされる。
 四~五十分程の噺を終えると、
「どうだった?」と、私に意見を求めてくる。
「あそこんとこ、私ァ面白くなかった。こういう気持ちでやるべきじゃないかな。だってあの場合、あれは、こうでしょ・・・・・・」などと思ったとおりの意見をえらそうに言う。
「うるせエんだ! あの場合は、絶対あれでいいんだ。そう言うんならテメェがやってみろってんだ! 出来もしねェくせに・・・・・・」
「・・・・・・」あたしゃ意見を求められたから言ったまでだ。眠くてしょうがなかったのに、冗談じゃないヨ。
 こんなことを繰り返して落語のなんたるかを頭にブチこまれ、すっかり私ァ小三治に洗脳されてしまった。しかし、最近彼は私に意見を求めなくなった。ほんとうにうるさくなったからだ。

 いいでしょ、和世さん。

 小三治の若かりし日、まだ、人間国宝としての気品はない。

 いや、待てよ。
 本質的な部分は、晩年まで変わらなかったのだと思う。
 年齢相応の変化はあったにしても、稽古に臨む姿勢や、考え方は、同じだったのではなかろうか。

 それにしても、ネタおろしをサシで聴いてダメ出しをする噺家さんの奥さん、そんなにはいないんじゃないかな。


 次回は、小三治の多様な趣味について、和世さんはどう書いていたのかをご紹介。

Commented by たろー at 2021-10-13 09:47 x
ご紹介いただいた本はまだ読んでいません
小三治師匠の文庫本いまだに積ん読状態なのでなんとかしましょう
「ま・く・ら」「バ・イ・ク」(2冊とも講談社文庫)

「噺家カミサン繁盛記」を原作としてフジテレビで放送されたそうです(Wikipedia)
僕がその番組を見なかったのは、平日9:55からの番組で仕事していたからだとおもいます
1991年11月から年末にかけて放送され、全30回朝の連続ドラマだそうです
Commented by kogotokoubei at 2021-10-13 10:17
>たろーさんへ

「ま・く・ら」も再読しています。笑えます。

私も見てはいませんが、テレビ化されたことを、この本のことを記事にした後に知りました。
2010年12月3日に拙ブログでも紹介しました。
ちなみに、この本からの最初の記事は、その前日に書きました。
Commented by たろー at 2021-10-13 17:50 x
お亡くなりになった小三治師匠とホームラン勘太郎さんに関わる放送予定お知らせします
BS・CSでも追悼番組はあるでしょうね

10/17(日)14:00~14:30 <再放送18(月)15:00~15:30>
Eテレ 追悼・柳家小三治「千早ふる」
633回東京落語会(2012年3月16日 東京・虎の門 ニッショーホールで収録)

10/17(日)20:00~
TBSラジオ らんまんラジオ寄席 ホームラン勘太郎さんの追悼番組
まだ公式情報でありませんが、相方のたにしさんほか出演と伺っています
Commented by kogotokoubei at 2021-10-13 17:56
>たろーさんへ

情報ありがとうございます。

NHKも「ザ・ヒューマン」を再放送するだろうと思っています。

音源を聴いたり、本を読み返したり、しばらく小三治を偲ぶ生活が続きそうです。

Commented by たろー at 2021-10-13 18:30 x
小三治師匠は音源も残されたし書籍もあるから聴いて読んで思い出すことができますね

五月雨的にすみませんラジオ放送追加します
10月21日(木)午前1時台
NHKラジオ第一 ラジオ深夜便アーカイブス
「柳家小三治さんをしのんで~言葉より、心ありき」
 出演 柳家小三治(2009年6月1日放送)

ラジオ深夜便は落語、漫才関係番組の宝庫
馬風師匠は朝4時台まで聴くヘビーリスナーと伺っています
僕は馬風師匠のようにオンタイムで聴けないので(笑)フリーソフトを使いPCで予約録音し聴いています
過去の音源以外にも現在昇太師匠がDJとして出演し、喬太郎師匠はトーク番組に出演されています

Commented by kogotokoubei at 2021-10-13 18:44
>たろーさんへ

ありがとうございます。

NHKラジオなら、らじるらじる、で聴けますね。

さすがに、リアルタイムで深夜便は聴けないです^^
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by kogotokoubei | 2021-10-12 20:18 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Trackback | Comments(6)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛