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マーティン・ファクラー著『日本人の愛国』より(2)

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マーティン・ファクラー著『日本人の愛国』(角川新書)

 角川新書から6月10日付けで発行された、マーティン・ファクラーの『日本人の愛国』から二回目。

 最初に、「第四章 定まらない愛国ー島は巨大な墓である」から、太平洋戦争にって亡くなった日本兵や国民の遺骨の百万柱以上が収容さらないままになっていること。そして、それは、日本政府、なかでも自民党政権が意図的に敗戦を直視しようとしないことに原因がある、という著者の指摘を紹介した。

 ちなみに、硫黄島では、あの栗林中将の遺骨も、バロン西の遺骨も遺族には届いていない。

 今回は、「第一章 愛国は多層的だ」から。

 私はアメリカ中西部のアイオワ州の前州都アイオワシティで生まれ、10歳のときに家族とともにアトランタに移り住んだ。高校までの8年間をアトランタで過ごした。
 アイオワシティはアイオワ大学が本部キャンパスを構え、広いトウモロコシ畑に囲まれた閑静な町だった。対照的にアトランタには南北戦争の爪痕が生々しく残っていた。幼かった私にとってそれは大きな驚きだった。
 たとえば町中では、南部連合軍の兵士たちが身を隠すために掘った穴や塹壕を目にした。子どもでも扱えるような簡易な金属探知機を手いして歩いていると「ピピピッ」と頻繁に反応がある。掘り起こしてみると、出てくるのか決まって銃弾だった。

 アイオワ州の場所は、下図のように北米の少し北だ。

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 現在の州都は、デモインで人口約20万人。ちなみに、アイオワシティは約15万人。

 市域内の人口約40万人の州都アトランタがあるジョージア州は、この位置だ。

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 間違いなく、南部。

 さて、そのアトランタに、今も南北戦争の名残があるのだ。
 そして、その内戦について、南部の人々は、微妙な感情を抱いている。

 敗北をロマンチックに修正

 残っていたのは、戦争の痕跡だけではなかった。150年以上経ってもなお、負けた戦争に対しての複雑な思いが、アトランタの多くに市民の心の中に深い傷のように残っていた。アメリカの教科書は戦争に勝利した北軍の見方を反映して、南北戦争を「アメリカ内戦」(The American Civil War)と記述しているが、アトランタなど南部では、特に白人の間で違う呼び方がある。「州間の戦争」(The War Between the States)や、「北部の侵略戦争」(The War of Northern Aggression)と呼ぶ人も少なくなかった。
 南部の一部の白人の中で、教科書の教える歴史が北部の押し付けた歴史観であると反発し、南部は奴隷制度のために戦ったのではない、と否定する人もいる。彼らの考える戦った理由は、南部の独自文化と社会構造を守ることと、その文化や社会を強制的に変えようとする強力な中央政府に抵抗するため、というものだ。
 そこに、南北戦争前の南部社会に対するロマンチックな見方が加わる。すなわち、当時の南部は、産業革命の起きていない農業社会であり、ヨーロッパの封建時代に近い騎士的な制度を持つ社会であった。その南部の近代的な封建社会は、上級社会の男たちは昔の棋士と同様に勇敢な紳士であったーこの浪漫的なイメージは『風と共に去りぬ』という映画にも反映されている。映画を観たことのある方はおわかりになると思う。もちろん一種の歴史修正主義だが、アメリカの映画や本に今でも見ることができる。

 同じ内戦で思い出すのは、日本の戊辰戦争だ。

 私が住んだことのある越後長岡や会津などでは、あの戦争を決して薩長中心の明治政府の押し付ける歴史とは別な見方をしている人が多かった。

 明治政府の歴史観を端的に表すのが、靖国神社の存在だ。
 靖国は、明治天皇により、あくまで官軍側の戦没者を弔うためにつくられた神社であり、戊辰戦争の旧幕府軍も、西南の役で明治政府に反抗した西郷隆盛の西郷軍も、靖国に御霊が存在しない。

 また、太平洋戦争においても、勝者と敗者では、あの戦争への見方が違ってくるのは、必然なのかもしれない。

 そうした敗者の歴史がまざまざと残るアトランタで少年時代を過ごしたことが、著者マーティン・ファクラーに少なからず影響を与えた。

 著者は、こう指摘する。

 日本はアメリカ南部と敗戦国という点で共通している。戦後の日本社会の愛国心は戦争に敗北した体験によって構成されてきた。
 アメリカ南部との共通点がもう一つある。日本社会も、負けた戦争をどう評価すべきあについて、コンセンサス(同意)がいまだないという点だ。むしろ、太平洋戦争をどう記憶すべきかが社会の争点となっており、日本社会を右・左に分ける軸になっている。
 右の方は、戦前、戦時中の日本が特段悪いことをやったのではないと考えている。大日本帝国は列強の帝国主義と同じようなことをやっただけだったという。戦争は負けたが、日本が悪だったわけではない、と。
 いわゆる極右の方々はさらに極端で、日本はアジアを白人支配から解放しようとして戦争をしたという、戦争当時の日本政府が主張したいたイデオロギーを鵜呑みにしている。簡単に言うと、それは日本の歴史の中の「正義の味方(hero)」であったと信じている。
 逆に左派は、日本が天皇の名の下で、ナチスドイツと同じように行ってはならないことをした、と信じている。南京虐殺や慰安婦問題に見るように、日本がアジアで悪いことを仕掛けたのだから、せめてアジア諸国に対して反省すべきだという。
 そして、もっと極端に、あの戦争の教訓として、戦時中の極端な国家主義が二度と起こらないようにすべきであり、軍隊を持たず、戦争の巻き込まれる危険を回避すべく国内に基地を持つアメリカ軍を追い出すべきだと考えている人も少なくない。
 戦後日本では、右派と左派の論争はアメリカ南部に負けないぐらい激しく、感情的になるときもあった。アメリカの南部と同様に、戦争の呼び方そのものについての対立もある。教科書やメディアの中では「太平洋戦争」というのが一般的だが、右派の方の中にはその呼び方が連合国軍司令官総司令部(GHQ)により日本に押しつけられたとして、今も「大東亜戦争」と呼ぶ人が少なくない。
 しかし今、日本はトランプ時代のアメリカと同じように未曾有の変化に直面している。それによって、日本社会も変わりつつあると感じている。

 さすがに、「大東亜戦争」と呼ぶ人は限りなく減ってきてはいると思うが、もしかすると、自民党の右派陣営の中には、残っているかもしれない。

 著者が、日本が直面しているという未曽有の変化とは何か。

 この10年、国際状況は大きく変化した。戦後の世界秩序を維持し、日本が頼ってきたアメリカは、国力が相対的に衰退し、国内の政治的な分裂によって麻痺状態に陥っている。日本にとって頼れる存在ではなくなったと感じる日本人が増えてきた。一方、中国は奇跡的な経済発展を成功させ、野心のある経済・軍事大国になった。
 (中 略)
 政治では、自民党が政権を取り戻して、第二次安倍内閣が特定秘密保護法や日本版NSC(国家安全保障会議)を作って、国家の機能を強化してきた。米軍への依存度を減らそうと考え、軍事予算を増やし、自衛隊の軍事能力も高めている。武器輸出三原則も緩和した。
 世界における日本の地位が低下していくとともに、日本社会も余裕がなくなってきたかのようだ。私がこれを如実に感じるのは、「在日特権を許さない市民の会」など極端な言説をとなえる人々の台頭である。いわゆるネット右翼もその一つだ。日本のソーシャルメディアの空間は、人に優しい日本社会と対照的に、ピリピリと不寛容で、ののしりあいが頻発し、他者を侮辱したち、脅かしたりする。フェイクニュースも当たり前のように飛び交っている。

 著者は、2012年9月に、ワシントン・ポストによる「中国の台頭に伴い、日本が右寄りに」という記事が話題になり、勤務先のニューヨーク・タイムズ紙も、社説で同じような見解を書いていた時、東京支局長として、同じような論調の記事を出すように言われたが、いつも拒否した、と語る。

 私の日本の見方は違っていたからだ。確かに日本の社会は変わりつつある。これまでと異なる新しい雰囲気が広がりつつあることは感じていた。戦前の明治憲法を褒めたり、歴史修正主義的な思想を黙認する政権が継続したりしているのも、その一例である。
 でもそれが日本の社会全体に及んでいるのか、日本人の多くが右派的な考え方になったのかー私はそうは思わない。特に、海外メディアがいうような、戦前と同じようなナショナリズムが再び現れているとは思えない。日本社会で起きている変化は、そんな単純なものではないからだ。

 著者は、今の日本の様相を読み解くために、戦前の愛国とはどんなものだったかを、振り返る。

 次回は、『第二章 戦前の愛国ー上からの愛国は命さえも軽んじられる』より。
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by kogotokoubei | 2021-06-30 12:47 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Trackback | Comments(0)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


by 小言幸兵衛
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