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森達也著『FAKEな日本』より(9)

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森達也著『FAKEな日本』(角川文庫)

 森達也の『FAKEな日本』から九回目。
 同文庫は、2017年に単行本『FAKEな平成史』として発行されたものを改題し、加筆修正したもの。
 師走の12月25日に発行。

 引き続き、「第三幕 自粛と委縮に抗ってー幻の『天皇ドキュメンタリー』」より。

 前回、昭和天皇が病に臥せったことによる自粛期間に、ザ・ニュースペーパーが誕生したことを紹介した。

 そのネタが、皇室をギャグにしたというところが、なんとも凄い。

 森と角川の編集者岸山による松元ヒロへのインタビューからの引用を続ける。

「天皇以外にも、ヒロさんのライブでは、タブーとされているネタが多いですね」
 岸山が訊いた。松元は「今は公明党ネタかなあ。例えば安倍首相の悪口を言って大きな笑い声が上がると・・・・・・」と言いながら、ふいに半腰になって身振りが大きくなった。要するにスイッチを入れた。
「はい、(客席の)こちらに座っているのは革新系の方々ですね。こちらは笑わないから自民党のみなさんかな。あっ、こちらはブレーキ役として与党にいると言いながら、やたらアクセルを踏んでいる公明党の方ですね!」
「受けますか」
「受けますよ。まあ自分のライブで受けることは当たり前だけど、松元ヒロを知らないお客さんがいる普通の寄席でも、大きな拍手と笑い声がきたんですよ。それから自身を持って、国立演芸場とかでもこのギャグをやりました。やっぱり大受けです。
 でもそのとき、終わってから楽屋に若い男性が訪ねてきて、『僕は公明党を応援してます』って言うんです。要するに抗議ですね。『君は創価学会員ですか』と訊いたら、『はい。そうです』と答えてくれました。『俺が今日、言ったこと、間違ってる? 公明党は自分たちを平和の党とか福祉の党って言ってきましたよね。今はブレーキ役として与党にいると言っていあます。でも今、公明党はその機能を果たしていないと俺は思うんだよ。君は平和は大事だと思っていないかい』『いや、大事だと思っています』『大事だと思っているんだったらさ、君たち若い連中が公明党の中から変えてみろよ』って言ったんです。そうしたら『わかりました』って言ってくれて帰ったんですよ。
 そのとき、感動したんです。他の会場でも、『実は僕、学会です』って言われたことが何度かあります。やっぱり(学会員は)数が多いから。でも『ヒロさんが言ったことは正しいです』って。それからは友達になりました。
 タブーといわれることをみんなが恐れて触れなければ、やっぱりタブーは肥大しますよね。でも多くの人は言えない。タブーですから。だから僕が言う。それによって気づく人はきっといる。所詮はお笑いですが、だから逆に強いんですよね」

 松元ヒロのライブに行くくらいだから、楽屋を訪れた若い学会員は、笑いが分かるだけの心のキャパシティの広さがある人なのだろう。
 しかし、彼がその後どんな行動をしたかは分からないが、公明党は与党のブレーキ役として機能しているとは、思えない。

 次に、自粛期間にあえて演じたあの舞台について。

 おそらくここまでを読みながら、「さる高貴なご一家」とはどのようなギャグなのか、まったくイメージがわかない人が大半だろう。説明してもらえますかと訊けば、「僕は顔がこんな庶民的な作りなので、天皇家は無理ということで侍従役でした」と松元は言った。「最初に僕がステージに登場して、『それでは、さる高貴なご一家のご主人様と奥さまのご登場です。どうぞ』って言うんです。♪タラ~って高貴な雅楽が流れて、天皇と皇后に扮した二人が登場します。皇太子とか秋篠宮とかも現れて、家族でコントを始めます。コントは他愛ないです。高貴なご一家も庶民と変わらない。結局は、そういうことですね。
 天皇の記者会見のコントなどもありました。僕が司会役です。記者が手を挙げて『朝日新聞ですが』って言えば、『はい、どうぞ』って質問を受け付けます。次に別の記者に訊きます。『はい、そちらは?』『赤旗です』『あっ、けっこうです。あちらに行ってください』とか」
「つまり天皇自身や家族を・・・・・・」
「傷つけるようなコントじゃなかったです。今もそうですよ。ただね、ギャグに対しての家族の変化という意味では、特に組合系の集会などで『今の天皇や美智子さんは憲法をすごく大事になれている』とか『今のご夫妻はリベラルですばらしい』とか、真顔で言う人が増えました。何かねえ、こういうことを言う人たちにとって、天皇の存在って何だろうって本当に思います」
 時代の変化、それは確かに感じる。戦後天皇制は、「開かれた皇室」をキーワードに、権威よりも家族を前面に打ち出した。だからこそ一時、いわゆる菊のタブーは緩くなった。例えば昭和30年代に朝日新聞に掲載された『サザエさん』には、波平が簾の向こうから気取った声でカツオを呼ぶという回がある。明らかに天皇を揶揄していた。そもそも当時は、美智子さまではなくて美智子さんだった。

 天皇ご夫妻はリベラル、という指摘、頷けるなぁ。

 特に平成天皇が在位期間の晩年、安倍首相によって、憲法をないがしろにし戦争ができやすい国にしようとする動きに、注意深くではあるが、明確に反戦のメッセージを発していたように思う。

 例えば、第二次安倍内閣が発足してからほぼ一年後の平成二十五(2013)年12月、80歳の誕生日での会見で、天皇はこうおっしゃっていた。
宮内庁サイトの該当ページ
「80年の道のりを振り返って、特に印象に残っている出来事という質問ですが、やはり最も印象に残っているのは先の戦争のことです。私が学齢に達した時には中国との戦争が始まっており、その翌年の12月8日から、中国のほかに新たに米国、英国、オランダとの戦争が始まりました。終戦を迎えたのは小学校の最後の年でした。この戦争による日本人の犠牲者は約310万人と言われています。前途に様々な夢を持って生きていた多くの人々が、若くして命を失ったことを思うと、本当に痛ましい限りです。
 戦後、連合国軍の占領下にあった日本は、平和と民主主義を、守るべき大切なものとして、日本国憲法を作り、様々な改革を行って、今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し、かつ、改善していくために当時の我が国の人々の払った努力に対し、深い感謝の気持ちを抱いています。」

 安倍政権による憲法改正(改悪)の流れに棹をさす言葉だったと思う。

 天皇は政治的な発言を禁じられている。安倍内閣については、もっと言いたいことがあったはずだ。
 平成天皇や美智子皇后の言葉は、今後、もっと振り返られていいように思う。
 その言葉の中には、明確な反戦や護憲の精神が宿っているからだ。
 だから、同じような思いを持つ国民と皇室との距離が、以前よりずっと近づいたのが平成だったかもしれない。

 そういう意味では、ザ・ニュースペーパーや松元ヒロのギャグのネタは、皇室よりも、間違いなく政治が相応しいものとなってくるのだろう。


 本書の松元の言葉を続ける。

「やっぱり日本人って空気で動く。世の中の空気に逆らわない。その傾向が強くなったとは感じます。例えば愛子さま。ちゃんでいいですよね。当時は三歳です。何の業績も挙げていないのに。昔はこれ(を舞台で言うだけ)で笑いが来ました。今は来ません。
 五年前にライブに来てファンになってくれたドイツ人女性がいるんです。クララさん。手紙をくれたのだけど、『ライブを見て泣いた』って書いてあったんです。その後に会って、『どうして泣いたのですか』って訊いたら、『ホームシックになった』って言うから、『えっ、僕の顔はお父さんに似ているの』って言ったら、『お父さんはそんなに鼻は低くない』って」
 そこまで行ってから松元は、僕と岸山の顔をゆっくり見つめる。
「・・・・・・今のはギャグです。でもここからは真面目です。クララさんは、『自分が幼いことにドイツのテレビで見ていたスタンだっぷコメディアンを思い出した』って言うんです。ドイツのテレビでは、政治家や政策をギャグにしてしまうコメディアンがたくさんいたって。イギリスで生活したときは、テレビで王室を揶揄することは当たり前だった。アメリカでは大統領をギャグのネタにする。それは世界どこでも当たり前だと思っていたら、日本では誰も天皇をギャグにしない。原発再稼働を指示する政治家をジョークで笑わない。なんと封建的な国なのかと思っていたので、ヒロさんのライブを見て嬉しかったって言われてました。」

 クララさんは、落語愛好家の方でご存じの人も少なくないと思う。

 私は、かつて、横浜にぎわい座の秘密地下倶楽部(?)、のげシャーレで兼好や一之輔が独演会を開いていた時期、よく会場でお会いして、ご挨拶したこともある。

 欧州での落語会のプロデューサーとしても知る人そ知る方だ。

 かつてはブログで、原発問題などを実に鋭く非難されていたので日常的に拝読していたが、今はツイッター中心のようだ。

 欧米では皇室や権力者をギャグにすることが当たり前なのに、なぜ、日本ではそういう芸人さんが少ないのか。

 クララさんの疑問は、よく分かる。

 そんなこともあって、前の記事で自民党のポスターをネタにした、というわけではない^^

 それにしても、もっともっと落語家も色物さんも、政治家をネタにしていいと思う。
 なぜなら、庶民の思い、怒りを代弁することも、芸人の重要な役割だと思うからだ。

 永田町や霞が関に巣食う彼らは、庶民の気持ちなど分かろうともせず、我々の血税を無駄遣いしている。
 今、まさにその悪行が極まりつつあるのではないか。


 さて、このシリーズのこと。
 次回がちょうど10回目ということで、区切りも良いし次回で終了予定。

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by kogotokoubei | 2021-01-18 12:57 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Trackback | Comments(0)

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by 小言幸兵衛
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