佐木隆三著『身分帳』より(1)
2020年 08月 18日

佐木隆三著『身分帳』
『復讐するは我にあり』で直木賞を受賞した、佐木隆三の『身分帳』だ。
初版は平成三(1991)年。伊藤整文学賞の受賞作。
講談社文庫で二年目に再刊されたが、長らく絶版状態だった。
今年7月に文庫新装版で再刊されたのは、西川美和監督が本書を元に映画「すばらしき世界」を制作したことが、きっかけとなっている。
巻末にある、その西川美和監督の「復刊にあたって」から引用。
『身分帳』のことは知らなかった。
その題名も知らなければ、言葉の意味も知らない。佐木隆三さんの作品の中に、そういうものがあると知ったのは、新聞紙面に訃報が載った時だった。
「佐木さんというと『復讐するは我にあり』が有名ですし、代表作とされていますが、私としては伊藤整文学賞を受けた『身分帳』が彼の真骨頂だと思っています。犯罪者を見つめる目が温かい。犯罪と犯した人を人間として理解しようとするスタンスが彼の犯罪小説を文学たらしめたと思います」(2015年11月2日/読売新聞)と、生前佐木さんと親しかった作家の古川薫さんが寄稿されていた。
実は、書店で何気なく立ち読みして、この文章に出会って、買うことにしたのだ。
なぜなら、古川薫さんの本のファンだから、である。
拙ブログでも、『吉田松陰の恋』(元の題「野山獄相聞抄」)や、久坂玄瑞に関する『花冠の志士』、本多正信について書かれた本などについて、大河ドラマへの小言を書く内容の中で紹介したことがある。
2014年12月18日のブログ
2015年1月5日のブログ
2016年12月20日のブログ
下関出身で、地元新聞社での勤務経験もある古川さんは、直木賞候補となること11回目に、『漂泊者のアリア』で受賞。
同じ長州出身の維新の立役者を英雄視するというより、その周囲の名もない人物に焦点を当てた作品が光る人。
その古川さんも、一昨年、故人となられた。
とにかく、この古川さんの推薦の言葉を目にしなければ、読まなかったに違いない本。
ご縁があった、ということだろう。
さて、この本から。
第一章の扉に、こう書かれている。
〖昭和五十三・三・二二 法務省矯正局長通達〗
収容者身分帳簿は、被収容者の名誉、人権に関する事項及び施設の適性な管理運営上必要な事項等が記載されており、その性質上全体として外部に対して秘として取り扱うべきものであるが、秘密性は被収容者の出所後、更には当該身分帳簿の保存期限経過後といえども変わるところはない。したがって、出所によりう終結し、釈放後施設において保存すべき身分帳簿の取扱いは、在所中の者の身分帳簿と同様慎重を期すべきである。
本書のお題に疑問を持つ読者に、まずマクラでこうふってから始まる、ある男の物語が始まる。
山川一(はじめ)の刑期は、昭和六十一年二月十九日で満了した。八年半も収容された旭川刑務所から、翌二十日の出所だった。
二月二十日(木曜日)は、未明から雪が降りはじめた。北端の宿舎で目覚めて窓の外を見たが、吹雪く気配はなさそうだ。前日は薄曇りで、午前六時の気温はマイナス二十一・六度だった。
雪のせいで少し気温が上がったらしく、余り痛いとは感じない。マイナス二十度が、「寒い」と「痛い」の境目のような気がする。北海道のほぼ中央だから気候は内陸型で寒暑の差が大きく、観測史上の最高は三十五・九度、最低はマイナス四十一・0度という。
私も北海道出身だが、どちらかと言うと温暖な南の地。
旭川は内陸性で、夏暑く、冬寒い。それも、半端ではない。
山川一のこの後の、いわば浦島太郎的な塀の外の生活について、今後しばらく続けてみたい。
初回は、このへんでお開き。
