映画「新聞記者」のこと。
2020年 03月 23日
昨日は、テニスクラブもまだ閉鎖中で時間があったので、観ていなかった映画「新聞記者」を観てきた。
東京新聞の望月衣塑子さんの著書『新聞記者』を原案とした映画で、日本アカデミー賞で、作品賞、主演男優賞、主演女優賞の主要部門を獲得し、あらためて上映されていたようだ。
望月記者自身を森達也が自らカメラを回して撮った「i ー新聞記者ドキュメントー」という映画は、昨年12月に観ていた。
2019年12月9日のブログ
また、望月さんの著書『新聞記者』や、望月さん、前川喜平さん、マーティン・ファクラーさん三人による書『同調圧力』を先に読んでいた。
そういうこともあって、映画「新聞記者」には、やや、勘違いした期待を持っていたようで、正直なところ、観終えて、「あれっ?こういう映画だったの?!」という印象。
ちなみに、新百合ヶ丘のイオンシネマだったが、上映10分前には客席に私一人、最終的には10人ほどになったが、離れた客席に点在していた。
天井は高いし、新型コロナウイルスのクラスターにはなりにくい環境だと思うのだが、とにかく、閑古鳥が鳴いていた。
この映画の感想を書くというより、『同調圧力』の望月さんが書いた章から、この映画に関する部分を引用しながら、私の勘違いのことなどにも触れてみたい。
---ここからはネタバレになるので、ご留意のほどを---

『同調圧力』(角川新書)
2019年6月に発行された、望月衣塑子、前川喜平、マーティン・ファクラー三人の共著『同調圧力』については、昨年四回記事で紹介した。
2019年12月12日のブログ
2019年12月15日のブログ
2019年12月16日のブログ
2019年12月19日のブログ
その中で、「第1章 記者の同調圧力 望月衣塑子」から。
3 同調圧力に屈しない人々
一つ一つ作り上げていく映画の現場
思い通りにいかないことも多々ある毎日だが、それでももう少し頑張ってみようと思えるのは、同調圧力をものともせず、プロフェッショナルを貫く人々の生きざまを目の当たりにする機会が多いからかもしれない。
そのひとつが、映画製作の現場だ。
『新聞記者』が原案となり、映画になることが決まった。話がもち込まれたのは本が出て数か月がたったことのこと。出版社を通じて、映画プロデューサーの河村光庸(みつのぶ)さんにお会いした。
河村さんは寺山修司の長編小説を映画化し、俳優の菅田将暉氏が主演した「あゝ、荒野」など、数々のヒット作を手がけ、挑戦的な映画に挑み続けている敏腕映画プロデューサーだ。
「『新聞記者』を読んで、新聞記者、個を応援していけるような映画を作りたい、と思ったんだよね」
という。私の本が誰かの想像力を刺激したのだとしたら本当にうれしい。河村さんは安倍一強が続く現在の政治や社会の状況に対して、強い危機感をもっていた。普段から政治にそれほど関心のないような若い層などにも、映画の力で働きかけていきたいと話してくれた。
「今の社会や映画産業に風穴を開ける映画を作りたいんだよ」
初対面ながら、3時間ほどにわたって熱い思いを語ってくれた。
とはいえ当初は、原案ではあるが、「モリカケ疑惑」や伊藤詩織さんへの準強姦疑惑事件などを扱った『新聞記者』の映画化は、かなりのハレーションがるのではないかと思っていた。広告業界や芸能事務所なども、政治的な摩擦を避けたいと思う人が多いだろう。
やはり、その後かなりの紆余曲折があったそうだ。脚本家は7人入れ代わり何度も脚本が練り直された。私への連絡も半年ほど途絶えたときがあり、やはり難しかったのか、立ち消えになってしまったのかな・・・・・・と思ったりもした。
紆余曲折の内容は、分らないが、当初の構想から、内容は変遷したことは間違いないだろう。
そこには、変えざるを得ない、さまざまな圧力もあったのだろうか。
脚本家は7人入れ代わったとのことだが、さて、最初の段階で、どんな脚本だったのか・・・・・・。
引用を続ける。
しかしその間も河村さんは奔走し続けてくれていた。クランクイン直前の2018年11月、脚本が完成した。
監督は、7人の若者の青春群像劇である「青の帰り道」や、俳優の山田孝之氏と共に手がけた「デイアンドナイト」などのヒット作を次々と生み出し、若手でもっとも注目されている藤井道人さんが引き受けてくださった。シム・ウンギョンさん、松坂桃李さんのダブル主演も決まった。錚々たる面々だ。名前を聞いただけで興奮した。
望月さんご自身は、映画化されたことへの喜びもあるだろうから、こういう書き方になるのだろう。
しかし、私が観終わって浮かんだ疑問の一つは、なぜ、韓国人女優を採用し、帰国子女という設定で、たどたどしい日本語を主人公が語るのか。
そういう設定に、どんな必然性があったのか・・・・・・ということだった。
また、東都新聞の記者吉岡は、日本人の父と韓国人の母の間に生まれ、父も新聞記者だったが、あるスクープを「誤報」と非難され、自殺をとげていた、という設定。
たしかに、望月記者のお父さんは、業界紙の記者ではあった。
とはいえ、シム・ウンギョン演じる吉岡のたどたどしい日本語は、この映画のリズムを狂わせているように、私には思えてならない。
紆余曲折、7人脚本家が変更、という経緯に、どうもその疑問の答えがありそうだ。
まず、日本人女優で、主人公の新聞記者を演じさせることに、リスクがあったのではなかろうか。
それは、事務所側の抵抗もあったかもしれないし、候補となった女優自らが辞退したのかもしれない。
河村プロデューサーは韓国映画界にも通じているから、韓国人女優の起用、ということはあり得るのだが、私には、無理筋に思えてならない。
紆余曲折の結果なのだろう。
私は「i -新聞記者ドキュメントー」を観ていることもあるし、望月さんの著書を読んだり、テレビやネットで彼女の姿を見ているので、あのエネルギッシュな姿を、主人公の女性記者に期待していた。
しかし、シム・ウンギョン演じる記者吉岡は、まったくそういうキャラクターには描かれていない。
どちらかと言うと、静的で、目や細かな表情で演技するタイプで、「あら、これは望月さんがモデルとは言えないなぁ」と思ってしまった。
その時点で、私のこの映画への期待は、大きな勘違いだった、と反省することになった。
とはいえ、この映画の冒頭から、当の望月さんが登場したのには、びっくりもし、嬉しくもあった。
『同調圧力』から引用。
撮影は2018年11月末から、14日間かけて行われた。
一番初めの撮影は、実は私と元文科事務次官の前川喜平さん、マーティン・ファクラーさんの座談会で、南彰さんが司会役を務めてくれた。このときのやりとりが絶妙な形で映画に織り込まれるのだが、それはぜひ映画館で観ていただけたらと思う。
はい、映画館で観させていただきました^^
それにしても、14日間での撮影とは、驚いた。
ある意味、そんな短期間でよく作ったね、とも思うが、そうなると、内容には限界も出てくるのは、やむなし。
伊藤詩織さんをモデルとしているレイプ事件のことや、前川喜平さんとモデルとしている文科省官僚への内調のトラップなどのい描き方が、どうしても断片的になった。
また、もう少し深く描いて欲しかったのは、内閣情報調査室という“闇の集団”のこと。
情報室のトップ、多田役を演じたのは、田中哲司だが、彼の演技そのものが悪いとは思わない。
問題は、彼の背後に蠢く悪の元凶をどう描くかなのだが、悪役は多田という人間を描くだけの印象。
また、映画の調査室の映像は、どこかの会社といった印象。
多田の背後にある悪の根源をイメージすることができなかった。
その多田の部下である、松坂演じる杉原。
杉原がかつて信頼していた外務省時代の上司の神埼が自殺するのだが、その経緯での神埼の苦悩、内調の怖さも描ききれていない。
兄弟ブログ「幸兵衛の小言」で以前紹介した『官邸ポリス』という本がある。

幕蓮著『官邸ポリスー総理を支配する闇の軍団』(講談社)
モリカケ問題への対応を含め、政府を支える闇の組織を、元警察庁キャリア官僚が内部告発した本として話題になったのが、『官邸ポリスー総理を支配する闇の軍団』だ。
著者は、幕蓮というペンネームで、巻末のプロフィールには、「東京大学法学部卒業。警察庁入庁。その後、退職」とだけ記されている。
Amazonには、多くの否定的なレビューが投稿されている。
それだけ、この本の帯にある「92%は現実」を裏付けていると私は思う。
主要登場人物の仮名と、実際の人物と思われる名を並べてみる。
内閣官房副長官 瀬戸弘和--->杉田和博
内閣情報官 工藤茂雄 ------->北村滋
警察庁総括審議官 野村覚--->中村格
実名の三人、ここ数年、いろんな場面でネットに登場する。
さて、森友学園問題の部分を引用したい。
まさに「国策捜査」の実態はこうだったのか、と思わせる内容。
なお、本書では、盛永学園で門池理事長、となっている。ちなみに、首相の名は、多部。
事実はどうであれ、このままでは総理の印象が悪化するばかりだー瀬戸副長官は、大阪府警の毛利本部長に直接、電話した。
「門池を黙らせられないか?」
毛利本部長は、それまでの盛永学園に関する情報を整理して、門池周辺への聞き込みを強化した。すると、塚田幼稚園が教員の人数を偽り、補助金を不正受給している疑惑が浮上した。それは、瀬戸副長官に伝えられ、当然、工藤情報官以下の内調メンバーにも情報共有された。
そして2017年3月、当該補助金の不正受給疑惑が新聞で報道された。
しかし一方で、財務省の佐藤理財局長が、国有地売却について「財務官として、価格を提示したことも、先方から買いたいと希望があったこともない」と国会答弁していた。
既に、Sを通じて近畿財務局が作成した書類を入手し、それらに目を通していた瀬戸や工藤は、佐藤局長の答弁に冷や冷やしていた。しかし、財務省の答弁に意見を言うわけにもいかず、不安に思っていたところ、四月に入って大阪地検が、財務省職員らに対する告発を受理した。そうして国が不当に安い価格で国有地を売却したとする背任容疑で捜査を開始し、その後、証拠隠滅や公文書等毀棄などの告発も受理した。
不正受給疑惑が報道された後も、むしろ財務省が世間の批判を浴び出したことに浮かれて、門池の放言は止まらなかった。野党も門池の胡散臭さに気づきつつも、多部政権を攻撃する好材料と考え、連日、話題にした。もうこうなれば、最後の手段だ。
-門池に、「なか」に入ってもらうしかない。
この後、“闇の集団”は、盛永学園の銀行口座や門池夫妻の個人口座を調べ、どの口座にもまとまった金がないことを確認。クレジットの信用調査もブラック分類になっていることが判明。
といった内容で、実にリアルな“闇の集団”の描写が続く。
「新聞記者」は、加計問題をモデルとして、そこに生物兵器研究という隠された目的を加え、首相と懇意な人物によって特区での新医大開設が画策されていることを、吉岡と杉原が暴く、という展開。
生物兵器、という大きな悪を引っ張り出したのも、紆余曲折の結果なのかもしれない。
首相のお友達に便宜を図る、というだけでは、リアルな世界と同じなので、味付けをしたような気がする。
吉岡には父の自殺、杉原には神埼の自殺、というそれぞれの謎を解きたいという思いでの共通項がある。
二人の協力で、医大開設にまつわる疑念への裏づけを取り、東都新聞の一面で吉岡による記事を見た多田が、直接吉岡の携帯に電話し、「お父さんのスクープは誤報ではなく事実だった、しかし、彼は死んだ」と謎かけ的な脅しをかける。
その電話の直後、多田は目の前にいる杉原に、「外務省に戻してやろう、しかし、すべて忘れろ」、と告げる。
呆然となって多田の部屋を出た杉原。
心配で駆けつけてきた吉岡と杉原は、道路を隔ててお互いを見つめる。
多田の目は空ろだ。
そして、エンディング・・・・・・。
多田の姿は、果たして、神埼の二の舞になる危険性を暗示しているのかどうか。
神埼のモデルは、このたび遺書と手記が公開された、赤木俊夫さんだろう。
そういう意味では、赤木さんは、「新聞記者」の神埼さんだ、という話題が広がることは良いことかもしれない。
この映画が日本アカデミー賞を受賞したこと自体は、私は喜んでいる。
それは、河村プロデューサーが製作の動機として望月記者に語った、現在の政治、社会情勢への危機感が、映画界の多くの人によって共有されたということだろうから。
また、本物の内調(?)の怖さを考えると、よくぞこの映画をつくってくれた、とも思う。
とはいえ、もろ手を挙げて喜べない部分があるのも、事実なのだ。
私は、脚本家が7人変わった背景や、紆余曲折の中身が気になってしょうがない。
やはり、主役は、日本人の女性記者であって欲しかった。
「i -新聞記者ドキュメントー」で映像化された、キャリーバッグを引き摺りながら精力的に現場での取材を続け、官房長官に露骨に嫌がらせを受けながらも質問を繰り返す望月記者がモデルなら、もっとアグレッシブに権力に立ち向かう日本人女性によって、新聞記者を描いて欲しかった、というのが本音だ。
古くなるが、スリーマイル島の原発事故の少し前に、映画「チャイナシンドローム」で原発の闇を暴こうとするジャーナリストを演じたのは、ジェーン・フォンだった。
日本のジェーン・フォンダの出現には、まだ時間が必要なのかもしれない。
映画を観終わって、実は、そんなこと思っていた。
