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徳川夢声著『話術』より(3)

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徳川夢声著『話術』

 徳川夢声の『話術』からの三回目。
 本書初版は、昭和二十二年刊行の秀水社版。二年後に白揚社からも刊行された。二年前に再刊された文庫の元になったのは、白揚社が平成十五年に出した新装版。

 本書の最後に「話道の泉」と題されている。

 さまざまな歴史上の話術の達人の逸話が取り上げられていて興味深いので、ご紹介したい。
 たとえば、この人物の、こんな行動が取り上げられている。

 黒田孝高(如水)、病に臥し、死前三十日ばかりの間、諸臣を罵辱す。諸臣思うに、病気はなはだしく、殊に乱心の体なり。別に諌むべき人なしとて長政(孝高の息)に告ぐ。長政もっともと思い孝高に、諸臣畏れ候間少し寛(ゆるやか)にし給えと言う。孝高これを聞き、耳を寄せよといわれし故長政寄せければ、「是は汝(な)が為(た)めなり、乱心にあらず」と小声で言われけり。
 是は諸臣に厭がられて、早く長政の代になれかしと思わせんためなりしとぞ。
 故菊池寛氏によると、戦国時代の武将の中で、どうしても五人選べということになるとこの黒田孝高を一人加えないわけには行かないそうだ。その目先の利くことは、秀吉、家康以上ではないかと思われるという。
 この死の直前における、諸臣罵倒侮辱の件は、ある意味では大話術である。
 家来どもを交々(こもごも)枕元に呼んで、セガレのことは何分頼むと、千言万語を費やすよりは、片端から怒鳴りつけ、叱り飛ばし、毒舌のあらん限りをつくして、
「早くこんなオヤジくたばれば好い。とてもこれではやりきれん。一日も早く、息子の代になってもらいたい。」
と、思わせた方が、はるかに効果的で、セガレのためになるわけ。
 話術においてもその通り、千語万語を用いるより、意外の方向から一言二言で、同じ効果をあげる場合がある。

 冒頭の引用は、吉川英治の『黒田如水』と思われる。

 なるほど、あえて嫌われ者になる言動を発して、世代交代を穏便に行おうとするのも、たしかに話術かもしれない。

 他にも、こんな逸話が。

 第一次大戦当時の、アメリカ大統領、ウッドロー・ウィルソンも、雄弁家列伝には欠かすことのできない大物だが、
「一時間位の長さの演説会なら、即座に登壇してやれる。二十分ほどのものだったら二時間ほど用意が要る。もし五分間演説だったら一日一晩の支度がないとできない。」と言ったことがある。面白い言葉だ。

 これ、よく分かるなぁ。
 以前、社内研修を企画したり自分で講師をしたりすることがあった。
 入社三年目のプレゼンテーションの研修で、同じようなことを話したことがあるが、自分が何かを話すにおいても、まったく同感で、短ければ短いほど、長い時間準備する必要がある。
 無駄な時間がないから、いかに要点を絞って、かつ効果的な話をしなければならないか考えなければならない。
 実際に研修で社員にプレゼンテーションをしてもらうと、準備が足らない人は、肝腎の要点を話す前に時間切れになったり、途中であせってしどろもどろになることが多かったものだ。
 お客のキーマンに、エレベーターで一緒になった時に、どれほど効果的なセールストークができるか、日頃から訓練することが大事、なんて話もあるね。

 つい、話が発展してしまった^^

 続けて、海外の話術の達人について。

 英国首相ロイド・ジョージは、北ウェルズ生れの五尺そこそこの小男であった。第一次世界大戦中のある日、南ウェルズ地方に演説に出かけた。
 司会者は大のロイド・ジョージ崇拝者であったが、彼を紹介するとき、こんなことを言った。
「実は、正直に申しますと、かねて畏敬するこの偉人は、もっと身体(からだ)の大きい堂々たる方と予期していたのですが、今日はじめてお目にかかって、実に意外に存じた次第で・・・・・・」
 すると首相は、大男の司会者に、ジロリと一瞥を与えておいて、
「実は、私も意外に驚いたことがあります。それは、私の生れた北ウェルズとご当地とでは人物を計る標準がまるで違ってるらしいことです。どうも、司会者の今のお言葉によると、南ウェルズでは人物をアゴから下の大きさで計るようですが、私共の北ウェルズ地方ではアゴから上の大小で人物を計るのであります。」
そう言って、自分自分の大頭を、愉快に振ってみせた。果然、破れんばかりの大喝采であった。


 このスピーチについて夢声は、とっさの機転ではなく、ロイド・ジョージが、かねて自分の欠点を心得ていて、万一に備えていたからだろう、と書いている。

 こういった逸話の蓄積は、夢声の座談やスピーチでも生かされたに違いない。

 本書を読んで感嘆したのは、とにかく引き出しが多い人だ、ということ。

 各説「第一章 日常話」に、知人関係の座談法の要点として、次のことを挙げている。

 A.教養が深く見聞が広く、話題が豊富であること
 B.共通の話題を選ぶこと
 C.相手の話をよく聞くこと

 BとCは、いわば「HOW」であって、話すという行為に関する手法や留意点ということになるが、Aは「WHO」であり、、自分自身のあり方に関することだ。
 
 まず、そういう人物にならなければ、話術も上達しようがないということが、本書を読んでもっとも感じるところである。

 まだまだ、未熟であることを痛感し、本書のシリーズはお開きです。

Commented by at 2020-01-17 06:39 x
徳川夢声を初めて知ったのは、山口瞳のエッセイ、次に談志の著書でした。ともに高いリスペクトが感じられました。
話術って難しいですね。話し上手は聞き上手、何度たしなめられたことか(汗)
Commented by kogotokoubei at 2020-01-17 09:29
>福さんへ

話術の達人であるとともに、優れた書き手ですね。
この本には、他にも日常話における座談十五戒や、演壇話において講談の歴史から名人のことなど、実に興味深いことが書かれています。
ロングセラーになるのが、よく分かります。
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by kogotokoubei | 2020-01-16 12:47 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛