伊藤詩織さんについて、『同調圧力』より(4)
2019年 12月 19日
『同調圧力』(角川新書)
望月衣塑子、前川喜平、マーティン・ファクラー三人の共著である『同調圧力』からの四回目。
前回の記事で、次は前川喜平さんが担当する第二章から紹介すると書いたのだが、昨日の伊藤詩織さん勝訴の報があり、伊藤詩織さんに関係する部分を第一章から紹介することにした。
その前に、東京新聞の今日の記事から。
東京新聞の該当記事
「見える光景、前と違う」 伊藤詩織さん民事勝訴 続く中傷「被害者の声届けたい」
2019年12月19日 朝刊
性暴力被害を訴えた民事訴訟で勝訴したジャーナリストの伊藤詩織さん(30)は十八日、支援者らに「刑事事件として明らかにできなかったことを、この民事訴訟で公にできた」と報告した。伊藤さんが声を上げたことは被害を訴える「#MeToo(ミートゥー)」が日本で高まるきっかけに。その行動を「公益」のためと評価した判決に、支援者からは「多くの被害者に勇気を与えた」との声が上がった。 (望月衣塑子、柏崎智子)
「よい結果をお届けできてよかった。見ている光景が前と全く違う」
判決を受け、東京地裁前に集まった支援者らを前に、伊藤さんは涙声で喜びを語った。
二年半前、顔を出して会見をした際は、インターネット上に誹謗(ひぼう)中傷があふれた。今も中傷は続く。「日本は被害者が置かれた社会的、法的環境が本当に遅れている」と訴えた。
伊藤さんは午後の会見で「誰もが被害者になるリスクがある。声を上げられない人もいる。傍観者にならないことが大事。これからも被害者の声を届けていきたい」と話し、同じような被害者に向け「自らの真実を信じてほしい。アクションはいつでも起こせる。まずは生き延びて」と呼び掛けた。控訴の意向を示した山口敬之氏(53)に対して「自分に向き合っていただきたい」とも訴え掛けた。
裁判はまだ続くが、その過程で、なぜ元TBS記者が不起訴になったのか、という議論が起こることもあるかもしれない。
不起訴となったことこそが、問題なのだと思う。
『同調圧力』第一章の望月記者の文章から、伊藤詩織さんに関する部分を紹介したい。
映画「i -新聞記者ドキュメントー」のことについて書かれた部分。映画では、文中のカフェでの対談の映像も登場した。
この森さんの映画の中には、フリージャーナリストの伊藤詩織さんも登場する予定だ。森さんから、伊藤さんの撮影をしたいとのお話があり、2018年末、日本に帰国していた伊藤さんと再会した。伊藤さんは私が菅官房長官の会見に行くきっかけを作ってくれた人でもある。これまでも何度か取材やシンポジウムなどでお会いしてきた。
明治神宮外苑のイチョウ並木のカフェで久しぶりに会った伊藤さんは、とてもはつらつとして元気そうだった。
「このところ、北朝鮮から脱出した同世代の男性を取材していたんです。韓国で取材を終えて、一時帰国しました。ほかに孤独死から派生して、いま北海道の夕張市の家族や街を追いかけています。年が明けたら別の取材でアメリカへ渡るつもりです」
2017年5月に、元TBSの男性記者から性的暴行を受けたと、顔と名前を公表して告発会見に臨んだあと、伊藤さんは予想を超えるバッシングや脅迫にさらされた。日常生活にすら支障をきたすようになり、イギリス女性人権団体の助言もあって同年夏から生活拠点をロンドンへ移している。
元TBS記者が、なぜ不起訴になったのかを察するに、信頼できそうな舞台裏が書かれた本がある。元警察庁キャリアによる内部告発本として話題になった『官邸ポリス』だ。兄弟ブログ「幸兵衛の小言」で3月に紹介したので、ご興味のある方はご覧のほどを。
「幸兵衛の小言」の該当記事
伊藤詩織さんは、立ち止まらず、すでに実に気骨のあるジャーナリストとして活躍し始めている。
翌18年3月にはニューヨークの国連本部で記者会見し、ハリウッドから始まったセクハラ撲滅運動「#MeToo」が、欧米と文化の違いから日本では大きな動きになっていないと指摘。それに代わる運動として「#WeToo」を提唱していきたいと語っている。
ただ、こうした運動の先頭に立って、日本でも展開していくことが伊藤さんのゴールではない。過酷な被害を潜り抜けた伊藤さんは、自分なりにたどり着いた場所があったのだろう。被害を受けた直後、孤独死の取材の延長で訪れた夕張市の家族のことをドキュメンタリー映画化し、西アフリカのシエラレオネで出会った少女二人を題材に、現在も続く女性器切除「FGM」の問題を取り上げている。
長く目標にしてきたジャーナリストの道を胸を張って歩んでいる姿には凛としたすがすがしさがあった。この詩織さんの話は2019年春、雑誌「世界思想」46号のジェンダー特集でも記事にさせてもらった。
映画「i -新聞記者ドキュメントー」で、二人の様子を見ると、伊藤さんが望月記者を心から信頼している様子がよく分かる。
また、望月記者が、伊藤さんを見る目は、もはや弱い立場の被害者としてではなく、同じジャーナリストの頼もしい後輩の今後を期待している目だ。
伊藤さんは、性犯罪の加害者の男性についても取材しているという。なぜ、加害してしまうのか知りたくて取材しているというが、「加害者は害を加えているという意識がない人が多いんです。加害者自身も自分の罪に向き合うために治療が必要なのです」と望月記者に語る。
どこまで強い人なのだろうと思わずにはいられなかった。圧力に屈しないことをこれほど体現している人もそういないのではないか。もちろん、ここに至るのに私が知りえないような苦しい思いもしただろう。それを越えて、自分の夢に向かって先へ先へ進んでいく詩織さんは本当にまぶしかった。
昨日のテレビでの伊藤さんの会見でも、そのまぶしさがあったように思う。
今、輝いている女性の代表の一人と言えるだろう。
そうそう、女性が輝く社会とか、一億総活躍社会とかを、どなたかが言っていたよね。
ぜひ、権力に負けずに輝く女性たちに、今後ますます活躍してもらいましょう。
彼女を貶める女性たちの発言を聞いていると、同じ人間なのかと疑いたくなります。