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圓朝作品への挑戦ー『歌丸 極上人生』より(5)

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『歌丸 極上人生』

 『歌丸 極上人生』は、最初は平成18年に、うなぎ書房から『極上 歌丸ばなし』として発行され、平成27年に加筆・修正の上で、祥伝社黄金文庫で再刊。

 この本からの五回目。

 落語研究会の白井プロデューサーからの“無茶ぶり”で、圓朝作『牡丹燈籠』の『栗橋宿』を演じた歌丸。

 白井さんからは、また依頼があった。

 研究会で『栗橋宿』をやって、しばらくしてから、今度は『真景累ヶ淵』をやったらどうだって、持ち掛けられました。白井さんもしばらく様子を見てたんじゅないですか?その間二年ほどありましたから、で、あたしも『牡丹燈籠』のほうは、ともかく『栗橋宿』をやったんだから、いったん脇に置いといて、じゃァ今度は『累ヶ淵』に手を伸ばしてみようかな、と思っんです。

 なるほど、そういうことだったか。
 
 今度は、歌丸も初めから乗り気だったようだ。

 圓朝師匠の『真実累ヶ淵』は、本当だったら、発端の『宗悦殺し』からやらなくちゃいけないんでしょうけども、初めに見せられたのが、やはり圓生師匠の『深見新五郎』のビデオだったんです。そうするとね、その前の『宗悦殺し』からやると、馬鹿に長くなっちゃって、くどくなると思ったんです。『深見新五郎』をやれば、そのマクラで、それまでのあらすじをずーっと言わなくちゃいけませんよね?あたしはそれでいいんじゃないかって思ったんです。それで、平成八年の八月、国立演芸場で十日間やったうえで、十一月の研究会にかけました。それ以後、毎年、国立の八月中席の十日間で、一話ずつこしらえていって、五年がかりで五席にまとめたと、こういうえわけです。
 なにしろ長い噺ですから、全部片付けるには、あまりに時間がかかるために、あたしとして、深見新五郎の一件と、あとは新吉とお賎のスジだけに絞ろうと考えたんですね。それで、『深見新五郎』のあとは『勘蔵の死』『お累の自害』『湯灌場から聖天山』『お熊の懺悔』と、結局この五席でまとめることにしたんです。
 『豊志賀の死』とか『お久殺し』は、ほかにもやる人があるし、とりわけ『豊志賀の死』は、もうみなさんがおやりになってますから・・・・・・みんながやってるところをやってもつまらない、と思いました。それに『勘蔵の死』をやっとけば、マクラっていうか、初めのスジの説明で、豊志賀、お久のほうあ一言で片が付いちゃうから、もういいんじゃないかって・・・・・・。

 なるほど、いろいろ考えて歌丸版の『真景累ヶ淵』が出来上がっていったわけだ。

 「真景」は当時の流行語だった「神経」のもじりで、漢学者の信夫恕軒の発案と言われている。
 
 とにかく、登場人物も多く、その因果関係も複雑な噺。

 圓朝作品についてしばしなお世話になる、「はなしの名どころ」さんから、図をお借りした。
「はなしの名どころ」サイトの該当ページ
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 同サイトでは、この噺を次の九つに分けて紹介している。

①宗悦殺し ②松倉町の捕物 ③豊志賀の死 ④お久殺し ⑤迷いの駕籠
⑥お累の死 ⑦聖天山 ⑧麹屋のお隈 ⑨明神山の仇討

 ②松倉町の捕物、が『深見新五郎』に該当するのだろう。

 たしかに、『豊志賀の死』は、多くの噺家さんが演じる。

 なお、「はなしの名どころ」管理人さんが書いた『落語と歩く』について、昨年四回に分けて紹介した。この本、まだ読んでらっしゃらない方に、ぜひお勧めします。
2018年4月3日のブログ
2018年4月5日のブログ
2018年4月6日のブログ
2018年4月8日のブログ

 話を戻す。
 『真景累ヶ淵』、そう簡単に出来る噺ではない。
 歌丸が悩んでいた時、ある噺家さんが助け船を出してくれたようだ。

 『お累の自害』のときは、林家正雀さんと話し合ったことがあるんですよ。あの人も、稲荷町の正蔵師匠の系統の『累ヶ淵』をやっていますからね。で、あたしの場合は、圓生師匠のおやりになったのをもとにしているんですが、圓生師匠のでいくと、あすこで新吉がお累をいじめ抜きますね、蚊帳を持って行かれては赤ん坊がかわいそうだからと、放さないのを無理に引っ張って生爪をはがしたり、赤ん坊に煮えくるかえっている薬缶の湯をかけて殺したり、あまりにも残酷で、あたしは凄く抵抗を感じちゃって、これはできない、あすことどうにかしたいっていうようなことを、正雀さんを話し合ったんです。そうしたら正雀さんが一言、「そいじゃァ四谷様へもってちゃったらどうです?」って・・・・・・つまり、『四谷怪談』のお岩と伊右衛門の型ですね、そっちにしたらどうですって言われて、ああそうかと思って、赤ん坊を抱いたお累が、蚊帳をを放さないのを、委細構わず蚊帳ごとずるずる引きずってきて、上がり框(がまち)のとこで、いきなり引ったくると、患っているお累は力がないから、思わず抱いている赤ん坊を落とす、打ち所が悪くて・・・・・・という具合に持ってくようにしたんです。

 なるほど、圓朝作品に挑戦する、良い仲間がいたねぇ。

 林家正雀の圓朝ものは、2015年の8月下席の主任で『牡丹燈籠ーお札はがし』を聴いている。
2015年8月30日のブログ

 その際、柳家小袁治師匠のブログから九日間のネタ帳の写真をお借りし掲載した。

 最初の四日間が『真景お類ヶ淵』で『深見新五郎』『豊志賀』『お久と新吉』『お累の婚礼』の四席。

 どの人物、どの筋書きを取り上げるかは、噺家さんそれぞれに思いがあるだろう。
 ちなみに、歌丸が演じた『お熊の懺悔』は、圓生も正蔵も手がけていない。

 また、歌丸は、最初は割愛した『豊志賀』をやってみて、やはり発端の『宗悦殺し』から始める必要を感じたという。
 その結果、「語り直して三遊亭圓朝作 怪談真景累ヶ淵」では、『宗悦殺し』から、始め、『深見新五郎』『豊志賀』『勘蔵の死』『お累の自害』『湯灌場から聖天山』、最後『お熊の懺悔』と全七話で構成している。

 なお、白井プロデューサーの“無茶ぶり”は、その後も続き、『髪結新三』(河竹黙阿弥作)に歌丸は挑戦することになる。

 その内容については・・・この本でご確認のほどを。

 なんとか、今になって、桂歌丸という噺家さんが、テレビの人気者で終わらないために精進していた姿を知ることになった。
 
 もっとその高座を聴くべきだったと、悔やむばかり。

 このシリーズ、これにてお開き。


Commented by 寿限無 at 2019-05-23 16:42 x
まわりに育てられたのですね。
良いですね。。
Commented by kogotokoubei at 2019-05-23 17:26
>寿限無さんへ

落語研究会の白井プロデューサーの存在が大きかったと思います。
正雀さんとは、同じように圓朝作品に挑戦する同志的な関係だったと察します。
「笑点」だけで判断してはいけない、桂歌丸という噺家さんの凄さを、没後に知ることになりました。
国立のトリを一度だけ聴くことができたのが、せめてもの慰めです。
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by kogotokoubei | 2019-05-22 21:27 | 落語の本 | Trackback | Comments(2)

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