新宿末広亭 十二月下席 昼の部 12月24日
2018年 12月 25日
昼の部の主任は、小ゑん。
夜の部の主任は、今年で最後となる今松。
他の顔付けも悪くないこともあるが、やはり、師走を締める今松の最後の高座は、聴きたかった。
11時40分頃に入場。
椅子席はほぼ満席だったが、桟敷には余裕があって、好きな下手に場所を確保。
まずは昼席から、出演順に感想などを記す。
春風亭与いち『道灌』 (8分、11:55~)
開口一番は、初めて聴く一之輔の弟子。
見た目は、ほぼサラリーマン(死語か?)風。
妙な癖はなさそうだ。しばらくしてまた聴いてみたい。
鈴々舎八ゑ馬『?』 (9分)
大阪出身の馬風門下の人だが、初めて。
新作で、噺家に弟子入りするのを代行業者が行う、という内容なのだが、つまらない。柔らかな良い雰囲気を醸し出しているので、そのうち他のネタを聴きたいものだ。
林家楽一 紙切り (9分)
ご挨拶代わりの「横綱の土俵入り」からリクエストで「駅伝」「藤娘」。
体を揺らさないのは師匠とは逆の芸風を狙ってのことだろうが、なんとも言えない不思議な味を出してきたなぁ。
柳亭左龍『英会話』 (10分)
この人で新作を聴くのは初めてだと思う。
柳家金語楼作で、当代では古今亭寿輔が十八番としている。
子供が英語を習いたいということで、家族の会話をすべて英語でしよう、ということからのお笑い。お母さんが「ママ」なら、お父さんは「マスター」なんてぇギャグは、今でも笑える。子供から「犬は?」と聞かれ父親が「ドッグ」、「猫は?」で「キャット」・・・「河童は?」で答えられないので子供が「レインコート」なんてぇやりとりには、『真田小僧』的な味もある。
持ち味の目の表情が、父親の演技で光る。
兄弟子の影響もあるのだろうが、たまには新作も悪くないし、この噺はニンだと思う。
古今亭志ん好『うなぎや』 (12分)
ずいぶん久しぶりだなぁと思い、過去の記事を探ってみたら、白酒が横浜にぎわい座の地下秘密倶楽部(?)のげシャーレで「白酒ばなし」をしていた時の2009年10月、二ツ目志ん公で『厩火事』を聴いて以来。
2009年10月30日のブログ
元は志ん五の弟子だった人でその後、志ん橋門下。
古典的な容貌(?)で、明るき芸風というイメージはあるのだが、どうもリズムが今一つ良くない。
途中の客と鰻屋の主とのやりとりではなかなか良い味を出していたので、残念。
化ける要素は持っていると思う。
三年後輩の弟弟子志ん八が二代目志ん五を継いだ。ぜひ、彼と一緒に、初代志ん五の芸を継承するため精進して欲しい。
林家ペー 漫談 (14分)
いつものように根岸ネタから。
ちなみに、途中で、二階席が開いた。
赤羽のネタで、エレファントカシマシの歌(「♪今宵の月のように」)を一節披露したのに加え、八王子のネタからユーミンの「♪ルージュの伝言」をフルコーラス。
ギターを抱えて歌えば、もっと良かったのにとは思うが、昭和16年生まれの喜寿とは思えない、若々しい歌を聴けて良かった。
春風亭勢朝 漫談 (15分)
この人の漫談は、ほぼ一席のネタと言えるかもしれない。
とにかく、引き出しが多い人だ。
新しいところでは、文覚上人のことに少し触れて、「講釈師は客を見下しているところがある、特に最近人気の○○○」などと、刺激的な発言^^
林家正蔵 漫談&『味噌豆』 (13分)
ペーが自分をいじった話を忘れてくれと言って客席は沸いたが、私は笑えなかったなぁ。いつものようなとりとめのないネタから、毎度のこのネタ。
協会副会長としては、なんともむなしい高座と言わざるを得ない。
東京ガールズ 邦楽バラエティ (14分)
「品川甚句」から「お伊勢参り」「勧進帳」へ。
この人たちの芸は、聴けば聴くほど好きになってきた。
三味線の基礎がしっかりしているなぁ、と思う。
柳家紫文の弟子で、師匠の小料理屋の客だったことから入門とされているが、相当稽古に励んだのだろう。
鈴々舎馬桜『歯ンデレラ』 (15分)
正雀の代演。
前座が高座に、合びき(小さな座椅子)を用意した。
後で馬桜のホームページを見て、高座に復帰したばかりであることを知った。
鈴々舎馬桜のHP
このように書かれている。
昨年12月16日に「右足下肢性筋膜炎」で115日間の入院生活を送りました。この後、今月同じ末広亭の上席、林家きく麿主任の席から復帰したことや、きく麿がこの噺の作者であることも書かれていた。
お陰様で四月に一度退院しましたが、9月に原因不明で再入院した時はさすがに能天気な私も緊張しましたが、こちらも先生の診察通りに二週間で退院出来ました。
シンデレラは残した靴が彼女を見つけるための重要な鍵となったが、その靴に代わるのが、入れ歯、という設定の新作。
可笑しくはあるが、このネタを聴きながら弁当は食べにくいかな^^
柳家小団治『子ほめ』 (13分)
昨年四月の末広亭で『ぜんざい公社』を聴いて以来。マクラは、オリンピックの金、銀、銅についての、前回と同じ内容。
今回も、マクラの方が笑いを取っていたように思う。
なんとも言いにくいのだが、昭和19年生まれという年齢相応の味わいを感じられないのが残念。
アサダ二世 奇術 (10分)
師匠アダチ龍光が、昭和天皇に披露したという伝説(?)のネタ「パン時計」を披露。調べてみると、昭和46(1971)年の五月に開催された天皇の古希を祝う会での出し物だったようだ。何度もこの人の奇術は見ているのだが、初めてかと思う。
なかなか見事。「今日は、ちゃんとやります」は嘘じゃなかった^^
柳家小満ん『悋気の火の玉』 (16分)
仲入りは、大好きなこの人。
最初の師匠文楽譲りのネタ、実は初めて・・・だと思う。
花川戸の実家の本妻と、元花魁を囲った根岸の妾が、お互い藁人形で相手を呪い殺そうとして、五寸釘から始まってだんだん釘が長くなる。ついに、妾、そして本妻が相次いで亡くなるが、没後も火の玉となって花川戸と根岸から飛んできて、大音寺門前あたりで死闘を演じる。なんとも怖ろしい女の執念。
本妻が生前よく言っていた「どうせ私のお給仕じゃ、おいしくありませんでしょ、フン」という科白がサゲで活きる。
小品と言えるかもしれないが、二人の女性の造形、その二人に挟まれてなんとも情けない旦那の姿が生き生きとしてて、小満んならではの好高座。
なぜ、火の玉が衝突するのが大音寺門前なのか。
以前、池内紀さんの本『はなしの名人-東京落語地誌-』から紹介したことがある。
2016年6月24日のブログ
池内さん、落語の舞台を散策し、このように書かれていた。
本堂にすすんでいく途中、左手にニューと立っている、大きなまっ黒の石に気がついた。角の一方が削(そ)いだように欠け、基底に近いところも欠け落ちていて、奇妙なバランスで立っている。となりあった二面に文字が刻まれており、正面はおそろしく太い字体で「南無阿弥陀仏」、左面の細字は闇に沈んで読みとれない。ライターをつけて、おもうさま上にかざした。小さな炎のなかに、端麗な細字がクッキリと浮き出した。「為安政横死墓」。右肩に安政二年十月二日の日付。なるほど、大音寺が選ばれた理由は、十分にあるねぇ。
西暦でいうと1855年である。秋十月のこの日、江戸は大地震にみまわれた。世に安政大地震といわれるもので、倒壊、焼失家屋一万四千戸。死者四千余。いたるところで火事がおこり、浅草から千足にかけてもまた壊滅。吉原田んぼは死者で埋まった。
落語は意味深い地誌をきっちりおさえている。ここは死者たちのつねに立ちもどるところなのだ。悋気のあげくの人魂もまた、落ち合うところは大音寺でなくてはならない。「悋気の火の玉」の舞台は慎重に選ばれ、意味深く語りつがれてきた。ここにはいまもなお、夜ごとにものさびしげな人魂があらわれ、人知れず消えていく。
この高座、寄席の逸品賞候補として、色をつけておく。
仲入りで一服。
落語愛好家のお仲間にメールで途中報告^^
さぁ、後半。
林家彦いち『長島の満月』 (12分)
マクラでは、大学時代の空手部の先輩が自分が主任の寄席に来て声をかけてくれたのはいいが・・・というネタでクイツキとしての役割を十分に果たし客席を温めた。
本編は初めて聴いたが、後で調べると、CDにもなっているし、この噺を元にした絵本もある、知る人ぞ知るネタのようだ。
ちなみに、彦いちは自分の体験を元にしたこの噺のような新作を、自分落語と称している。
まず、この長島とは、彦いちが小学生時代を過ごした鹿児島と熊本の中間あたりにある島のこと。 高座でもそう説明していたが、まったくイメージが湧かなかった。
そこで、鹿児島県長島町のサイトから、地図を拝借。
鹿児島県長島町のHP
なるほど、鹿児島と熊本との間の海に、浮んだ島だ。
海流が強く、かつては船もこの島を遠回りして運航したと言われる、近くて遠い島。
ネタはほんのサワリだけだったが、こんな内容。
小学生時代を長島で過ごした男、安田(もちろん、モデルは彦いち)が、大学で合コンに参加。いわゆる「あるある」ネタでの会話になり、小学校の給食の思い出を順に話していくのだが、安田はじっくり思い出して「たまに、漁師さんが連った魚の刺身が出た」と言うと、「そんなわけねぇだろう」と反論される。
長島では、小学生時代に、どういうものか知るために、役場の前に信号機ができた、そういう場所なのである。
だから、都会で育った同級生の「あるある」ネタとは、大いなるギャップが、あるある、なのだ。
北海道の田舎で育った私は、この感覚、少し分かる。テレビだって小学生時代には、民放が二局しかなかったから、学生時代、テレビの話題なので同級生と話が噛み合わないことがあったものだ。
同じ国に住んでいたって、地域差によるカルチャー・ショックは存在する。
だから、彦いちの高座、合コンの会話を聞いていて、「あるある」と私は頷いていた。
この噺、全編を聴いてみたくなった。
ロケット団 漫才 (15分)
十八番の四字熟語ネタなどで客席を沸かせた。
大谷翔平と大仁田厚のネタ、萩本欽一の「欽ちゃん」と北朝鮮の「金」ちゃんのネタ、何度聞いても可笑しい。
林家しん平 漫談 (11分)
黒紋付で登場したので、「さて、何をやる!?」と思ったが、漫談。
浮気がばれないためには、家で携帯をいじらない、などの実体験に基づいた(?)話など。
この人、古典ネタだったいろいろ持っているんだけどなぁ。
昼は主任を含め新作派が多かっただけに、短くても古典ネタが聴きたかった。
夢月亭清麿『東急駅長会議』 (18分)
権太楼と同じ、柳家つばめの弟子だった人として名前は知っていたが、生で聴くのは初。
東急の駅長の集まる会議というネタで、駅そのものが擬人化されている。
渋谷が議長役。それぞれの駅に不満がある。
たとえば、目黒区の中心地にあるのに急行が止まらないことに不満を述べる祐天寺、など。
議論の結果、各駅停車駅が多いので多数決の結果、10月9日「東急の日」1日だけ、急行停車駅と各駅停車駅とを入れ替えることとなった。
その記念の日、妙蓮寺から老夫婦が、墓参のため祐天寺まで急行に乗る。
たまたま新幹線に近いというだけで急行停車駅になった菊名を通過して喜ぶ夫婦が可笑しかった。また、昔は駅が汚かったくせに、南武線を不当に差別していた武蔵小杉を通過することにも喜ぶ夫婦は、「多摩川」「田園調布」「自由が丘」の3駅をも通過して快感を覚えていた。
結構知っている路線なので、私も客席のお客さんと一緒に笑えたなぁ。
古今亭駒治は、この噺に刺激を受けて創作したのか、などと思っていた。
翁家勝丸 太神楽 (14分)
膝代わりは、この人。
珍しく花籠鞠で、鞠を二個同時に移動させる夫婦鞠を三度失敗。一回目はネタか、と思ったが、二度目、三度目はネタではなかったと思う。
結構、冷や汗をかいたのではなかろうか。
なんとか締めくくったが、夜のストレート松浦にも、この失敗が伝染したような気がする。
柳家小ゑん『長い夜』 (33分、~16:39)
ICレコーダーで高座を録音しようと思っても私は分かる、目黒の電気屋の倅だから、その手つきでメーカーだって分かる、というマクラは、定番ながら笑える。
あの有名人が結婚式をあげた教会の幼稚園を卒業、というネタも可笑しかった。
牧師に「今日は結婚式が多いですねぇ」と聞くと「大安だから」というのは、事実ではなかろうか^^
この日、新作が多かったことにふれ、新作を創るのに擬人化をすることは安易だと、自嘲気味の批判。「たとえば、おでんが喋るとか」など自作を俎上にあげてから本編へ。
初めて聴いた。
「私は、空である」という男性のような「空」さんと、「私は大地です」という女性のような「大地」さんが登場。何ともスケールの大きな擬人化^^
果たしてこれは天地創造のネタか、などと思っていたら、「空」が、「どれほど人間が進化したか見てみよう」ということで、天空から地球、それも日本を眺める、という設定。
順番にこんな光景が登場する。
①高田馬場のスタバでお茶しようとしている女子大生
②新橋の居酒屋(チェーンの名は割愛^^)で飲んでいるサラリーマンの上司と部下
③北千住のデニーズで子供の誕生祝いをしている昭和の家族
④新宿ゴールデン街で飲んでいる二人の役者
⑤青山のバーで一人カクテルを飲む気取り屋の男
⑥渋谷センター街で騒いでいるラッパー
それぞれの光景を空と大地の会話がつなぐ。
いわゆる、オムニバス。
①では、彦いちのネタに登場する安田(モデルは彦いち)のような、田舎出身の女の子が、スタバで「レスカ」を注文しようとする、という話が、身につまされる^^
同じ国に住んでいても、地域差によるカルチャー・ショックは確実にあるのだ。
そのスタバでもっとも長い名の注文を知っているという女の子が、その名を言う場面は、ほとんど「寿限無」か「金明竹」で可笑しかった。
②では、課長が部下が係長に昇進するからお祝いでご馳走するというネタなのだが、喬太郎の『夜の慣用句』にも似た味がある。それにしても、あのチェーン店は行ったことがないけど、揚げシュウマイ、は食べたくなった。
③では、「なんでも食え」と言う元気なお父さんと、カレーライスと答える子供のいじらしさ、そして、三人の子が残したものでいいからと注文しない母親の姿に、ついウルウルしたぞ^^
④の役者二人の会話は、横文字をつないだ、ほとんど意味のないもので、なかなか風刺の効いた場面となっている。
⑤では、勘違い男がゴルゴ13のような、またはフィリップ・マーロウのような人物になりきろうとしてなりきれない滑稽さを描く。
⑥のラッパーたちの場面では、小ゑんのラップそのものに笑ってしまった。
サゲは、この噺の題がヒントになる。
それぞれのエピソードの内容も楽しかったし、話の区切りに「空」さんが両手を大きく広げてから場面転換を示す仕草にも工夫があった。
この人、ただ者ではないなぁ、とあらためて感じた高座、今年のマイベスト十席候補としたい。
今年は、六月の池袋上席で『フィッ』、同じ六月下席末広亭で『レプリカント』を聴いていて、私としては、ご縁を感じた年。
今後は、独演会などにも行きたいと思う。
今年六十五歳。
昭和六十年九月の真打昇進は、志ん輔、扇遊、時蔵、正朝、そして才賀などと同期。
これまであまり意識していなかった人だが、今年縁があって聴けた高座で、その実力を知ることができた。
私にとって、今後の落語協会を背負って立って欲しい人の名前として、小ゑんの名も加わった。
さて、これにて昼の部はお開き。
おにぎりを食べ、一服して、夜の部に備えたのであった。
お客さんはほとんど入れ替えになったように思う。
クリスマス・イブか・・・・・・。
あっしには、関係のないことでござんす、と青山のバーでドライマティーニでも飲みたい心境だった。
まして座りっぱなしで聞いていたのはお疲れ様でした。まだ半分!がんばれ!
正蔵は『味噌豆』で、口で吹きながら食べる所作をして「あれ、ウケない」と言ったりします。『長屋の花見』『目黒のさんま』のような落語スタンダードを四季ごとに準備し、短縮版をかけた方がよいかと。
「ぐつぐつ」も楽しい噺ですよね。
本日末広亭ですか、果たして今松は何かなぁ。
ネタとご感想お知らせいたでければ、嬉しい限りです。
なお、この日の夜席の記事で、居残り会の重要メンバーM女史が関わっていらしゃる落語会のこともご紹介するつもりです。