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狂歌が大好きな噺家さんの本(2)ー春風亭栄枝著『蜀山人狂歌ばなし』より。


狂歌が大好きな噺家さんの本(2)ー春風亭栄枝著『蜀山人狂歌ばなし』より。_e0337777_09310622.jpg

春風亭栄枝著『蜀山人狂歌ばなし』
 
 平成9(1997)年、三一書房から初版発行の、春風亭栄枝の『蜀山人狂歌ばなし-江戸のギャグ、パロディーの発信源-』から二回目。

 栄枝が、落語に魅了されていた頃のことから。

 それはもう、三、四十年前のことになります。
 昭和三十年代の頃は、私はすでに、落語、落語・・・・・・落語でなければ夜も日も明けない毎日でした。
 朝から晩まで、もう頭の中は落語一筋の落語のことだらけ。落語家にどうしてもなりたくて、あちこちの寄席ばかりに行っていました。
 当時、地元の巣鴨の高校に通っていた私は、学校が終わるとカバンを家に放り出して、入場料が五十円の池袋の演芸場や上野の鈴本演芸場にすっとんでいったものです。
 その後、親のすすめで大学に通うのですが、これも数ヵ月籍を置き、教室で先生の講義も聴いたが、どうも耐えられないものでした。
 ところで当時の寄席は、後に昭和の落語史に名を残すような大看板が出て、強烈な個性で高座が賑わっていました。
 例えば、私を弟子にしてくれた春風てい柳枝、さらに古今亭志ん生、桂文楽、三遊亭圓生・・・・・・。
 そしてそこで私はいろいろと感じたことの一つに、日本語はこうも面白く話すことのできる言語なのかと、ついつい大学の先生の話と比較してしまったりしたものです。どだいそんな比較のナンセンスなことは承知していますが・・・・・・。大学の先生ごめんなさい!

 この本では書かれていないが、栄枝の父親は、苦学して師範学校に行き教員となって、校長まで務めた方で、栄枝が落語家になりたいと言うと、大反対したらしい。

 大学をすぐに中退した時は、結構、大変な騒ぎになったと察する。
 
 昨年、産経の「父の教え」というシリーズで栄枝の記事が掲載された。
産経ニュースの該当記事

 少し引用。
明治生まれの父は、幼い頃からしつけに厳しかった。書道で栄枝さんの筆に癖を発見すると、容赦なく鞭を振るって矯正した。儒学者、頼山陽の漢詩を口ずさみ、新渡戸稲造の教育論を熱く語り、常日頃から「学問が大事」と言い続ける厳格な父は、大きく怖い存在。反発するというより、落語やロックが好きな自分が認められるはずはないと思い込んだ。

 結構、長い記事なので、ご興味のある方は、ご覧のほどを。
 最初反対したものの、その後、お父上は、栄枝をさまざまな形で強力に支援することになるのだが、いいんだよね、この明治生まれのお父さんが。

 産経、こういう記事は、悪くないんだけどなぁ。

 本書からの引用を続ける。

 落語のマクラで、川柳や諺、語呂合わせの洒落、都々逸、小唄・端歌の文句にいたるまでが自在に飛び出して、それが私には実に新鮮に聞こえてくるのがとても不思議でした。
 ある師匠などは、高座に座ってペコリと頭を下げてから、「ええ、蜀山人の戯れ歌に・・・・・・」といってしゃべり出します。「なんだろう・・・・・・しょくさんじんって?」「ざれ歌?って、一体なんだろう?」。家のい帰ってからも、「しょくさんじん」「ざれ歌」がいつまでも頭にひっかかって離れないのです。それに、「しょくさんじん」という音も耳に響く感じからすると、きっと一日中、洒落や冗談を喋ってばかりいて、いつもみんなを笑わせている愉快なおじいさんなのかもしれない、と考えたりする日が続くのでした。

 たしかに、「しょくさんじん」という言葉の響きは、仙人や高齢の隠居をイメージさせるものがある。
 ちなみに、私は魯山人と蜀山人を一時混同していた頃がある^^

 さて、落語に魅入られた十代の若者は、大学を中退し、落語の世界に飛び込んだ。

 やっと入門できたのが、八代目春風亭柳枝師匠だったのです。
 持ちネタの中に、「野ざらし」や「花色木綿」は大爆笑をとったものです。それに「狂歌家主」という噺があります。私は大好きでした。暮れになって家賃が払えなくなった八っつぁんが、一計を案じました。日頃、狂歌が好きで好きでたまらない大家さんに、自分も狂歌が好きになったと言い訳すれば、家賃を待ってくれるに違いないと思い、とてもメチャクチャな言い訳をするという噺で、年の瀬の雰囲気がよく出ていました。
 この噺のマクラに次のような狂歌があります。

   味噌濾しの 底にたまりし 大晦日
     越すに越されず 越されずに越す

 「狂歌家主」は、「掛け取り」の狂歌の部分を独立させた噺。
 そろそろ、聴く季節になってきたねぇ。

 私は、八代目柳枝が大好きなので、この本を読んで、栄枝も好きになってしまった^^
 また、柳亭小痴楽が、落語家になったきっかけに、柳枝の「花色木綿」を聴いたからと知って、小痴楽を一層応援したくなった。

 なお、八代目柳枝については、拙ブログ開始間もない頃に、談志の本の引用を含め、記事を書いた。ご興味のある方は、ご覧のほどを。
2008年6月27日のブログ

 柳枝に入門した栄枝は、落語に限らず(それ以上に?)、狂歌を深く知ろうとするのだった。

 今回は、このへんでお開き。

Commented by ばいなりい at 2018-12-01 11:36 x
家元の「蜀山人」がシャレてます。
ネットでも聴けますが、いつ削除される分からないのでお早くどうぞ。
http://lakugo.seesaa.net/article/362984062.html


Commented by kogotokoubei at 2018-12-02 17:24
>ばいなりいさんへ

お知らせいただき、ありがとうございます。
家元の音源、聴きました。
いいですねぇ、こういう噺。
当代の噺家さんで、こういう粋な高座を聴くことはできせんね。
Commented by kanekatu at 2018-12-04 10:41
「味噌越し」の「庭」にたまりし・・・は、「庭」ではなく「底」だと思います。
柳枝の『狂歌家主』のマクラでも「底」と言っています。
また、「味噌越し」も「味噌漉し」の誤りかと思われます。
Commented by kogotokoubei at 2018-12-04 18:25
>kanekatuさんへ

ご指摘、ありがとうございます。
もちろん、庭、は、底、の誤り。
味噌越し、原文のママですが、漉しが正しいですね。

  狂歌など 語る前には おまえさん
    まずは日本語 強化しなさい

なんてね^^
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by kogotokoubei | 2018-11-30 12:58 | 落語の本 | Trackback | Comments(4)

あっちに行ったりこっちに来たり、いろんなことを書きなぐっております。


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