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噺の話

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大田直次郎と蜀山人(2)ー平岩弓枝著『橋の上の霜』より。

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平岩弓枝著『橋の上の霜』

 この本から二回目。

 直次郎は狂歌会の後、松葉屋に三穂崎を訪ねてから二日ほどおいて、内藤新宿に、平秩東作(へずつとうさく)を訪ねた。

 もともと、甲州中馬宿渡世をしていた稲毛屋の主人だが、父親の死後、煙草屋に転業し今は手広く商いをしている。直次郎とは、内山賀邸の同門であり、狂歌仲間でもあった。平秩東作は狂歌名で、本名は金右衛門という。直次郎よりも二十三歳も年上であり、大変な子福者で、今は商売を子供達にまかせて、伊豆の天城山で炭を焼かせて、江戸へ運んで商売をしたり、誘う人があると蝦夷地へまで旅に出たり、好き勝手な隠居暮しをしている。

 この平秩東作は、平賀源内との親交があった人としても知られている。源内が獄死した後に遺体の引き取り手がなかったのだが、危険を犯す覚悟の上で東作が引き取った、とされている。

 その年上の友人の東作を、直次郎は、松葉屋で会った老人のことを語った。

「左様、その仁が三穂崎さんの客ということは、あり得ないことではございませんな」
 大体、新造を買う客は、老人が多いのだと東作はいう。
「年をとってくると、孫ほどの年の女がよくなると申しましてな。振袖に前帯という新造の出立(いでたち)もさることながら、十七、八の若い娘に色気を出すのが多うございます」
 吉原あたりでも、成熟した華魁は老人には重荷で、むしろ、青くさい新造のほうが具合がいいというむきがある、と笑っている東作も六十歳を過ぎている。六年前に妻をなくして、目下、独りであった。
「手前が知っている話でも、いい年をした隠居が、孫娘のような新造に夢中になって大枚の金を散財したというのがございますよ」
 持部屋のない新造に、部屋を持たせ、見習女郎から一人前の姉女郎に昇格させてやるには、かなりな金が要る。

 その昔のお金持ちの高齢者の遊びとは、そんなものだったのか。
 たしかに、若い子が近くにいるだけで、こちらも若返るということはあるなぁ。
 私も還暦を過ぎていて、なんとなく、そういった傾向は分からないでもない。しかし、とても、悠々自適ともいえないし、遊ぶ余裕も、気持ちもない(ということにしておこう^^)

 この後、直次郎は東作から、あまり三穂崎にのめり込むことのないように、という序言をもらい新宿を後に牛込の家に帰った。
 家には、蔦屋重三郎からの便が届いていた。

「至急、お願いしたいことがございまして、是非、四方先生にお出で頂きたいとの主人の口上でございます」
 蔦屋は、吉原大門口にある書肆だった。主人の重三郎は蔦の唐丸の狂歌名を持つ、直次郎の弟子でもある。

 直次郎にとって、蔦屋は重要な商売仲間でもあった。

 好都合とも思い、蔦屋へ向かった直次郎だが、蔦屋は大文字屋に出かけていて留守。
 しばらく待っていると、蔦屋の番頭と一緒に大文字屋の主人、加保茶元成が一緒にやって来た。

「まずいところへお出でになりました」
 いいにくそうに、
「三穂崎さんのお客が、急に具合が悪くなったようでございまして・・・・・・」
 今、医者が松葉屋へ入ったという。
 大袈裟なことだと、直次郎は思った。
 酔って気分が悪くなったのなら、「袖の梅」という万能薬でも飲ませておけばよい。
 それにしても、三穂崎にもう先客が登楼しているというのが不快だった。
 その客がはやばやと帰れがよいが、具合が悪いから泊るとでもいい出したひには、なんのために吉原まで来たのかわからない。
 蔦屋重三郎も帰って来たが、どうも、仕事の話という雰囲気でもなかった。
「とのかくも、先生、お口汚しに・・・・・・」
 奥の部屋で酒の用意がされ、ちょっとした肴も並んだが、直次郎にしてみれば、到底、腰をすえて飲むどころではない。
「三穂崎の客というのは、何者なのだ」
 厚顔なのを承知で訊くと、
「それが、商家の御隠居とばかり思って居りましたところ、お侍だったそうで・・・・・・」
 というところをみると、馴染客である。直次郎はいよいよ、腹が立って来た。
「隠居というからには、老人か」
「はい、七十をすぎたとみえるお方で、なんでも御旗本とか」
 旗本の隠居ときいて、直次郎は消沈した。
 こっちは御目見以下の七十俵五人扶である。
 (中 略)
「病気はなんなのだ、持病でも出たのか」
 年甲斐もなく、若い女にうつつをぬかすから、そんなことになるのだと、直次郎はいささか痛快であった。
「それが、松葉屋のほうでは、ただ、具合が悪くなったというばかりで、要領を得ませんので・・・・・」
 ありようは、蔦屋重三郎が新しい著作のことで、直次郎に依頼をしたいというので、それなら三穂崎に知らせておかなくては、と松葉屋へ使をやったところ、すでに、客が来ているという。
「なんとも不手際なことで、どうにかならないかと、主人のほうへかけ会って居ります中に、お客が病気と知れましたので・・・・・・」
 加保茶元成は恐縮しているが、その様子はどこか不安そうであった。

 三穂崎の客は旗本の隠居だった。
 その客が倒れた。
 そして、大文字屋の主人、加保茶元成からうかがえる不安とは・・・・・・。

 今回は、ここまで。
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by kogotokoubei | 2018-11-18 16:27 | 今週の一冊、あるいは二冊。 | Comments(0)

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