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長部日出雄著『江戸落語事始』について(2)ー『笑いの狩人-江戸落語家伝-』より。


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長部日出雄著『笑いの狩人-江戸落語家伝-』

 『笑いの狩人-江戸落語家伝-』の最初のお話「江戸落語事始」からの二回目。

 長谷川町に住む塗師の安次郎は、得意がって町の住人に聞かせていた話を、絵師の石川流宣から批判される。
 安次郎は、ある話を思いつき、流宣の家へ駆け込んだ。

 安次郎はなにかに憑かれたような足どりで、石川流宣の家に行った。流宣は数人の弟子と一緒に絵草紙の制作をしていた。話を聞いて貰いたいんだ、と安次郎はいった。弟子たちは露骨にうんざりした顔つきをした。安次郎はまえにもこの家で何度か話をしたのだが、そのたびに、まるで面白くない、と弟子のあいだからは笑い声ひとつ起こらなかったのである。だが、流宣だけはいつもと違った気配を感じとった表情で、「いいよ、やってみねい」といった。

 この石川流宣という絵師、どんな人か知りたくなった。
 
 Wikipedia「石川流宣(いしかわ とものぶ)」を参照。

Wikipedia「石川流宣」
 この人、「生没年不詳」とのこと。
 「来歴」を引用。

師系不明。作は菱川師宣または杉村治兵衛の画風とされている。姓は石川、名は俊之。俗称伊左衛門。画俳軒、河末軒流舟と号す。戯作名は踊鶯軒。『江戸図鑑綱目 乾』(元禄2年〈1689年〉刊行)の「浮世絵師」の項に「浅草 石川伊左衛門俊之」としてその名が見え、浅草に住んでいたことが知られる。作画期は貞享から正徳の頃にかけてで、元禄期の主要な絵師の一人といわれている。作は主に好色本、地誌など版本の挿絵を描き、戯作も執筆する。また日本図、世界図、江戸図の木版地図の作画を手がけており、それらは「流宣図」と呼ばれている。一枚絵はあまりないが、『増訂浮世絵』によれば流宣の一枚絵で「元禄頃と思はれる単純素朴な傘をさした版画」があるという。

 結構、謎の人。

 だから、長部さんもこの話に登場させやすかったのかもしれない。

 さて、その流宣の好意で、新作を披露することになった安次郎。

 その話とは。

ーある人、座敷を建て直しましてな。近所の人を新宅に招いて振舞いをいたしました。酒のなかばに内儀が出て「なにもございませぬが、新宅を馳走に酒をまいりませ」というに、一座の者「さりとては物入りでござりましたろうが、結構なご普請でござる」といえば、内儀「うちの力ばかりではござりませぬ。みんな近所の衆のおかげじゃ」というた。 これを聞いた与茂作、家に帰って「あの家のご内儀は、実に利発なお方じゃ。あの身代で、だれの力を借りた筈もないのに、こうこういうた」と褒めて話せば、女房「それしきのことが、わしにもいえぬものか」というたが、それから十四、五日ほどして、この女房が出産をいたしまして、七夜の祝いに招ばれた近所の者が亭主に「きょうはまことにめでたい。ご内儀もお喜びでござろう。やすやすとご安産。しかも男子でござるによって」といえば、女房まかり出て「亭主の力ばかりで出来たのではござらぬ。これもみんな、近所の衆のおかげじゃ」・・・・・・。

 ご存知、寄席でもよく出会う噺、『町内の若い衆』だ。
 
 私の持っている本『落語の鑑賞 201』では、『枝珊瑚珠』(元禄三・1690年刊)巻五「人の情」に原型が見られる、と書かれているが、作者については説明がない。

 さて、この新作を聞いた、絵師たちの反応は、どうだったのか。

 話し終わったとき、一座はしんとしていた。やっぱり駄目だったのか・・・・・・と安次郎は気を落としかけたが、ほんの一瞬の間をおいて、爆笑が起こった。話があまりにおかしすぎたときには、笑い出すまでに、すこし間があくものらしい。そのかわり、いったん笑い出すと最早とまらぬ様子で、弟子たちは体をまえに折って笑い転げた。「これはおかしい」と流宣は涙を手で拭いながらいった。「これなら露の五郎兵衛にも負けぬ。いや、露の五郎兵衛の話でも、これほど笑ったことはない。よくできた。よくできたぞ、安次郎・・・・・・」
 初めて流宣に激賞されて、安次郎は眼に涙が滲むのを感じたが、「では、もうひとつ・・・・・・」と、笑いの余韻が静まるのを待って、次の話を始めた。

 次の話は、艶笑(バレ)ネタの小咄。割愛する。

 勢いに乗った安次郎は、その後も話し続けた。
 いや、そろそろ噺を続けた、と言ったほうが良いかな。
 これらの噺の評価が、安次郎の人生の転機になった。

「安次郎さん・・・・・・」
 石川流宣は深い感動を現していった。
「おまえさんの芸は、もう露の五郎兵衛に引けをとらねえよ。おれの考えじゃ、それ以上かも知れねえ。どうだ、ここでひとつ、噺職になってみる気はないかね」

 さて、石川流宣という大きな支えを得て、安次郎の将来は、この後どう変わっていくのか。

 それは、次回のお楽しみということで、今回はお開き。


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by kogotokoubei | 2018-10-27 13:27 | 落語の本 | Comments(0)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛