噺の話

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長部日出雄著『江戸落語事始』について(1)ー『笑いの狩人-江戸落語家伝-』より。


 長部日出雄さんが亡くなった。

 実は、直木賞作家である長部さんの本は、次の一冊しか読んでいない。

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長部日出雄著『笑いの狩人-江戸落語家伝-』

 『笑いの狩人-江戸落語家伝-』は昭和55年に実業之日本社から初版、昭和58年に新潮文庫で再刊され、私はその文庫版で読んだ。

 次の五篇が含まれている。

 「江戸落語事始」「落語復興」「幽霊出現」「天然浮かれ節」「円朝登場」

 訃報に接して、再読した。

 「江戸落語事始」から、紹介したい。

 あの、鹿野武左衛門の話。

 主人公塗師職人の安次郎が住む長谷川町とは、どんな所だったのか。
 安次郎が可楽になるには、この町も大きな要因だったと思われる。

 長谷川町から人形丁通りを隔てた向う側には、堺町と葺屋町の芝居町がある。長谷川町の横丁の裏店には、職人や振売りの商人のほかに、芝居者や絵草紙屋なども大勢住んでいた。場所が場所だけに、このあたりには芝居町や吉原の噂話が、飯よりも好きな連中が多く、なかでも話好きな安次郎は、数日まえから聞き集めた噂話を虚実とりまとめて、小出兵助吉原出陣の一件を、長屋の涼み台に集まっていた連中に聞かせていたのだった。

 安次郎は、旗本の小出兵助が、夏の土用に虫干しだと言って鎧兜を身につけ、家来を引き連れて吉原に繰り出した際の騒動を、近所の住人に面白おかしく聴かせたのだった。

 その話を側で聞いていた男が、安次郎に声をかけた。

「安次郎さんとやら・・・・・・おまえさんの話、あまり面白くないね」
 安次郎はむっとした。現にいままで聞いていた連中は、自分の話の面白さに、手を拍って笑い転げていたのである。それを、あまり面白くないね、というのは、「どこがどう、面白くないんです」と、安次郎は聞き返した。

 その男は、安次郎の話のサゲの拙さを指摘し、京都で人気を博している露の五郎兵衛のことを口にした。

「たとえばね、こんな話をするんだ」 
 男はそういって話し始めた。
ー江戸と大坂と京の者がね、一隻の渡し舟に乗り合わせたというんだよ。そこでそれぞれ在所の話が始まって、江戸の者がいうには「江戸のほうじゃあ、何でも流行るものには、山号寺号をつけます。江戸でも評判の福安殿という名医がござってな、この人を医王山薬師寺と申して、ことのほか流行りまする」。それを聞いた大坂の人が「なるほど、いずかたもおなじことでございますな。大坂の芝居には四十三字平次という役者がおりまする」というのを聞いて京の人が「いや、別に珍しいことではない。京の島原には、皆さんご存じという太夫がござる」・・・・・・。
「ワハハハ」安次郎はおもわず哄笑した。

 この男は、菱川師宣の弟子で、石川流宣という絵師だった。

 流宣は、安次郎に言った。

「おれは話の一が落ち、二が弁舌、三が仕方と考えているんだが、おまえさんの落ちは、どうもあまりうまくねえ。だが、弁舌と仕方は、なかなかのものだ。おまえさん、中山喜雲の『私可多咄』は読んだことがあるのか」
「へえ」安次郎は頷いた。
 医師でもあり俳諧師である中川喜雲は、仕方咄の元祖でもあって、その『私可多咄』という本のなかの、-あるいは都人とかこち、あるいは鄙人とつくる。されば、わかちめ、あざやかならねば、しかたばなしになんしける。・・・・・・つまり、話し方よって、町育ちの者であるか田舎者であるか、はっきり演じ分けなければ仕方咄にはならない、という教えにしたがって、安次郎は身振り手振りに声色までまじえた自分なりの話し方を工夫していたのだ。
「そうだろうな。さっきおまえさんの話で、さむらいと傾き者の仕分けは、よくできた。けれど、何度もいうように落ちがうまくねえ。あの話の落ちは・・・・・・そうだ、こうしたらどうだ」

 安次郎にとって、石川流宣は実に重要な存在になってくる。

 さて、今回は、このへんでお開き。



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Commented by saheizi-inokori at 2018-10-26 18:21
彼の太宰治についての評伝は読みました。覚えてないけど。
こんなのも書いていたんだね。
Commented by kogotokoubei at 2018-10-26 21:53
>佐平次さんへ

『津軽じょんから節』と『津軽世去れ節』で直木賞を受賞、『鬼が来た-棟方志功伝』で芸術選奨文部大臣賞を受賞とのことですが、私は、この本しか読んでいませんでした。
結構、落語や寄席の好きな方だった思います。
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by kogotokoubei | 2018-10-26 12:38 | 落語の本 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛