「万引き家族」における、樹木希林さんのアドリブのことなど。
2018年 09月 19日
久しぶりに日本映画を劇場で観たことは記事にも書いた。
2018年6月25日のブログ
その記事の最後に、この映画は、「樹木希林、そして、安藤サクラの演技を観るだけでも、価値がある」と書いた。もちろん、今でも、そう思う。
海のシーンとは、擬似家族がそろって海水浴に行き、皆が仲良く遊んでいる姿を浜辺で傘を差して眺めている樹木希林さん扮する初枝が、つぶやく場面。
声は、聞き取れない。
その科白は、樹木さんのアドリブだったらしい。
「ありがとうございました」
口の動きから、そう言っているはず。
初枝は、その海水浴のすぐ後に、旅立つ。
サイゾーが運営するサイトの一つであるWEZZYに、カンヌのパルムドールを受賞した際の監督の会見が紹介されている。
樹木希林という女優と、あの海のシーンについ是枝監督が語っているので引用したい。
WEZZYの該当記事
現地時間5月14日に開かれたカンヌ国際映画祭公式記者会見のなかで、是枝裕和監督が樹木希林の存在について語るのを聞いていた松岡茉優が突如涙を浮かべる一幕があり、マスコミでもそこが大きく取り上げられたが、その是枝監督の発言とはいったいいかなるものだったのか。
<僕はやっぱり自分がつくるものを、希林さんに出ていただけるものにするために努力をします。努力をしないで甘いまま彼女の前に立つと見透かされるので、希林さんの前で恥ずかしくない監督になりたいと思うんですね。そういう役者がいることはすごい大切なことで、監督にとって>
これに続けて是枝監督は、この作品で一番最初に撮った夏の海のシーンでの樹木希林のアドリブが作品の方向性を決定づけたことに感謝。そして、作品をつくる過程において「いち役者」以上の関わりをしてくれるからこそ、何度も彼女と仕事をしたくなるのだと述べていた(『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深く』など、樹木希林は彼の映画には欠かすことのできない是枝組の常連である)。
あの声に出さない「ありがとうございました」のアドリブの一言が、作品の方向性を決めた・・・ということか。
擬似家族ではあったが、その家族たちには深く感謝していた、という初枝の心境を樹木希林さんは表現したかったのだろう。
その言葉は、初枝同様に死期が近いことを察していた樹木希林さんご本人の言葉でもあったように思えてならない。
映画全体からは、是枝監督が抱き続けるテーマ「家族って何?」という問いが突きつけられる。
そのテーマも、樹木希林さんが抱き続けたものかもしれない。
これまで“希林さんに出ていただけるものにするために努力”した是枝監督にとって、今後、そのエネルギーを注ぐ対象はどの俳優さんになるのだろうか。
あまりにもその存在が大きすぎて、なかなか希林さんに代われる人が見つかりそうにないかもしれない。
訃報に接し、そんなことを思っていた。