噺の話

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国立演芸場 中席 6月19日

 W杯、コロンビア戦の勝利を、今は喜んでいいのだろう。
 セネガル戦が、勝負になるなぁ。

 さて、昨日は昼の時間が空いたので、隼町へ。

 関西の地震被害に遭われた方のことを考えると、出かけるのを躊躇する気持ちもあったが、逆に、いつ何が起こるかわからない、落語を聴けるうちに行った方が良いか、と思い出かけた。

 池袋の昼の主任寿輔と夜の真打昇進披露興行も気になっていたが、日本対コロンビア戦までには帰りたいので、昼興行のみの国立を選択。

 主任が春雨や雷蔵。
 この人は、寄席でしか聴いたことがないが、マクラなども含め、なかなか味のある高座を楽しんでいたので、そのうち長講を聴いてみたいと思っていた。

 お客さんの入りは、前の方の三分の一ほどは七割位の席が埋まっていたが、後ろは空席が目立つ。全体で、三割ほどの入りか。それでも300席あるから、池袋なら満席に近い。

 開口一番から、感想などを記す。

立川幸吾『牛ほめ』 (12分 *12:46~)
 四月に師匠談幸が主任だった池袋の開口一番で聴いて以来。あの時の『子ほめ』は、棒読みに近く閉口したが、この高座は悪くなかった。丁寧さが、身上かと思う。
「売る人も まだ味知らぬ 初なすび」を其角の発句としていたが、人によっては去来の発句とする場合がある。これ、どっちが正しいのかな。
 ともかく、初見からたった二ヶ月足らずの間なのだが、ずいぶん印象が変わった。今後が楽しみだ。

春雨や風子『浦島太郎』 (15分)
 久しぶりだ。2013年のさがみはらの予選で『反対俥』を聴いたのが最初で、2016年には、鼻の手術の後、退院したその足で行った連雀亭でも聴いている。連雀亭の『強情灸』は、悪くなかった。
 マクラで、近くのジムに行ったら、「昼間のジムは、ジジ、ババ、オカマ、落語家ばかり」とのこと。行ったことがないが、当たらずと言えないか^^
 自作らしい。乙姫が浦島太郎に玉手箱を渡すのを忘れて、地上に(?)太郎を探しに来て、探偵の浦鳥太郎に探してくれと頼む・・・という筋書き。
 乙姫と浦鳥太郎の会話で、片方がクスグリを挟んだ後に、相手が「そんなことはどうでもいいから」などと言うのだが、テレもあるのか言葉の語尾を呑みこんでしまう。
 ああいう科白は、しっかり言わなければならないと思う。談志家元なら「言葉尻を呑むな!」と一喝するだろうなぁ、などと思いながら聴いていた。
 芸協の若手の新作への挑戦は悪くないと思うが、自虐的な科白は、あまり感心しない。

春風亭笑好『権助魚』 (21分)
 五年前の末広亭での真打昇進披露で縁があったので、応援したい気持ちがあるのでが、今回も小言を書かないわけにはいかない。
 何度か書いているが、舌足らずなのはしょうがないとして、もう少し落ち着いてはどうだろうか。また、マクラでは別に独身だの妻帯しているだのは、言う必要がないと思う。自虐的な内容が続き、やや残念な前半だ。

松乃家扇鶴 音曲 (12分)
 初めてのこの人は、お目当ての一人だった。
 芸術協会のサイトから、プロフィールを引用。
落語芸術協会サイトの該当ページ

芸名 松乃家 扇鶴
芸名ふりがな まつのや せんつる
本名 平野 英治
本名ふりがな ひらの えいじ
生年月日 昭和18年2月22日
出身地 東京都
芸種 音曲
階級 色物..
出囃子 佃
芸歴 長唄、端唄(名取 師範)経て
   昭和45年 千家松人形師に師事
   平成3年 落語芸術協会の高座に上る
   平成7年 落語芸術協会準会員
備考 ちょい粋で艶ぽいおもしろさ
趣味 囲碁三段、カラオケ

 Wikipediaによると、千家松(ちかまつ)人形は、人形・お鯉という女道楽コンビの一人だったようだ。
 扇鶴、最初は、講談の世界にもいたらしい。
Wikipedia「松乃家扇鶴」

 なんだろう、このなんとも言えない、ゆるさは。 
 高座に、ちょこんと座って、ゆるゆると始まる。
 まずは ♪ストトン節、から。
 高音は、お年のせいもあろう、少し苦しいが、それもひとつの味わいになっている。
 男は、女性の「捨てちゃ、イヤーン」というその声に弱い。「それでは、皆さんも」で、客席が靜かな笑いに包まれる。
 「三下がりで」と言って「びんのほつれ」の一節。
 ♪猫になりたや あの家の猫に 好いたお方の 膝まくら
  たもとちょいとくわえ じゃれて 口舌がしてみたい

 口舌(くぜつ)なんて、死語だなぁ^^
 代々の大相撲の横綱の名を並べたところは、まだ、頭はしっかりしている^^
 ふいっ、と下手(楽屋方向)をみて、「終わっていいそうです」と言って下がった。
 いいなぁ、この人。
 俗曲では、小菊、橘之助、うめ吉と女性が目立つが、どっこい、こういう人もいたのだ、と発見(?)に喜んだ高座だった。来て良かった。

春風亭柳太郎『鞄の中』 (19分)
 初。マクラで地口のネタをいくつか披露していたが、その途中で急激に眠気が襲ってきた。前夜は、W杯の韓国対スウェーデン戦の後、ベルギー対パナマ戦も途中まで観ていたので、やや寝不足。加えて、半蔵門駅近くの中華料理屋で昼食を食べた後の、ほぼ午後二時。ネタの名は、終演後の張り紙で知ったが、ほとんど覚えていない。柳太郎さん、申し訳ない。

神田松鯉 講談『扇の的』 (26分)
 仲入りはこの方。張り扇の音の効果もあって、眠気はいっぺんにふっ飛んだ^^
 いまや、弟子が人気者になっていて親子会などのチケットも即売り切れのようだが、やはり、この師匠あってあの弟子なのだろう。
 玉虫御前の美しさを形容する「沈魚落雁閉月羞花」の意味も説明してくれる気配り。
 そんな女性に、ぜひ、お会いしたいものだ。

ぴろき ウクレレ漫談 (14分)
 クイツキは、強力な色物^^
 最初、客席があったまっていないのを見て、♪明るく陽気にいきましょう、で手拍子を要請。手拍子の音が次第に大きくなるにつれ「ワールドカップ会場より、盛り上がってます」と言うあたり、流石。
 「玄関で卓球ができるんです・・・ピンポーン」なんて、書けばおかしくもなんともないのだが、この人の芸で客席がひっくり返る。やはり、この人、凄い。

桂右団治『ちりとてちん』 (19分)
 久し振りだ。この人もお目当ての一人だった。
 最初に聴いたのが、このブログを始める前だから、十年以上経っている。
 申し訳ないが、十年の年月を感じたなぁ。あるいは、少しお疲れ気味か。
 残念ながら、高座にも、かつての切れ味を感じなかった。
 女流落語家が古典で勝負する難しさのようなものを感じた高座。とはいえ、実力のある人なので、後日また聴いてみたい。

江戸家まねき猫 ものまね『音入り枕草子』 (15分)
 膝がわりはこの人。
 「枕草子」を暗誦しながら、関連する動物のものまねを披露した。
 「春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。」では、オンドリの鬨の声。
 「夏は夜。月のころはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、ただ一つ二つなど、ほかにうち光て行くもをかし。雨など降るもをかし。」で、ホタルは鳴かないからと清流の音。その後、雨音を披露し、「皆さんもどうぞ。その音をバックにしますから」と客席の音を背景に、蛙が登場。
 「秋は夕暮れ。夕日の差して山の端いと近うなりたるに、烏の寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。」では、もちろん、烏。雁が続いて、烏に戻り、鈴虫の鳴き声が心地よく響く。
 「冬はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでもいと寒きに、火など急ぎおこして、炭持て渡るも、いとつきづきし。昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火も、白き灰がちになりてわろし。 」で、炬燵にあたっている犬と猫の会話。
 猫八を継いだ兄は二年前に亡くなり、甥がその名を継承するだけの力を発揮しているが、この人の芸も、実に結構だった。作品としての完成度は高い。

春雨や雷蔵『子別れー通しー』 (43分 *~16:26)
 マクラでは132年前、1886年にドイツの船ポーラ号から流された手紙の入った瓶が、今年オーストラリアで発見されたニュースを語る。それは、化粧品の瓶で、と地口ネタにつながったが、この話、知らなかったなぁ。
 残骨灰のことから、葬儀の話となり、この噺へ。
 熊五郎が、寺を出て吉原へ向かう場面からなので、「上」の後半から。
 紙屑屋の長さんとの楽しい会話が、聴かせる。弔いのご隠居のことを「九十三まで、休むことなく人間やってたんだ、凄いじゃねえか」などという科白も味がある。
 「ポックリ寺の坊主が、三年寝たきり」という科白も、可笑しい。
 背中に七つ、両そでに五つ、腹掛けに三つの弁松の特別あしらえというのは、小三治と同じ設定だ。
 吉原の店に上がった後のことは、「中」の内容を含めて地で語った。
 だから、厳密には「子別れー上の後半&下」と言えるだろう。
 「下」の出だしでは、お店の番頭を出かける際、お隣に「留守に無尽が来たら、帳面に挟んだ銭を渡してください」という設定は、初めて聴いた。
 ばったり亀に会った時の会話、熊が「お父っあんは、先代のお父っあん。二代目にがいるだろう」に亀が「はなし家じゃあるまいし」は笑える。
 亀が寄っていってくれと言うのに対し、「そのうち間に人をたてて迎えに行くから」と熊が言う。すでに、熊はその気でいた、という設定だ。
 だから、鰻屋での夫婦再会の場面では、熊から亀を育ててくれた礼を言い、復縁を願い出る設定。自然な流れだと思う。
 残念なのは、母親は亀をカナヅチでぶとうとしたのだが、サゲでは玄能と言ったこと。
 初めから玄能で良かった。
 とはいえ、そういう言い間違えも帳消しにできる高座。寄席でも、その実力の片りんを感じていたが、この噺の「上」と「下」の勘所ををしっかり押さえた高座、今年のマイベスト十席候補としたい。


 ちなみに、雷蔵は八代目雷門助六門下。
 お江戸日本橋亭では「雷蔵八百夜」と題した独演会を続けていて、ご本人のブログによると、今月六日の会で387回目だったようだ。そのうちぜひ行きたいものだ。
春雨や雷蔵のブログ

 NHKの新人落語大賞が新人落語コンクールと題していた時期の昭和55(1980)年、雷門助三の名で『権助魚』を演じ最優秀賞を取っている。ちなみに、その時の優秀賞は、立川談四楼の『大工調べ』。
 小朝が『稽古屋』で最優秀賞、権太楼(さん光)が『反対俥』で優秀賞を取った二年後のこと。

 その実力を十分に確認できた高座だった。


 月に二度ほどの落語会・寄席だが、地味ながら、寄席でキラリと光る噺家さんの主任での高座や独演会などにも、ぜひ行きたいと思っている。

 この日は、主任の雷蔵と、音曲、ものまね、講談などの色物が光ったなぁ。
 さて、W杯でも、もっと日本代表に光ってもらわなきゃね。


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Commented by saheizi-inokori at 2018-06-20 22:22
松鯉、ピロキ以外はほとんど知らない人ばかり、なんだか疎外感を感じます^^。
Commented by kogotokoubei at 2018-06-21 08:50
>佐平次さんへ

芸協の寄席にあまりいらっしゃらないからでしょう。
扇鶴の“ゆるい芸”、ぜひそのうちご体験のほどを。
Commented by at 2018-06-22 06:46 x
1980年あたりに才能を開花させた若手が今や重鎮として若手を指導しています。
雷蔵は杉良太郎主催の二ツ目選手権でも優勝したそうで、実力者なんですね。
初めてブログを見ましたが、きれいな構成で人柄かな、と感じました。
Commented by kogotokoubei at 2018-06-22 09:19
>福さんへ

小朝は同世代ですが、それより上、団塊からその少し下あたりの人たちですね。
さん喬、扇遊、志ん輔、伸治、鯉昇などが入るかな。
杉様が、そんなことしていたのですか、知りませんでした。
Commented by 彗風月 at 2018-06-25 17:42 x
扇鶴さんは最初芸教で上がってきたころ、亭号がなくただの「扇鶴」でしたね。読み方を知らなくて、最初「せんかく」さんだとばかり思っていました。もう20年以上前の話でしょうか。
Commented by kogotokoubei at 2018-06-25 18:25
>彗風月さんへ

Wikipediaによると、2002年から松乃家を名乗っているようですから、20年ほど前のご体験でしょうか。
ご年齢は私の一回り上ですね。
まだまだ知らない芸人さんが多いこと^^
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by kogotokoubei | 2018-06-20 12:27 | 寄席・落語会 | Comments(6)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛