噺の話

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第17回 さがみはら若手落語家選手権・本選会 杜のホールはしもと 3月11日

 日曜恒例のテニスを少し早めに抜け出し、一昨年も行った、さがみはら若手落語家選手権の本選会(決勝選)へ。

 会場の「杜のホールはしもと」のツイッターで知った、予選を勝ち抜いた出場者は、次の通り。ちなみに、同ツィッターには昨日の結果や写真も掲載済み。
「杜のホールはしもと」のtwitter

第1回予選会 柳家やなぎ
第2回予選会 古今亭志ん吉
第3回予選会 立川談吉
第4回予選会 古今亭始
惜敗率1位  桂 伸三

 一昨年、私は志ん吉(『片棒』)に一票を投じたが、優勝したのは花ん謝(『妾馬』)だった。
2016年3月14日のブログ

 本選出場者は、翌年出場できないので、志ん吉は満を持しての本選進出。
 それに、始も予選を突破したし、他の顔触れも悪くない。
 家元の最後の弟子だった談吉は、初めて聴くことになる。
 結構、混戦模様、と思い楽しみにしていた。

 チケットを取るのが少し遅くなったので、二年前と同様、二階席。
 しかし、前の方なので、それほど苦にはならない。

 ホールと同じビルの中で昼食をとって一時過ぎに会場へ。

 プログラムと一緒に、出場者の名とネタが書かれた五枚の投票用紙をいただく。

 二階も八割がたお客さんがいたなぁ。ホールはホームページによると、1階が405席、2階は130席となっているので、約500名の地元中心のお客さんで埋まっていたということか。
 お近くの席の女性のグループの方などの会話を聞いても、落語体験はそう多くないお客さんも多そうだ。そういう客席の状況も、投票結果には影響するだろう。

 開演となり、幕が下りたまま、いわゆるMCの女性から大会の説明などがあり、出場者五人登場で、出演順の抽選を行った。

 結果、やなぎ・談吉・伸三・志ん吉・始の順。この順も結果に影響するなぁ。
 MCが持ち時間を説明しなかったが、一昨年は25分だったはず、と思いながら聴いていたが、仲入りで係の方に確認したら20分だった。

 まず、開口一番から。

春風亭一猿『一目上がり』 (11分)
 一朝門下のこの人は、何度か聴いている。
 ずいぶん良くなったと思う。この人、今後少し気にかけたい。
 それにしても、一朝一門、どんどん弟子が増えるね。

 さて、ここから、五人の戦いが始まる。順番に感想などを記す。

柳家やなぎ『親子酒』 (28分 *13:53~)
 とにかく、一杯飲むまでが、長すぎた。女房に「今夜は冷えるねェ~」と暗示した後で、「風邪をひいたようだ」というのは違和感あり。「風邪をひきそうだ」なら、まだ分かる。目をこすって女房を見直して「おまえ、美人だねぇ」で「一杯だけですよ」となるのだが、二杯目には「由美かおるそっくり」でありつけたが、客席は意外に湧いたが、こんなおだてで飲む筋書きは、あまり良いとは思えない。息子の酔い方も、思ったほど体の大きさを生かしたようには思えなかった。制限時間を間違えたのか、と思うほどの長講は、多くのお客さんの睡魔を誘った。

立川談吉『野ざらし』 (19分)
 談志最後の弟子の高座をようやく聴くことができた。「名前がいちばん家元に近く、最後の字が口と心の違いだけ。談志には心があるが、あたしは口だけ」で笑わせる。
 本編は、師匠譲りなのかもしれないが、鐘の音色の違いを八五郎が声色で演ってみせるなどは柳好風、「乱菊や狐にもせよこの姿」の句を挟んで昨夜のことを尾形清十郎が聞かせるところは柳枝風と、この噺の名演のいいとこどり、という感じだったが、なかなか上手くこなしていた。仕方話を楽しく演じ、顎に刺さった針を取ったところでさげたが、なかなか味のある高座で、私の印象は悪くない。

桂伸三『竹の水仙』 (22分)
 まだ、春雨や雷太の名のイメージが強いが、今は桂伸治の弟子。第一回予選の二位で、全予選の二位の中で惜敗率がもっとも高いための、敗者復活。
 ということもあったのだろうか、プレッシャーを感じない、伸び伸びとして高座と感じた。
「目は見えんのか」「右が1.2で、左が・・・」というクスグリや、殿様に叱られる家来の名が安倍晋三郎となっているなどの演出もあったが、基本的には本来の筋を演じ、その噺自体の可笑しさで客席から笑いをとっていた。
 宿屋の主人が八年前養子に入ったという設定は、どこかで聴いたなぁ。その宿の名が大杉屋。サゲはこの名を使っていた。
 なかなか良かったが、私のこの人のイメージからは、大人しい高座、という印象。しかし、その丁寧さいが吉と出たのかもしれない。
 なお、この人と後半登場する古今亭の二人とは交遊がある。
 始とは志ん輔が主催していた“たまごの会”で一緒だった。また、志ん吉とは、横浜にぎわい座で「魅せる!はなしか三人衆」という題で、三遊亭ときんを含む三人会を行っている。芸協所属だが、他の協会所属の若手とも積極的に交流を深めている、という印象が強い。


 ここで、休憩。
 後半は、楽しみだった古今亭の二人。

古今亭志ん吉『紙入れ』 (20分)
 マクラで、メモリアルホールの落語が最近多いという話から、間男の小咄を挟んで、本編へ。昨年のNHKもこのネタで勝負をかけ、一昨年のこの大会も、予選はこの噺で突破している。十八番なのだろうし、好きなネタなのだろう。新吉、旦那の女房、旦那の演じ分けはよく出来ているし、女房の艶っぽさも、そして女の怖さも表現できている。相当数稽古もし、また高座で磨いてきたことが伝わる。二ツ目の域を超えた期待通りの内容で、私は満足。しかし、この間男ネタ、落語体験の少ない方が多いとお見受けする会場で、どれほど支持を得られるか、という不安も感じてはいた。

古今亭始『宮戸川』 (20分 *16:03)
 予選も、もちろん本選も初めてとのこと。入門前、介護福祉士だった時の思い出や、長唄の稽古での失敗談などから本編へ。
 この人が演じるお花が、なんとも可愛いこと。半七の初心(うぶ)さもよく表現できていた。最後の方で「背中合わせ」という科白を噛んでしまったが、それもご愛嬌か。
 悪くはない。しかし、サゲ前を急いだ印象で、マクラをもう少し縮めていれば、ゆとりが出たのではないか、と思った。初めての参加での本選、持ち味は十分発揮できたのではなかろうか。


 これで五人全員の高座が終了。
 私としては、談吉と志ん吉の二択となり、志ん吉に一票。

 近くにいた女性グループのお一人が、「やはり、本格派にします」と言って、伸三に票を投じていた。あまり落語はお聴きにならない方のようで、本格派という言葉は、その高座よりネタの内容の印象から出たのではないかと察した。それは、噺本来の筋で笑わせてもらった、ということだろうか。間男ネタ、若い男女の艶っぽいネタ、破天荒な釣り人、酔っ払い親子、という設定より、『竹の水仙』の内容に、古典落語の味を強く感じたのかもしれない。
 その言葉を聞いた時、そういう思いで伸三に投票する人、意外に多いかもしれないなぁ、と思っていた。

 さて、お次はゲスト。

柳家甚語楼『猫と金魚』 (22分)
 この大会の第二回目で優勝したことが、MCから紹介されていたが、ご本人は、「もう十五・六年前ですか、ほとんど忘れました」「あの後で、二、三の地域の落語会がありましたが、それも数年でお呼びがかからなくなりましたねぇ」と、会場から苦笑の漏れることを言ったが、まぁ、それも仕方がなかろう。
 この人のこの噺は、昨年十月、浅草演芸ホールでの古今亭志ん五襲名披露興行で初めて聴いて大いに笑ったが、何度聴いても、あの番頭が可笑しくてならない。番頭が「一つうかがってもよろしいでしょうか」が繰り返される途端に客席から笑い起こる。
 この噺は、田河水泡が初代権太楼のために作ったネタと言われているが、果たして師匠の三代目権太楼は、演っているのだろうか。最近では、あの円蔵が十八番にしていた。円蔵に稽古をつけてもらったのかもしれないが、詳しくは分からない。
 今では、この人の十八番になりつつある、と感じた好高座。
 終わってから、すぐ近くのご夫婦と思しきお客さんの旦那さんの方が「やはり、真打ちが違うね」と隣りの席に声をかけていたが、まったく、その通り。

 甚語楼の高座の間に、投票用紙の集計が終了していたようで、審査結果の発表、なのだか、その前に協賛社からの表彰。
 九社あり、一社づつ金一封が渡されたが、始が三つ、志ん吉と伸三が二つ、談吉とやなぎが一つ、という結果。
 ちなみに「グリーンホール八起寄席」は、始だった。焼肉屋さんではなく、ホールの方による表彰。焼肉屋さんだったら、果たして誰だったかなぁ。

 ようやく、優勝者を甚語楼から発表。

 なんと、伸三だった。
 発表の後、ご本人は、まったく予想外だったようで、キョトン、としていた。

 隣りに立っていた志ん吉が、一瞬口惜しい顔を見せたが、すぐに気を取り直したように拍手をしていた姿が、印象深い。

 終演、四時四十七分。

 ロビーには順位表が貼られていて、二位は志ん吉、三位が始、四位談吉、五位やなぎ。

 得票数は明かされていなかったが、一位と二位は、僅差だったのではなかろうか。

 敗者復活からの伸三の優勝は、彼にとっても大きな財産になるだろう。

 発表後にコメントを求められ羅甚語楼は、勝負は時の運、本選に残ったことに誇りを持って精進して欲しい、と彼らに声をかけたが、まさにその通り。

 一昨年『片棒』、今回は『紙入れ』の志ん吉に私は投票し、結果は、花ん謝の『妾馬』、伸三の『竹の水仙』が優勝。
 このへんに、さがみはらのお客さんの傾向が、少しは読み取れるかもしれない。
 志ん吉は、自身のあるネタで勝負をかけたのだろうが、ごの会のお客さんにしてみると、一昨年の予選でも聴いているわけで、NHKも観ていれば「また、この噺家か・・・・・・」という印象を受けた方もいたかもしれない。
 昨年、私が敢闘賞とした『明烏』は20分には出来ないかもしれないが、他にもネタはたくさん持っているはず。もしかすると『代脈』などの方が、結果は良かったかもしれないが、それも時の運、ということか。

 予想は外れたが、伸三の優勝も悪くないだろう。
 私は、この人が雷太時代に『古着(古手)買い』という珍しいネタを聴いて感心したことがある。
2013年12月4日のブログ
 あのようなネタも、今後聴きたいものだ。
 見た目も落語家として相応しい(?)、江戸の長屋が似合いそうな人の今後に期待したい。

 志ん吉は、決して悪い出来ではなかった。甚語楼の言葉通りで、勝負は時の運。
 始も談吉も、得難い経験をしたはず。
 やなぎは、時間内でこなすための、基本の稽古をしてもらいたい。

 帰宅の電車の中で、そういった一人一人の出場者への思いが浮かんでいた。

 そして、NHK新人落語大賞も、この大会のように公開制とし、お客さんの投票も生かすようにできないものか、と何度も思ってきたことが、再び脳裏をよぎった。

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Commented by at 2018-03-14 06:53 x
談吉、高座を重ねて修練したんでしょうね。談志の世話という大変な(笑)苦労をいとわなかったと聞いております。
『野ざらし』といえば、今では小三治でしょうが、あのとぼけたような飄々とした味わいは、つくっているわけではないようです。日曜の番組で正蔵と対談したとき、「聴いてると判るけどさ、うまく演ろうとしてるでしょ。じゃなくて、自分のコトバでやりゃぁいいんだよ」と諭していました。
Commented by kogotokoubei at 2018-03-15 10:28
>福さんへ

談志の最後を看取った弟子は、談吉だけのようですね。
この日の投票結果は、出演順の影響もあったかもしれません。
私の評価は、志ん吉、談吉、伸三、始、やなぎ、の順でした。
『野ざらし』について談志は、柳枝は柳好にも負けないものがある、と著作で書いていますので、その良いとこどりで演っていたかもしれないので、談吉は師匠譲りだったのだろう、と思います。
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by kogotokoubei | 2018-03-12 12:23 | 寄席・落語会 | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛