「鹿連会」の師匠が明かす、名人たちの素顔(4)ー坊野寿山著『粗忽長屋』より。
2018年 03月 05日

坊野寿山著『粗忽長屋』
この本から、四回目。
噺家の遊び方の違いについて、坊野師匠、次のように評されている。
清遊に濁遊
私は遊びを二種類に分けている。飲んで唄って帰る遊びを清遊、妓を買うのを濁遊という。私が勝手につけて呼び名である。
私自身は清遊が好みだったが、下っ端の噺家連中(若い頃の志ん生、文都、馬の助など)はもっぱら濁遊専門だった。
そこで、この連中を引き連れて遊ぶには、初めに玉の井へ連れて行く。ここで妓をあてがって、連中の色気を去勢するのである。
その時、みんなが済むまで私は外で待っているのが常だった。一つ所にぼにゃりしている訳にはいかないので、玉の井の中をウロウロしていた。ある店の前を通ると、窓から顔を出した妓に、
「ここを通るのはこれで四度目ですよ。まだ決まらないの?」と云われたのには弱ってしまった。
玉の井を出ると、神楽坂などで清遊するのである。連中はもう妓はいらないので、飲んで唄って、あるいは踊ったりと、私にしてみれば愉快に粋に遊べるのである。
ところが、しばらく私につきあってはいても、その内にまた妓が欲しいと云い出す。若い体をもてあましている事もあろうが、噺家というものは、大体が女好きなのだ。
私の清遊に最後までつきあってくれたのは、いつも文楽だった。円歌、可楽、金馬などもつきあってくれた方である。考えてみれば、どの師匠連も年配だったから、そんなに濁遊を欲しなかったのだろう。
「清遊」と「濁遊」とは、なかなか言い得て妙。
若い噺家たちが楽しんでいる間、玉の井をうろうろしている寿山師匠の可哀相な姿が、目に浮かぶ。
玉の井で思い出すのは、第一に永井荷風の『濹東綺譚』。
次に連想するのは、滝田ゆう『寺島町奇譚』。
そして、学生時代に観た日活ロマンポルノ、神代辰巳(くましろ たつみ)監督の「赤線玉の井 ぬけられます」だ。あの映画は、傑作だと思う。宮下順子に蟹江敬三、思い出すなぁ。
さて、話が逸れっぱなしにならないうちに、戻る。
紹介した文に登場する噺家の年齢を確認するが、志ん生と円歌(二代目)は、坊野寿山と同じ明治23(1890)年生まれ。
次は、文楽と文都(後の九代目土橋亭里う馬)が明治25(1892)年生まれ、金馬が明治27(1894)年、その後に馬の助(後の八代目金原亭馬生)の明治29(1896)年、可楽の明治30(1897)年の生まれと続く。
寿山の「清遊」の相手に志ん生の名がないのは、もしかすると、まだまだ「濁遊」に励んでいたのかもしれない。
坊野寿山は、文楽の遊び方が粋で好きだった、という意味のことは、本書で何度か登場する。
やはり、あのお旦“ひいさん”に、遊び方を鍛えられていたからかもしれない。
文楽のご贔屓だった“ひいさん”についてご興味のある方は、過去のブログをご参照のほどを。
2013年12月24日のブログ
“ひいさん”と言えば、昨日の『西郷どん』で、一橋慶喜が、品川で隠れ遊びをしている時に飯盛り女たちが呼ぶ名前が“ヒー様”だったのには、驚いた。
それにしても、あそこで西郷と慶喜が出会うとはねぇ・・・・・・。
ある意味、林真理子の想像力に驚いた次第である^^
さて、この本に戻る。
成立の元となった噺家たちの「鹿連会」、あらためて参加者を並べてみる。
第一次(昭和五年頃から開催)
柳家小さん(四代目)
桂文楽
橘家円蔵(六代目三遊亭円生)
三笑亭可楽(七代目)
橘家円晃(円生の弟)
蝶花楼馬の助(八代目金原亭馬生)
林家正楽(初代)
桂文都(九代目土橋亭里う馬)
柳家小三治(後に落語協会事務長)
春風亭柳楽(八代目三笑亭可楽)
第二次(昭和二十八年六月十四日発足)
桂文楽
三遊亭円生
橘家円蔵
桂三木助
柳家小さん(五代目)
三升家小勝(六代目、通称、右女助の小勝)
古今亭志ん生
金原亭馬生(十代目)
春風亭柳枝(八代目)
三遊亭円歌(二代目)
林家正楽(初代)
錚々たる、顔ぶれだ。
そして、「あとがき」には、「鹿連会」開催中に発足した“若い噺家たちの会”として、次の二つの会と参加者の名が記されている。
川柳鹿句会
桂文朝・金原亭桂太・春風亭柳橋・三笑亭夢楽・古今亭志ん駒・古今亭志ん朝・柳家小三治
川柳鹿柳会
三遊亭円之助・柳亭燕路・桂文平・桂楽之助・橘家三蔵・三遊亭好生
この中で、好生にのみ(故人)と付されている。
しかし、本書発行の昭和59年当時に若かった上記の噺家さんたちの多くが、故人となられている。
そういうことを考えてみても、坊野寿山のこの本、実に貴重である。
まだまだ、ご紹介した話も多いのだが、今回のシリーズは、ひとまずこれにてお開き。
この本、二月末で閉店した池袋の八勝堂で入手したのだが、あの時、他に二冊落語の本を買った。
そちらも、近日中に紹介したいと思う。これもも、また、結構な本なのである。
八勝堂の閉店、残念でならない。
