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素晴らしい映画、「約束の地、メンフィス~テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー~」


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オリジナルサウンドトラック「約束の地、メンフィス~テイク・ミー・トゥ・ザ・リバー~」

 居残り会リーダー、ブログ「梟通信」管理人、佐平次さんのお奨めの映画を、ようやく関内の横浜シネマリンで観ることができた。
「梟通信」の該当記事

 久しぶりの映画館。
 なんと、五年余り前の「聯合艦隊司令長官 山本五十六」以来。
 あの時は、結構辛口の感想を書いた。
2012年2月5日のブログ

 今回は、下記の公式サイトの謳い文句通り、感動した。
「約束の地、メンフィス」公式サイト

テネシー州メンフィス。ここでは多種多様な音楽が生まれ融合し、また、数々の“生ける伝説”と呼ばれる世界的ミュージシャンたちを輩出してきた。彼らを今一度この故郷に呼び戻し、名門ロイヤル・スタジオ等にて、ジャンルや人種、世代を超えた新たなレコーディングを行い、メンフィスの音楽と精神を現代の世界に再び送り出そう――この破天荒なプロジェクトの過程を追ったドキュメンタリーである本作。

ブッカーT.ジョーンズやメイヴィス・ステイプルズ、惜しくも収録後にこの世を去ったボビー・ブランドやスキップ・ピッツといった巨匠たちが次世代を担う若者に音楽を継承する貴重なセッションの数々を、かのスタックス・レコードの盛衰に象徴される黒人差別の歴史と絡めつつ綴っていく。偉大なる先人たちがプレイの秘訣を惜しげもなく伝授してゆくシーンが印象深く、過去から現代へ粛々と受け継がれるこの地の“ソウル”がスクリーンから溢れ出す。音楽の本質を垣間見せてくれる感動作。

 オリジナルサウンドトラックCDの越谷政義さんのライナーノーツからも引用。
 映画「約束の地、メンフィス~テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー~」の監督マーティン・ショアは、キース・リチャードと懇意にしていた故ジム・ディキンソンのゼブラ・ランチのスタジオで友人であるジムの二人の息子のうちの一人のコーディ(兄のルーサーとノース・ミシシッピ・オールスターズで活動)と一緒にいる時こう閃いた。メンフィス音楽を生み出していった伝説のアーティストに集まってもらい、その素晴らしさをもう一度世界に発信しよう。でもノスタルジーに浸るだけでなく、足跡をドキュメントするだけでなく、大ベテランたちをリスペクトしその歴史を受け継ぎながらも斬新なムーブメントの中で活躍している“若いミュージシャン”と“伝説”との“競演”をひとつの“世界”に作り上げよう。それがCDとなり、映画となって完成した。

 このマーティン・ショアの思いは、見事に素晴らしい作品となって結実した。
 
 最初に佐平次さんからメールをいただき公式サイトを見て、ブッカー・T.ジョーンズ(Booker T. Jones)の名があったことに興奮した。

 私は、中学生の頃からクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)が好きで、NHKの「ヤング・ミュージック・ショー」で最初にCCRを取り上げた時は、興奮しながら観ていた。
 Wikipediaで確認すると、1971年10月24日の放送だ。
Wikipedia「ヤング・ミュージック・ショー」

 ブッカー・T&ザ・MG'sは、その時に知った。

 CCRメンバーとのセッションも印象的だったし、彼らのビッグヒット「Green Onions」は、今でも耳に残っている。

 そのブッカー・T.ジョーンズも登場するなら、観ないわけにはいかない^^

 ブッカー・T&ザ・MG'sは、メンフィスのスタックス(STAX)・レコード専属のスタジオ・バンドだった。
 オルガンのブッカー・T.ジョーンズを中心に、ギターは、あのスティーヴ・クロッパー、ベースがルイス・スタインバーグ、ドラムのアル・ジャクソン。ベースは、その後、あのドナルド・ダック・ダンの代わっている。
 “あの”への私の思い入れが分かる人は、この映画是非見て欲しい。
 スティーブ・クロッパーは「ブルース・ブラザース」で知った方も多いと思うが、あの「The Dock of the Bay」の作曲者。

 スタックス・レコードは、アメリカのR&B、ソウルミュージックを語る上で欠かせないレーベル。
 この映画は、そのスタックス・レコードの歴史、数多くの伝説的なミュージシャンの歴史とともに、人種差別を背景として銀行の融資を止められて倒産してしまった歴史も、しっかりと伝えている。

 もちろん、音楽もとびきり素晴らしい。
 収録されたセッションは、次の9つ。
 短い私の補足や感想(*)を添えてみた。

Session1
「サポーズド・トゥ・ビー(Supposed to Be)」
ブッカー・T.ジョーンズ with ノース・ミシシッピ・オールスターズ featuring アル・カポネ
 *アル・カポネは、ラッパーの芸名なので、お間違いなく^^
  ブッカー・Tはこれだけだったのは、少し残念。
  しかし、ところどころにMG'sの曲がBGMとして流れていた!

Session2
「愛なき世界で(Trying to Live My Life Without You)」
オーティス・クレイ featuring リル・ピーナッツ
 *ジャクソン・ファイブ時代のマイケルを思わせるようなリル・ピーナッツ
  の、なんとも可愛いこと!
 残念ながら、オーティスは2016年1月18日、日本公演を前に旅だった。
 リル・ピーナッツには一生の思い出になったことだろう。

Session3
「プッシュ・アンド・プル(Push and Pull)」
ボビー・ラッシュ featuring フレイザー・ボーイ
 *ボビー・ラッシュは、今でも現役。まだまだ、頑張って欲しい。
 サウンドトラックCDには、もう一曲'Hen Pecked'が収録されている。

Session4
「イフ・アイ・シュド・ハブ・バッド・ラック
(If I Should Have Bad Luck)」
チャーリー・マッセルホワイト with ザ・シティ・チャンプス
 *チャーリーの鞄の中には、とんでもない数のブルース・ハープが詰まっていた!
  サウンドトラックでは、この人の声、実に味わい深く聴くことができる。
 
Session5
「シッティング・オン・トップ・オブ・ザ・ワールド
(Sitting on Top of the World)」
ヒューバート・サムリン featuring エリック・ゲイルズ & イアン・シーゲル
 *ヒューバート・サムリンはハウリン・ウルフのバンドで活躍した人。
  2011年12月4日没。だから、この映像も貴重な記録だ。

Session6
「ウォーク・アウェイ(Walk Away)」
テレンス・ハワード with ハイ・リズム・セクション
 *映画「陽のあたる教室(Mr.Holland's Opus)」に出ていたテレンス・ハワードが、
  こんな素晴らしいミュージシャンでもあったとは知らなかったなぁ。

Session7
「消えゆく太陽(Ain't No Sunshine)」
ボビー“ブルー”ブランド featuring ヨー・ガッティ 
 *ボビー・ブランドは、エリック・クラプトンが尊敬し、ボビーの
  「Farther On Up The Road」をレパートリーにしていて、The Bandの
  ファイナルコンサート「The Last Waltz」で披露していたなぁ。
  車椅子で登場していたボビーは、惜しくも2013年6月23日に旅立った。

Session8
「アイ・フォーガット・トゥ・ビー・ユア・ラヴァー
(I Forgot to Be Your Lover)」
ウィリアム・ベル with スタックス・ミュージック・アカデミー学生
featuring スヌープ・ドッグ
 *このセッションには、しびれたなぁ。別途、書きます。

Session9
「ウィッシュ・アイ・ハド・アンサード
(Wish I Had Answered)」
メイヴィス・ステイプルズ with ノース・ミシシッピ・オールスターズ(NMA)
 *ザ・ステイプル・シンガーズのメイヴィスと、ルーサーとコーディの
  ディキンソン兄弟を中心とするNMAの楽しいセッション。
  曲が決まり、ネットから懸命に音を拾うコーディとルーサーが、
  メイヴィスを深く尊敬していることが、映像から伝わる。


 それぞれ素晴らしいセッションだが、中でも「I Forgot To Be Your Lover」が収録されていく様子には、見ていて鳥肌が立った。

 この映画で、その優しさが滲み出るギターリストのCharles “Skip” Pittsが、スタックス・ミュージック・アカデミーで学ぶ少年にギターを教えている間に、彼らが滞在できる時間内に一曲一緒にやろうと提案。あと30分ほどしか時間がない。急いでWilliam Bellと相談して、彼が作り、ブッカー・T.ジョーンズのプロデュースでスタックスからリリースしたヒット曲に決まる。メンフィスゆかりのスタックスやハイといったレコード会社の曲を聴いて育ったラッパーのSnoop Doggが急いで自分のパートの詞を作る。

 そして、アカデミーの少年達との素晴らしいセッションが収録されていく。

 観終わってから迷いなく買ったサウンドトラックCDには、残念ながら日本語の歌詞しか載っていない。

 オリジナルの歌詞と、CDの和訳に少しだけ手を加えてご紹介。

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I Forgot To Be Your Lover

Have I told you lately that I love you?
Well, if I didn't, darlin', I'm sorry!
Did I reach out and hold you in my loving arms
Oh, when you needed me?

Now I realize that you need love, too
And I'll spend my life making love to you
Oh, I forgot to be your lover

最近君に愛してると言ったかな
言ってなかったらごめん
手を伸ばし君をこの腕に抱いたかな
ああ 君は俺を求めてた

今さら気づいたんだ 君も愛を求めてたと
これからの人生は君に捧げるよ
ああ 俺は君の恋人らしくなかった
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 いい歌だと思うが、なかなか日本人には言えない科白だなぁ^^

 サウンドトラックCDには、スタックス・ミュージック・アカデミーの少年たちの名もクレジットされている。
 Charles “Skip” Pittsは、彼らを褒め、そして笑顔で手を差し伸べた。
 彼は、少年たちにとって、まさに“伝説”である。
 Pittsはアイザック・ヘイズ(Isac Hayes)が頼りにしていたギターリストであった。

 Hayesの大ヒット曲「黒いジャガーのテーマ」は、1972年の第44回アカデミー賞で歌曲賞を受賞。Hayesは、俳優部門以外でアカデミー賞を受賞した初のアフリカ系アメリカ人となった。同じ年の8月20日、スタックス・レコードはロサンゼルス・メモリアル・コロシアムでコンサート「ワッツタックス」を開催し、Hayesはトリで出演し「黒いジャガーのテーマ」を歌ったのだが、その映像も、この映画で挿入されている。Hayesが、若き日のPittsに丁寧にお辞儀をしている姿が、そこにはあった。

 そのPittsも、2012年5月1日に旅立っている。
 
 映画の中では、Sam&Daveの大ヒット曲「Hold On,I'm Comin'」をIsac Hayesと一緒に作った名プロデューサーのDavid Porterが登場し、同曲誕生の逸話を披露していた。結構、あの場面は笑えたなぁ。
 PorterはPittsに向かって、「Hold On(待っていろ)I'm Comin'(俺が行くから)」と笑いながら言っていたが、晩年癌で入院していたPittsの部屋を、Porterは訪れていたに違いない。

 Isac Hayesが獲得したオスカー像は、スタックス・ミュージアムに展示されていることが紹介された。ヘイズが乗っていた車も、そこにあった。
STAX MUSEUMのサイト

 STAXの歴史は、主にAL BELL (Alvertis Isbell) と、WILLA DEAN “DEANIE” PARKERによって語られる。
 この映画のアメリカの公式サイトにある、二人のプロフィールを少しご紹介。
Take Me To The River公式サイト(英語)

 Al Bellについては、次のような説明がある。
Bell was vital to the careers of many of Stax’s stars, including The Staples Singers, Isaac Hayes, The Emotions, and The Dramatics. Bell’s promotional efforts drove the “Memphis Sound” internationally, and made Stax the second-largest African-American owned business in the 1970s. In 2009, the BBC profiled Bell as “one of the icons of soul music.”
 メンフィス・サウンドを国際的なものとした(drove the “Memphis Sound” internationally)、ソウル・ミュージックの象徴的な人物の一人(one of the icons of soul music)。

 Parkerは、元は、いわゆるシンガー・ソングライターだった。
 その後の経歴は次の通り。
After her retirement, Parker became CEO of Soulsville, where she spearheaded a fundraising campaign to raise the $14 million required to build the Stax Museum of American Soul Music and The Stax Music Academy on the original site of Stax Records. Soulsville was also a force behind the South Memphis neighborhood’s redevelopment. In 2009, she executive produced the Emmy-winning documentary, I AM A MAN, about the 1968 sanitation strike that brought Martin Luther King to Memphis, to which she contributed the title song (with Fred Jones), the first song she wrote in 45 year. The film played numerous festivals, and won prizes at the CMJ Film Festival, Indie Memphis, Trimedia, Cape Fear, the Charlotte Film Festival, and Louisville Film Festival.
 募金活動によって、Stax Museum、Stax Music Academyを設立した人であり、キング牧師をメンフィスに招致して行われた公民権ストのドキュメンタリー、エミー賞受賞「I AM A MAN」の制作を行った彼女は、この映画で重要な役割を演じている。
 彼女の存在が、この映画をメンフィス・ミュージックの歴史の記録にとどまらず、アメリカの公民権運動の歴史の一面を描写する優れたジャーナリスティックな映画に高めているように思う。

 メイヴィスがメンバーだったザ・ステイプル・シンガーズが1965年に発表したアルバム『Freedom Highway』は、当時の公民権運動で、キング牧師が先導したアラバマ州モンゴメリーからセルマまでの行進を支持する意図で行われたコンサートを収録したものだ。その有名な行進の映像も挿入されている。
 映画では、Session9の曲を決めようとする際、ルーサー・ディキンソンが「Freedom Highway」がいいとメイヴィスに言って、彼女を驚かせていたなぁ。

 ちなみに、タイトルの「Take Me To The River」は、Al Greenの1974のアルバム'Explores Your Mind'の中に収録されていたヒット曲。Talking Headsのカバーでも有名。
 Al GreennとギターリストMabon “Teenie” Hodgesとの共作で、ロイヤル・スタジオでWiilie Mitchellがプロデュースしているから、まさにこの映画に相応しいということで名付けられたのだろう。
 ただし、Alのスケジュールと映画の撮影日程が合わなかったらしく彼が出演していないのは、残念。

 とはいえ、映画には、Mabonが登場する。
 彼は2014年6月22日に旅立っており、この映画は、やはり貴重なのだ。


 誰かが、酒やドラッグに溺れることがなかったのは音楽のおかげ、と語っていた。
 貧しく、そして人種差別の激しかったアメリカ南部の街で彼らを救った音楽は、厳しい環境に耐えながら音楽を守ってきたレコード会社やスタジオ関係者の多くの人々によって彼らに与えられた素晴らしい贈り物であることを、彼らは分かっている。
 多くの先人への感謝の気持ちがあるから、伝説となった彼らを心底尊敬する後継者たちを見守る目は優しい。
 それぞれのセッションは、歴史を紡ぐ場であり、、そこには“師弟”の交流、それも、一期一会と言うべき交流が見事に描かれている。
 

 この映画に関して書きたいことは、まだまだあるが、この辺でお開き。

 R&Bやソウル、幅広くアメリカの音楽が好きな方には、素直にセッションを楽しんでもらえるし、アメリカの公民権運動に関心のある方にも、十分に見応えのある映画だと思う。

 私は、この映画を見て、嫌いだったラップが好きになりそうだ^^
 ただし、日本語のラップを除くけどね。


 公式サイトにあるように、関東地区や新潟では、まだ上映予定がある。

 東京
 下高井戸シネマ 9月2日(土)〜9月8日(金)
 神奈川
 横浜シネマリン 8月12日(土)~9月1日(金)
 栃木
 宇都宮ヒカリ座 調整中
 新潟
 シネ・ウインド 10月7日(土)~10月13日(金)

 サウンドトラックを聴くと、それぞれのシーンが甦る。


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Commented by saheizi-inokori at 2017-08-25 14:51
毎朝NHK衛星一チャンネルで6時50分からのニュースの前に流れる映像のBGMにときどきブッカー・T&ザ・MG'sの「バカになれ」とかなんとかいう歌が流れます。
映像はアメリカの広い野原の中の道をクラッシクカ―が何台か連なって走っていくのです。
肥ったおばさんたちが手を振ってくれたり、楽しい映像です。
Commented by kogotokoubei at 2017-08-25 18:11
>佐平次さんへ

申し訳ありません、見たことがないのですよ。
さて、どの曲でしょうか?
代表曲は、「Greem Onions」以外では「Hang 'Em High」「Time Is Tight」「Melting Pot」「Groovin'」「Soul Limbo」あたりですが。
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by kogotokoubei | 2017-08-24 23:36 | 映画など | Comments(2)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛