噺の話

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熱海の夜 入船亭扇遊独演会 内幸町ホール 8月22日

 なんとか都合がつき、ご旅行で行くことができなくなったF女史より、四日の浅草見番の会の後にいただいたチケットを活かすことができた。

 本来は喜多八ファンの方によって企画された二人会の予定だったとのこと。
 二月の第一回目も佐平次さんからお誘いがあったのだが、都合が合わず、今回は落語研究会で佐平次さんは来られないのだが、私は僥倖に恵まれた。

 久しぶりの会場は、ほぼ満席に近い盛況。

 こんな構成だった。
 
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開口一番 入船亭遊京 『つづら泥』
入船亭扇遊 『夢の酒』
入船亭扇遊 『青菜』
(仲入り)
入船亭扇遊 『牡丹燈篭ーお札はがしー』
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入船亭遊京『つづら泥』 (20分 *19:00~)
 扇遊の二人目のお弟子さんを初めて聴いた。
 マクラでの80日間中国旅行の逸話が本編よりは楽しかったかな。
 与太郎の女房が登場する噺はこのネタと『錦の袈裟』くらいだろう。
 まだ、それぞれの人物を描くのは難しそうだが、明るい高座には好感が持てた。頑張っていただきましょう。

入船亭扇遊『夢の酒』 (26分)
 熱海の夜という会の名は、扇遊の出身が熱海であること、本来は喜多八との二人会の予定だったこと、などを説明。
 電車ではスマホを見ている人ばかり、あまりウトウトしている人はいない、などとふって本編へ。
 寄席を含めて何度目だろうか、この人のこの噺は。
 間違いなく十八番の一つだと思う。
 ブログを初めて、「落語のネタ」というお題で最初に取り上げたのは、文楽版を元にしたこの噺だった。
2008年6月13日のブログ
 その記事を元に、あらすじをご紹介。

(1)若旦那の夢の説明
 大黒屋の若旦那が昼寝をして夢を見た。女房お花がどうしても聞きたい
 というので、若旦那が嫌々説明をする。向島で夕立に遭い軒先を借りた家
 の女主人が若旦那を知っており座敷にあげる。若旦那は普段飲まない酒を
 飲んで酔い、布団に横になって休んでいるところに女が長襦袢姿で横に
 スッと入ってきたところで、女房に起こされる。
(2)女房お花の怒り
 女房は怒らないと約束して若旦那に夢の話をさせたのだが、話をきくうちに
 嫉妬にもだえ、怒り、しまいに泣き出してしまう。
(3)大旦那登場
 泣き声を聞いた大旦那が驚いて嫁に理由を聞き息子を叱るのだが、夢の話と
 分かりホッとする。しかし嫁は大旦那に、すぐに昼寝をして夢をみて、
 向島の女に意見をしてくれとせがむ。
(4)大旦那の夢
 大旦那、しぶしぶ昼寝をし向島の家を訪ね、女から酒を勧められる。
 下女がいったん落とした火をおこしているがなかなか燗がつかない。
 大旦那は若い時に冷酒(ひや)を飲みすぎてしくじりが多かったことも
 あり今では燗酒しか飲まない。女がつなぎで冷酒をすすめるのだが断る。
 しかし、なかなか燗はつかずいらいらする。
(5)サゲ
 そこで、嫁が親父を起こす。そして、サゲ「ヒヤでも良かった」

 扇遊は、若旦那と女房のお花との会話で、次第に怒りが募るお花を、絶妙な表情の変化で描く。若旦那が向島でグダグダになる様子も、実に楽しい。
 科白の間も味がある。たとえば、普段は大旦那が酒を飲むと嫌な顔をする若旦那が向島で酒を飲んだと知り、「えっ、こいつが・・・酒を・・・こういう奴なんです」の可笑しさは、譬えようがないなぁ。
 そして、女性の描き方が絶妙だ。
 女房のお花の嫉妬する姿、向島の女の艶やかさは、同じ演者とは思えない巧みさ。
 袖で見ていた遊京には、ずいぶん勉強になったのではなかろうか。
 この噺では当代の噺家で随一だと思う。
 もちろん、今年のマイベスト十席候補だ。

入船亭扇遊『青菜』 (30分)
 座ったままで、二席目へ。
 今年の天気のことなどネタに相応しいマクラ。とはいえ、かつて定番(?)だった半井さんの名前が出なかったのは、ちょっとだけ寂しい^^
 お約束でもあるが、蜀山人の狂歌がいい。
 蜀山人は、涼しさをこう表現した。
 「庭に水 新し畳 伊予簾 透綾縮に色白の髱(たぼ)」
 反対に、暑さは、こうだ。
 「西日さす 九尺二間にふとっちょの 
  背中(せな)で子が泣く 飯(まま)が焦げつく」
 
 こういうマクラを聴くと、小満んを思い出すのだ。
 さて、この噺も、古くなるが拙ブログ「落語のネタ」で取り上げたことがある。
2009年5月21日のブログ
 同記事を元に、扇遊の高座のあらすじを書くと、こうなる。

(1)植木屋が仕事先のお屋敷の主人から接待を受ける
 初夏の夕暮れ時、ひと仕事終えた植木屋が、主人から声をかけられた。
 大阪の友人が送ってくれた柳影、関東で言う「なおし」があるから、
 一杯やってくれとのことでご馳走になる。”鯉のあらい”を肴に、
 冷やした柳影でいい気分の植木屋さん。
(2)奥さんと主人の会話
 主人から「菜のお浸しはお好きか?」と勧められ、「でぇー好き」と
 答える植木屋。主人が奥さんに言いつけるが、奥さんがかしこまって
 言うには「鞍馬山から牛若丸がいでまして、その名を九郎判官」、この
 言葉を聞いた主人が「では義経にしておけ」と答えた。
 植木屋が不審に思うと、これは「菜を食ろうて、なくなった」ということを
 隠し言葉、洒落で答えたのだと主人の説明。
(3)植木屋が長屋に帰宅
 お屋敷の夫婦の会話にいたく感心した植木屋さん。家に帰り、がさつな
 女房に、おまえにはこんなこと言えないだろうとけしかけると、女房が
 「私にだってそれくらい言える」との返答。ちょうどやって来た建具屋の
 半公を相手に芝居をすることにし、女房を押入れに隠す。
(4)植木屋夫婦の芝居~サゲ
 熊さん相手に「冷やした柳影」は「燗冷ましの酒」、「鯉のあらい」は
 「鰯の塩焼き」で代替、菜は嫌いだという半公になんとか頼み込んで、
 ようやく待望の夫婦芝居。
 「奥や、奥!」と声をかけると押入れから汗だくになった女房が出て来て、
 「鞍馬山から牛若丸がいでまして、その名を九郎判官、義経」と言って
 しまう。
 慌てた植木屋、「え、義経、う~ん、じゃあ、弁慶にしておけ」でサゲ。

 この人の噺で、これほど笑ったことはないと思う。
 また、蜀山人の二つの狂歌の落差のように、涼と暑の落差が見事に描かれていたことも、噺の味を引き出していた。
 庭に吹く風、植木屋の見事な水遣り、などの涼の光景が目に浮かぶから、後半の暑さが際立つ。
 鯉の洗いを見た植木屋の、「鯉ってぇのは黒いかと思ってたら、白いんですねぇ・・・よっぽど洗ったんですか」に主人が「あれは鯉の外套だ」と返すと、植木屋「鰻なんざぁ、さしづめズボンですか」などもほど良い笑いを誘う。
 氷を頬張る仕草なども、なんとも可笑しい。
 長屋に帰ってからの夫婦の会話も、楽しく聴かせる。見合いの場所が上野動物園で、長い時間カバを見ていたせいで女房が良く見えたのは、仲人の作戦か、というやりとりでも大いに笑った。
 サゲ前の半公との会話では、植木屋の、いわゆる鸚鵡返しの楽しさが満載。
 半公が「なにか、のりうつったんじゃねぇか」で爆笑。
 この噺の名手は少なくないが、間違いなくこの人もその一人だと感じた高座。
 もちろん、今年のマイベスト十席の候補である。

 仲入りでは、次回、来年三月の会のチケットが販売されていたが、そんな先のことは分からず、買わなかった。しかし、行きたいとは思っている。

入船亭扇遊『牡丹燈篭ーお札はがし』 (50分 *~21:22)
 白い着物に着替えての登場。
 マクラもふらず「根津に~」とこの噺へ。
 発端の本郷の刀屋の件は、割愛。また、お露が柳橋の寮(別荘)に住むようになったいきさつは、途中でお米が語るという構成にしていた。
 根津に住む萩原新三郎が、二月に亀戸の梅見の後、幇間医者の山本志丈に連れられて、柳橋の寮でお露と最初の出会いをしたことからしばらくは、地での語り。
 新三郎は、お露に会いたくてたまらないのだが、一人で行くのは厚かましいと思い、山本志丈が来るのを待つが、なかなか来ない。原作では夢を見る場面があるが、多くの演者同様それも割愛して早や時は過ぎて六月も半ば、ようやく志丈がやって来た。しかし、なんとお露が、新三郎に恋焦がれて死に、看病疲れで女中のお米も後を追ったとのこと。
 悲嘆にくれる新三郎が、お盆七月十三夜の月を見ていると、深夜八つ過ぎに、下駄の音がカランコロンと・・・と怪談話のクライックスにつながっていく。
 やはり、この噺は難しいなぁ、と感じた高座。
 山本志丈が、武士のようみ見えたことから、ちょっと噺に入り込めなくなった。伴蔵とおみねの会話を中心に据えたと思われるが、二人があまり悪い人には思えなかったなぁ。
 ニンではない、とは言わない。そうとう高いレベルの高座だったのだとも思う。
 やはり、前半の二席が良すぎたのだろう。


 お腹いっぱいの三席。
 この会を教えていただいた佐平次さん、チケットを譲っていただいたF女史に感謝しながら、帰途についた次第。

 電車の中で見た受付でいただいたチラシには、扇遊の独演会の案内がいくつか入っていた。
 分かる人には分かるのだ、と心で呟いていた。
 
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Commented by saheizi-inokori at 2017-08-23 21:50
落語研究会よりこっちのほうがよかったなあ。
独演会の扇橋はすごいですね。
Commented by saheizi-inokori at 2017-08-23 21:51
扇遊でした^^。
Commented by kogotokoubei at 2017-08-23 22:08
>佐平次さんへ

なかなか達者な噺家さんを、占有はできませんね^^
Commented by 彗風月 at 2017-08-25 16:59 x
船遊師、暫く聴いてないなー。喜多八師とのコンビも懐かしい思い出になってしまいました。ぜひ今度ご一緒しましょう。
Commented by kogotokoubei at 2017-08-25 18:13
>彗風月さんへ

あれから一年余りが過ぎました。
もう、なのか、まだ、なのか・・・・・・。

この会そのものは来年3月までないので、また近いうちに、ぜひ!
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by kogotokoubei | 2017-08-23 12:47 | 寄席・落語会 | Comments(5)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛