古今亭菊丸・柳家福治 二人会 池袋演芸場 5月26日
2017年 05月 27日
予定が決まった当初は末広亭に行くつもりでいたのだが、池袋でこの二人会があることを知り変更。菊丸の名に惹かれたのだった。
それにしても、この二人、年齢は少し離れているはずなのに、どんな縁があったのだろう、と落語協会のホームページを見て得心。
落語協会ホームページの「芸人紹介」のページ
古今亭菊丸
1975(昭和50)年11月 古今亭圓菊に入門 前座名「菊助」
1976(昭和51)年3月 広島修道大学卒業
1980(昭和55)年6月 二ツ目昇進 「菊之助」と改名
1990(平成2)年3月 真打昇進 「菊丸」と改名
柳家福治
1980(昭和55)年3月 広島修道大学卒業
1981(昭和56)年3月 柳家小三治に入門
1982(昭和57)年2月 前座となる 前座名「つむ治」
1986(昭和61)年9月 二ツ目昇進 「福治」と改名
1996(平成8)年3月 真打昇進
なるほど、大学の先輩と後輩だった。
念のため開演30分ほど前に入ると、すでに客席が八割ほど埋まっている。
開演前には九割がたの入りの大盛況。
週末とは言え、平日夜の池袋とは思えなかった。
後で二人のマクラで知るのだが、年に一回15年、今回の15回目で最終回とのこと。
なるほど、仲入りの際に顔見知りと思しきお客さんの会話で大学の名も聞こえたので、二人を知る人たちが大勢駆けつけたということか。
長らく開催されているある落語会を、池袋で最初で最後に経験するというのは、二年前の「たまごの会」でもそうだった。
2015年10月24日のブログ
なんとか縁があって、最後の会に立ち会えたのは僥倖と言えるのだろう。
福治は初めて聴く。
菊丸は、五年余り前の横浜にぎわい座で『火事息子』を聴いて以来になる。
2012年12月1日のブログ
こんな構成だった。
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(開口一番)林家彦星『真田小僧』
古今亭菊丸 『子ほめ』
柳家福治 『だくだく』
(仲入り)
柳家福治 『目薬』
古今亭菊丸 『中村仲蔵』
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林家彦星『真田小僧』 (14分 *18:31~)
四月の末広亭夜の部の開口一番で初めて聴いて以来。やはり、語り口がはっきりしていない。二列目の席でよく見え、よく聞こえる場所でさえ、会話の切り返しで科白を飲むのが気になる。昨年正雀に入門したばかりなのだから、まずは、大きな声ではっきりと、という基本を大事にして欲しい。
正直なところ、私の方がうまいぞ^^
古今亭菊丸『子ほめ』 (15分)
15年目、15回の最終回と聞き、初めて来た身としては、少し驚く。
昭和26年4月生まれなので、私の四歳上で66歳だが、若々しいなぁ。
彦星にあえて聴かせたかったのかと思わせる、お手本のような寄席の前座噺だが、芸達者が演じるとこれだけ面白い、ということだ。
雲助もこの噺が好きで、寄席でまだこのネタがかかっていなかれば好んで演じるとのことだが、この人もこの噺が好きなのだろうなぁ、と思わせる好演。
柳家福治『だくだく』 (28分)
ちょうど還暦、だから私の二歳下になる。しかし、見た目は菊丸より上に見えないこともない。
小三治の弟子は、入門順に次のようになっている。
柳家〆治・柳家喜多八・柳家はん治・柳家福治・柳亭燕路・柳家禽太夫・柳家小多け (1985年入門、1987年破門)・柳家一琴・柳家さんぽ(破門の後に三遊亭圓橘門下となった四代目三遊亭小圓朝)・柳家三三・柳家三之助・柳家小八(喜多八門下より)
他の一門の噺家さんより寄席への出演などが少ないのが不思議だ。親しみのある雰囲気が私は嫌いじゃないし、この高座も悪くなかった。
天才的な先生の絵が目に浮かんできた。
柳家福治『目薬』 (17分)
仲入りをはさんで再登場。
一席目のマクラで、これまでは二席づつ違うネタを演じてきたが、最終回ということで、お客様の様子を見て、以前にかけた噺をしたいと言っていたが、まさかこのネタとは。
しかし、トリの先輩菊丸への配慮もあると思われるこの軽いネタは楽しかった。
女房が尻を出している姿に「その包をほどけ」が妙に可笑しかった。
この人の持ち味で、下品にならない高座。
前日の客の入りが良い場合は翌日は天麩羅蕎麦をおごると言っていたが、今日の昼はきっと天麩羅蕎麦だろう。
古今亭菊丸『中村仲蔵』 (30分 *~20:30)
黒紋付きで登場。マクラもふらずに本編へ。
圧巻の高座と言って良いだろう。
二列目なので、その顔の表情、身振り手振りがよく分かるが、過度に劇的にならず、落語としての歌舞伎の世界、とでも言うような「五段目」が登場した。
果たして誰の型なのだろう。
役者の身分を、下立役-中通り-相中-相中上分-名題下-名題、と丁寧に説明。
「夢でもいいから持ちたいものは、金の成る木といい女房」を挟む。
ざわめくばかりの客席に、「しくじった、ワルオチだった」と落胆して上方へ向かう途中、魚河岸で芝居を見た二人の会話を耳にし、「広い世界でたった一人でも、褒めてくれる人がいた」と呟く、などは正蔵の型だが、他の設定が少し違う。
妙見様で満願の後に雨で飛び込んだ蕎麦屋で出会う浪人が、実は彼が中村仲蔵であると知っていた。しかし、侍本人は名乗らない。
サゲ前には、団十郎の家に頭取と師匠の伝九郎が揃って待っているとともに、隣の部屋に女房のお吉がいる、という設定。
サゲは祝いの肴に八百膳の弁当があると若い衆が言うと、団十郎が、「いやいや、もう仲蔵の前で、弁当は喰えねぇや」。
師匠円菊のこの噺を知らないのでなんとも言えないが、自分の工夫もあるのかもしれない。
ちなみに、私の持っている音源では、志ん朝は正蔵版に近く、たとえば蕎麦屋の場面、浪人は名乗る。そして、浪人は仲蔵を役者と察するが堺屋とは知らない。
志ん生は、どちらの名も明かさない。
黒羽二重のひもときや茶献上の帯、蝋色の艶消しの大小落とし差し、などの浪人の姿の形容もリズミカルで、聴いていて心地よい。
それぞれの人物造形も良く、なかでも仲蔵を慕い、そして元気づける女房おきしが実に良かった。
一門の伝統とも言えるのかもしれないが、この人も女性が上手い。とはいえ、仲蔵の苦悩する姿、師匠や団十郎の貫禄、などそれぞれの登場人物が生き生きと描かれていた。
最初で最後の会に出会った僥倖は、この見事な高座にも恵まれた。
今年のマイベスト十席候補としないわけにはいかない。
久しぶりの落語、池袋、菊丸・・・最初で最後の福治との二人会に行けたのは、まさに僥倖。
さて、次の落語はいつ、どこでやら。
結構近いうちかも^^
