新宿末広亭 10月上席 昼の部 10月9日
2016年 10月 10日
雨でテニスが休みとなった。
これは、天が、三代目文蔵襲名披露興行中の「末広亭に行け」と言っていると感じ(?)、出かけた。
どうせ行くなら、入れ替えなしの末広亭だから、昼夜居続けにしようと思った次第。
早めの昼食の後に電車と地下鉄で新宿三丁目へ。コンビニで夕食やお茶などを仕入れて、末広亭に入ったのが一時少し前で、アサダ二世の途中だった。
二階も開けての大入り。
後ろの壁に沿って並ぶ、お祝いの献花。
舞台上手の献花はビクターエンタティンメントから、下手はTBSラジオからだった。
なんとか好みの下手桟敷に狭いなからも一人分の空間を見つけて着席。
初めから聴くことのできた高座や色物について、感想などを記す。良かったと思う高座に色を付ける。
柳家一琴『のっぺらぼう』 (14分 *13:02~)
さん福の代演。4月8日の、同じ末広亭居続けの夜の部『目薬』以来。
この噺は八代目文楽門下で『水道のゴム屋』なども作った六代目三升家小勝の作品と言われている。落語芸術協会では、五代目柳好でよく聴く。落語協会で聴くのは、入船亭扇好以来か。
4月の『目薬』でも感じたことだが、こういった小品でも、この人はしっかりした高座に仕上げる力量があると思う。流石、小三治一門、と思う。
三遊亭歌武蔵『相撲漫談』 (14分)
いつものネタで、満員の客席を爆笑させる。それ自体は、寄席の芸として優れたものに違いはない。しかし、私は、この人に昔の相撲のネタは、もはや必要ないと思っている。「只今の勝負~」という冒頭の科白も好きではない。
でも、よく考えると、相撲界と落語界という常人にはうかがい知れない二つの世界を経験している貴重な人なのだ。歌武蔵が、その稀有な経験を強みとして生かすことを批判することは出来ないかもしれないなぁ。とはいえ、個人的には、この人の漫談ではなく、一席のネタを期待している。
ロケット団 漫才 (13分)
桟敷の私の近くにいた女性二人連れのお客さんが、キャッキャキャッキャと笑っていた。
定番の四字熟語、「先の見通しがつかないこと」が「五里霧中」ではなく「国民年金」というあたりに、この人たちの持つエスプリが効いている。久しぶりだが、やはりいいねぇ。
桃月庵白酒『茗荷宿』 (14分)
寄席の十八番をいくつも自分のものにしているなぁ、という印象。これまた、近くにいたお客様が大いに笑っていた。この日の昼の部は、落語初心者と思しき若いお客さんも多く、ネタそのものの可笑しさでも大いに笑いがとれていたが、そこに、白酒ならではのクスグリもあって、実に楽しい高座。「茗荷の開き」は、不味そうだ^^
柳家さん八『長短』 (15分)
マクラで国民年金から介護保険や国民保険が天引きされることにボヤいていたが、場内は無言で頷くお客さんも少なくなかったように思う。本当に切実な問題だ。
本編は、柳家の十八番をしっかり。また、『小言念仏』かと思っていたので、少し嬉しかった。
林家二楽 紙切り (14分)
(1)桃太郎(ご挨拶代わり)
(2)サザンオールスターズ(江ノ島風景)
(3)初日の出
で下がった。なぜ体を動かすか、という兄弟子正楽のネタをパクっていたが、これは許されるだろう。協会が違う実の兄が小南を襲名する披露目では、ぜひ兄弟共演の興行を期待している。
川柳川柳 漫談(春の甲子園テーマ曲) (15分)
仲入りは御大。春の甲子園のテーマ曲を紹介しながらの漫談で、最後に軍歌でサゲたが、やや声が出にくいのかなぁ。意地悪な紙切りのネタ、ということで「むかで」の名が出ず、客席がお手伝い^^
昭和6年生まれの85歳。その姿を拝めるだけでも、有難い。
桂やまと『豆屋』 (13分)
主任の師匠の席なので、この人がクイツキ。何を演るかと思っていたら、この噺。
元は上方落語で、三代目小さんが上方から移入したネタの一つだが、あまり聴くことはない。
当代文治の高座をテレビの「落語研究会」で聴いたことはあるが、あの迫力には及ばないものの、なかなか楽しい高座だった。四年前の「さがみはら若手落語家選手権」で才紫時代に優勝している実力者。丁寧で品を感じさせる若手は、そう多くはないので、今後、いっそうの飛躍を期待したい。
とんぼ・まさみ 漫才 (14分)
以前は、結構小言を書いた。この日は、そう悪くなかったが、無駄な間や、むやみに相方をぶつ芸は、好みとは言えない。
林家鉄平『紀州』 (14分)
ごった煮の高座。聴く側を混乱させるような構成も良くないし、自虐的なクスグリも、感心しない。
春風亭正朝『六尺棒』 (16分)
あらためて、この人の持ち味を再認識させる好高座。
父親と息子との対比の演じ方が見事だし、立場が逆転してからの科白の楽しさで、会場からも笑いを誘う。これこそ、寄席の芸、と思わせた。
あの事件さえなければ、と思わせる。本当は、中堅落語家のトップランナーとして走っているべき人だ。そろそろ、時間という妙薬のご利益を聴く側も甘受する時期になったのだろうか。
上手さにおいては、当代の東京落語界では五本の指に入るのではなかろうか。こういう寄席の高座でこそ、その実力が分かる。今年を振り返る際に、寄席の逸品賞として候補にしたい高座。
柳家小菊 粋曲 (7分)
トリの時間を作るための短い時間でも、しっかりと彩りをそえた。
桂才賀『カラオケ刑務所』&踊り「函館の女」 (27分 *~16:34)
二年前の新作落語台本賞の準優秀作だった噺とのこと。
マクラで説明したように、柳昇の『カラオケ病院』への「パクリ」ではなく、「オマージュ」と作者は台本の冒頭に記しているらしい。実は、この「オマージュ」がサゲにつながる。
なるほど、周囲が、このネタは才賀さんしかいない、と言うはずである。
33年前に少年院を慰問して以来、少年院や刑務所の慰問を続け、なんと11月3日には府中刑務所で一日所長の栄誉をになう人だからね。
ネタの内容は、刑務所のカラオケ大会で、各工場代表が、「罪名」にちなんだ歌を披露するという爆笑もの。「ストーカー」で捕まった代表の曲が『ついてくるかい』など。
会場は爆笑の渦。加えて、一席の後には『函館の女』のアテブリで「篠原流」なる流派の踊りを披露。
これは、なんとも馬鹿馬鹿しくて笑った。
会場、笑いのうちに、昼の部がハネた。
多くのお客さんが退場して行くが、結構、居続けの方もいたようだ。
才賀が、椅子に座っての高座にも出合っているので、落語も踊りも元気一杯の姿を見て、安心した。
夜の部に備えて、夕食の寿司をパクついた。
夜の部は、別途書きたい。ここまで、入場から、ほぼ3時間半余り。
さて、夜は三代目橘家文蔵襲名披露興行。
あの、文蔵の見事な高座まで、まだ先は長い。
新文蔵は料理が上手だそうですが、落語も噺をどう調理して卓上に供するかが腕の見せ所。
私は『手紙無筆』を聴くことが多かったんですが、レポートを楽しみにしております。
今日は幸兵衛さんの後塵を拝して末広亭に行く予定です。