「POPEYE」の特集「ジャズと落語」を読んで(1)
2016年 09月 10日
かつて、「落語とジャズ」というカテゴリでは、二つの記事を書いた。
一つは、平岡正明が、遺作とも言える彼の著書『毒血と薔薇-コルトレーンに捧ぐ』で、コルトレーンの『至上の愛』から『アセンション』への変遷を、桂枝雀の『地獄八景亡者戯』から『茶漬えんま』への変遷と重ね合わせて書いている記事を紹介した、2012年7月の記事。あんな発想をするのは、平岡しかいない。
2012年7月16日のブログ
もう一つは、ジャズで調べたいことがあると度々訪問するNelsonさんのサイトにある、『中村仲蔵』をめぐる記事を元にしたもの。八代目正蔵と志の輔のこの噺について、ジャズの「イン」「アウト」という言葉を使って説いた見事な記事をご紹介した。
2014年7月9日のブログ
私は、落語もジャズも大好きだ。
また、ジャズプレーヤーで落語が好きという方も多いし、落語家でジャズが好きという方も少なくない。
落語とジャズ・・・なぜ、それぞれの演じ手(アーティスト)が相手の芸能(芸術-アート-?)を好きになるのか・・・・・・。
両者にはいくつか共通点があると思う。
一つは、まさにNelsonさんが指摘された「イン」と「アウト」が両方にあることだ。詳しくは、2014年7月の記事をご確認いただきたい。
それと似てはいるが、、アドリブ、あるいは、即興性ということも、共通点として挙げたい。
前衛的と言われるジャズはもちろん、モダン・ジャズの世界でも、プレーヤーの即興性が発揮される。
落語家がその日の客席の状況などに合わせてネタを選んだり、とっさに新たなクスグリを挟んだりという即興性と、相通じるものがある。
また、ジャズにおいては、スタンダード・ナンバーであっても、人によってその曲の演奏は異なるし、それが当然のように聴く側からも求められる傾向が強い。
これまた、落語も同じネタでも噺家さんによって違うのと似ている。
加えて、「間」が大事ということもあるかな。
落語では当然のことだが、ジャズも、アフタービートと言う言葉があるように、リズムに「間」が入る。そうしたリズムとしての間も大事だし、プレーヤー同士の演奏の切り替えのタイミングなどにおいても、間の取り方は重要な要素になると言える。あえて間をとらずに音をかぶせることなども含め、ジャズでも、間は大事。
他に、どちらも趣味にするには「敷居が高い」という印象があるかもしれない。
それは、この二つに共通する、愛好家の姿が要因の一つなのだろう。
落語もジャズも、自分の好みへの執着が強く、また「通」ぶっている、と知らない方には思われてしまうようなファンが多い、ということ。
たとえば私なら、「マイルスは1950年代半ばまでに限る、中でもマラソン・セッションが最高」、なんて思っている。
「モード奏法、『Kind Of Blue』だって・・・それがどうしたの、So What?」などと、ついジャズ・ファンにしか通じない駄洒落を言ってしまう。
あくまで一つの例だが、誰の、どんな時期の、これが好き、とか、あの時代のはダメ、などと好悪がはっきりしているジャズ・ファンは多いと思う。
では、落語はどうかと言うと、これまた同じように、好悪は結構はっきりして、おいそれとは自分の主張を譲らない人が多いと思う。
あえて、私の落語の例は、書かない。
最近は、年齢のせいか、できるだけ敵を作らないようにしている^^
私は、落語とジャズの共通点として、もう一つ“反体制的”ということかとは思っている。
それは、平岡正明の影響も小さくないだろう。
しかし、現在の落語やジャズの世界には、当てはまらないかもしれないなぁ。
そんな「ジャズと落語」を特集した雑誌がある。

「POPEYE」だ。
同誌のサイトから、特集の目次を引用。
「POPEYE」サイトの該当ページ
特集
ジャズと落語。
028
人生とやらをちょっぴりわかった気にさせてくれるもの。
――立川志の輔
032
ダメなもの、ヘンなことほど惹かれてしまう。
――山下洋輔
036
ジャズと落語の街に行こう。
1. 新宿 2. 神保町 3. 渋谷 4. 浅草 5. 野毛
046
僕の好きなジャズと落語。
060
若きジャズメンと落語家に会ってきた。
――黒田卓也、春風亭一之輔
064
JJとAAの勉強。
066
噺家の落語論イッキ読み。
070
僕はこんなジャズと噺を聴いてきた。
――ピーター・バラカン、東出昌大
074
東京のジャズ喫茶、ときどきバー。
078
ジャズをもっと知りたくて、岩手のレジェンドを訪ねた。
084
JAZZで迷ったらDISC SHOP POPEYEヘ。
088
ポパイの落語プレイリスト。
090
今さら聞いちゃう、キホンのキ。
098
JAZZ & RAKUGO TIMES
JAZZ COLUMN
057
はじめてのジャズ――清水ミチコ
068
街とジャズ――野村訓市
082
日本ジャズ偉人伝――柳樂光隆
096
映画の中のジャズとエロス――三宅 唱
RAKUGO COLUMN
058
はじめての落語――中島 歩
069
噺家異端伝――九龍ジョー
083
落語家のレアグルーブ――横山 剣
097
妄想『笑点』論――せきしろ
何十年ぶりかで、特集に惹かれて買ってしまったが、正解。
ジャズも落語も好きな私としては、とにかく飽きない特集だ。
ただ、この本は大きくて重いので、持ち歩きできにくいのが難点^^
比べちゃ可哀想だが、「すばる」とは了見が違う^^
この中から、落語家が語るジャズ、について今回はご紹介。
まず、掲載順に、立川志の輔から。
“出合い”についての志の輔の思いについて。
何事にもきっかけというのはあるワケだが、師匠は落語とどういうふうに出会うのがいいって考えているんだろうか。同感である。
「僕が思うのは、聴く耳がないときに出会ってもダメだっていうこと。いくら“落語はいいよ!”って言われてもピンとこなくてそのままになっちゃったケースはたくさんある。それは、そのとき聴いた落語がよくなかったってことより、出合うときじゃなかったてことのほうが大きいんじゃないかな
(中 略)
これはジャズにも言えるんだけど、落語って聴く側の体調や精神状態やそれまでの人生経験で印象がすごく変わるんですよ」
出合いのタイミングって、大事なのは、落語もジャズも同じだと、私も思う。
では、志の輔のジャズの出合いは、どうだっだのか。
初めて買ったジャズのLPの思い出など。
僕は、大学の頃デオダートやリー・リトナーという、フュージョン系からジャズに入ったんだけど、しばらくするとフュージョンじゃ物足りなくなってきた。それで秋葉原の「石丸電気」のジャズコーナーに行ってみたら、ジャズ専門の売り上げ1位がジョン・コルトレーンの「至上の愛」になってて、ジャケットを見たらまあかっこいい。“僕が聴かなきゃいけないのはこれだ”って、当時の仕送りと比べて地獄のように高いLPを買ったんだけど、針を落としたときの悲劇たるやもう!サックスがずーっと唸ってるだけにしか聞こえない。この話は、結構、共感できる。
時は流れ、行きつけの下北沢の「レディ・ジェーン」っていうジャズバーで飲んでると、たゆたうような低音のメロディが聞こえてきた。“いいなあ、何って曲?”って聞いたら、バーのお兄ちゃんが“コルトレーンの「至上の愛」です”と。
私も、社会人になった一年目、あるジャズ喫茶(バー、かな)で一年間にバーボンを50本キープする、という馬鹿な生活をしていたが、その時に初めて聴いた「至上の愛」は、まったく良いと思わなかった。
「コルトレーンは、どこへ行ってしまうのか・・・・・・」などと思ったものだ。
そして、最近になって、あらためて聴いてみると、そんなに悪くは思わなくなってきた。
とはいえ、“黄金のカルテット”の他の三人が楽しく演奏していたのか、は疑問。
だから、コルトレーンのアルバムで、私のお気に入りには、入らない。
私は、「Blue Train」「Ballads」や「My Favourite Things」そして「Duke Ellington & John Coltrane」などが好きだなぁ。
さて、別の噺家さんについて。
ラジオでClifford Brownを聴いてジャズにはまってしまった私にとって、嬉しかったのは、「僕の好きなジャズと落語」の中の、この人のコメント。
桃月庵白酒
二ツ目になって、時間に余裕ができて、そうだ!ジャズでも聴いてみるかと思ったんです。その頃はレコード店で名盤を買い漁る余裕はなかったので、図書館でCDを借りてきてはしたすら聴いての繰り返し。少しずつジャズのことがわかるようになってきたときに、煙が立ち込めるような路地裏に、パーッと後光がさすようなトランペットに出会ったんです。それがクリフォード・ブラウンでした。アルバムは「The Biginning & The End」。事故で亡くなる4時間前に録られた音源をまもめたもので、地元のアマチュア・バンドとセッションした事実上のラスト音では、“ブラウニー”のすさまじいトラペットが、一緒に演奏するアマッチュアジャズメンらを鼓舞し、素晴らしい曲へと仕上げているんです。こんなにもスゴいトランペッターがいるなんて!次の日にはクリフォード・ブラウンがリリースした全アルバムを買いに行きました。なんとも、嬉しいではないか、あの白酒が“ブラウニー”とは!
実は、亡くなる直前、と伝えられていたセッションは、その後、一年前の音源だったことが判明しているのだが、そんなことは関係なく、故郷のアマチュアのメンバーと熱のこもったブラウニーの演奏が感動的なのは、変わらない。
この後、ある代表的アルバムのブラウンの作品のことにふれ、次のように白酒は言う。
ブラウニーのアドリブ、落語のマクラで言うところのちょっとした遊びがいいんです。やりすぎると曲が壊れてしまうし、やらんあいとつまらない。さじ加減にセンスが問われるんですが、彼のアドリブはあと2、3曲作れるんじゃないかと思ってしまうほど素敵。あぁ、ジャズって格好いいなぁと思えるんですよ。
白酒が、寄席に来る前に、携帯音楽プレーヤーでクリフォード・ブラウンを聴いている光景を思い浮かべると、何とも嬉しくなる。
さて、彼が語った、ブラウニーの曲は、「Study In Brown」の中の「George's Dilemma」である。
この曲をお聴きいただいて、この第一回目はお開き。
もし、あまり感じるものがなかったとしても、それは、出合いのタイミングの問題。
しばらく経ってから、他のブラウニーのアルバムなどをお聴きいただきたい。
ジャズへの敷居の高さを感じる方には、オーケストラとの共演で馴染み深いジャズ・スタンダードが詰まった「With Strings」をお奨めする。
次回は、春風亭一之輔へのインタビュー記事や、「ジャズと落語の街」の楽しい地図のことなども含め、ご紹介したい。
アルバム名「Study In Brown」
収録曲
1."Cherokee" (Ray Noble) - 5:44
2."Jacqui" (Richie Powell) - 5:11
3."Swingin'" (Clifford Brown) - 2:52
4."Lands End" (Harold Land) - 4:57
5."George's Dilemma" (Brown) - 5:36
6."Sandu" (Brown) - 4:57
7."Gerkin for Perkin" (Brown) - 2:56
8."If I Love Again" (Jack Murray and Ben Oakland) - 3:24
9."Take the 'A' Train" (Billy Strayhorn) - 4:16
パーソネル(演奏者)
Clifford Brown - trumpet
Harold Land - tenor saxophone
Richie Powell - piano
George Morrow - double bass
Max Roach - drums
1955年発売
収録:1955年2月23日-25日
場所:ニューヨーク市
発売レーベル:EmArcy
横山剣のインタビューも載っているのでたのしみです。
あら、責任重大^^
そうか、もう次の号が出ているんですね。
少し「すばる」に時間をかけすぎたか。
横山剣さんの記事は、ある落語家さんの“レア”なLPの話。
この特集記事の中では異色です。
ジャズと落語、やはり相性はいいですねぇ。
