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噺の話

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「権八をきめる」や、柳がなかった柳橋などー池内紀著『はなしの名人-東京落語地誌』より。

 古書店通いが好きだ。
 見ているだけでも楽しい。

 今週火曜は、手術をした耳鼻科で外来診察のため午後から休みをとった。
 診察の結果は極めて順調で、次は五週間後でいいか、と言いながらも主治医の先生が手帳をめくるとその週は都合が悪く、四週間後に行くことになった。

 もっと混むかと思っていたが、たった15分待ちという異例のスピードで診察室に入ることができたので、時間が出来た。
 月曜と木曜の午前、そして火曜の午後が主治医の先生の診察日。
 これまでの経験で午前中は結構待たされるのだが・・・たまたまかな。
 そうか、花粉症の最盛期(?)が過ぎたからか。

 いずれにしても、楽しみな神保町散策である。
 ほぼ二時間ほど、あちらの店や、こちらの店。
 店に入ったり、外のワゴンを覗いたり。
 数軒のぞいたのだが、結局一冊も買わなかった。
 喉が渇いた。
 最近は、お茶が飲める古本屋さんが増え、そういうお店で以前本を買った際にもらったクーポンでお茶を飲んだ。
 アイスコーヒーは、思ったより濃い目で結構。「ショパン」ほどではないけどね。
 棚から数冊取り出して読みながらのコーヒータイムだったが、結局そこでも一冊も購入せず帰宅。

 本の出会いにも、“縁”とでも言うべきものがある。
 なかなか、縁を感じることがない時もあれば、店に入って、20~30分のうちに、複数の本との運命の出会い(?)を感じ、二冊、三冊と買うこともある。

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池内紀著『はなしの名人-東京落語地誌』(角川選書)

 池内紀(おさむ)さんの『はなしの名人-東京落語地誌』は、後者の方で、三冊ほど購入した中の一冊。
 しばらくは“積ん読”の状態だったが、最近になって読了。

 平成11(1999)年の8月初版発行で、内容は主に「野生時代」、一部「東京人」に掲載されたものだ。

 入手したのは、先月初旬の診察の日だったので、かれこれ一か月以上は、寝かせていたことになる。やはり、寝かせておくと、味わいが増す(酒じゃあるまいし^^)。

 病院が神田淡路町なので、神保町はすぐ近くなのだ。
 だから、通院は、結構楽しみだったりする。

 池内さんはドイツ文学者だが、落語などの芸能にも造詣は深い。

 また、はかま満緒さんが亡くなる前日まで収録していたという、NHK FMで毎月最終日曜に放送されていた「日曜喫茶室」の“常連客”としてご存知の方は少なくないのではなかろうか。

 実は、今年になってから、ある方のご支援をいただき収録したラジオを聴くようになった。
 いまや、ラジオがパソコンでも聴くことができ、それを録音して後から聴くこともできるということを、恥ずかしながら知らなかった^^

 テニスのため放送時間には聴けない「日曜喫茶室」の録音を聴き始めたのが、はかまさんご存命の時の最後の回だった。。

 こんな良い番組があったのか、と思っていたのだが・・・・・・。

 今は、過去の名作を放送しているが、これもなかなか楽しい。
 先月の放送で、私は近藤正臣という人を大いに見なおした。
 
 さて、そういうわけで、池内さんの声には親しみを感じていたので、この本を古書店で発見した時、「あっ、日曜喫茶室の」と思い、状態も良く値段も手ごろ、迷わず購入した。

 落語の舞台にちなむ本は、数多く出版されている。
 この本のように実際にその土地を歩いた上で書かれた本も、少なくない。
 
 本書は、落語家や落語評論を本業としている人ではない、かつ引き出しが多くて深い筆者ならではの魅力がある。

 たとえば、これから“旬”を迎える噺の『船徳』には、文楽の高座の引用を織り交ぜながら、次のようなことが書かれている。

「道楽とは道を楽しむと書くそうですが、なかには道に落ちるというのもずいぶん多いようで・・・・・・」
 ややカン高い声で、うたいあげるように話しだした。飲む打つ買うの三道楽のなかでも、若いうちは、つい三つ目にいく。これがたび重なると、親がかりならまず勘当ということになる。
「仕事がないから出入りの船宿の二階に権八(ごんぱち)ということになります」
 「権八」とは、居候のこと。芝居で白井権八が蟠随院長兵衛のところに厄介になるのにちなむ。人に問われると、ちょっと気どって「権八をきめている」などといった。
 柳橋は、もともとはその名のとおり橋の名前だった。橋ができたのは元禄十一年(1698)、神田川が隅田川に注ぐ河口にある。柳橋とはいえ柳はなかったことは、永井荷風の『日和下駄』に「柳橋に柳なきは既に柳北先生柳橋新誌に橋以レ柳為レ名而不レ植一株之柳とある」とあることからもわかる。それでもすぐ下手の両国橋に近い溝ぎわに小橋があって、元柳橋といい、そこに一本の古柳があったらしい。小林清親(きよちか)が『東京名所図』に描いているが、朝霧に川面がけむっていて、岸辺に幹の太い老木が見える。その下に着流しの男が一人、手拭いを肩にのせてボンヤリと水の流れをながめている。朝帰りといったところかもしれない。大川の水が威勢よく盛りあがり、その上げ潮にあおられるようにして猪牙舟がのぼっていく。櫓を漕ぐ音、カモメの鳴き声。荷風の東京散策記『日和下駄』が出たのは大正四年(1915)、そこに彼は書いている。
「かの柳はいつの頃枯れ朽ちたのであろう。今は河岸の様子も変り小流も埋立てられてしまったので元柳橋も尋ねにくい」
 ここから吉原通いの猪牙舟が出る。それで船宿が多かった。


 どうです、なかなか味わい深いと思いませんか?

 白井権八と蟠随院長兵衛、「鈴ヶ森」のあの有名な科白「お若えの、お待ちなせえ」を思い出すねぇ。

 しかし、本名の平井権八と長兵衛は、出会うのには少し時代がずれていて、あくまでお芝居の世界だけのようである。

 柳橋に関して荷風が登場すると、『日和下駄』をどうしても読みたくなるのが、私の性分。

 うれしいことに、「青空文庫」で読むことができる。
青空文庫の該当ページ

 紹介した“柳北先生”(成島柳北)の漢文の読みが、次のような内容だと、おかげで分かった。

  橋以レ柳為レ名而不レ植一株之柳
  橋は柳をもって名と為すに、一株の柳も植えず

 成島柳北の作品もいくつかは青空文庫に存在するが、残念ながら『柳島新誌』は、現時点では掲載されていない。
 ちなみに、成島柳北という人は・・・と始めると、どんどん本記事から離れて行くから、本書のことに戻り、巻末に一覧が掲載されているネタ十五席と初出情報をご紹介。

  野ざらし     「東京人」1994年9月
  品川心中     「野生時代」1995年6月
  船徳       「野生時代」1995年7月
  百川       「野生時代」1995年8月
  悋気の火の玉   「東京人」1995年4月
  文ちがい     「野生時代」1995年9月
  佃祭り      「野生時代」1995年10月
  富久       「野生時代」1995年11月
  藁人形      「野生時代」1996年1月
  芝浜       「野生時代」1995年12月
  王子の狐     「野生時代」1996年2月
  小言幸兵衛    「野生時代」1996年3月
  明烏       「野生時代」1996年4月
  真景累ケ淵    「東京人」1999年8月
  怪談乳房榎     書き下ろし
  
 
 なかなか、興味深い選択ではなかろうか。

 今後も、この本から紹介したい内容がある。

 まずは、「序」のお開き。
Commented by saheizi-inokori at 2016-06-16 22:14
順調以上の回復、うれしいですね。
「日和下駄」、ゆっくりゆっくり読んでます。
Commented by YOO at 2016-06-16 23:23 x
神保町、私も大好きです。
大学生の頃、学校をさぼってブラブラしてました。
「サボウル」とか「ラドリオ」に入り浸って
買って来た本を読んでいました。
最近は「ランチョン」でビールばかりですが・・・。
Commented by kogotokoubei at 2016-06-17 08:55
>佐平次さんへ

ありがとうございます。
おかげさまで、順調です。
「日和下駄」、いいですよねぇ。
Commented by kogotokoubei at 2016-06-17 08:58
>YOOさんへ

神保町は、学生時代の思い出の場所なんですね。
古書店に限らず、なかなか結構なお店もあるようですね。
以前、居残り会で、「舟を編む」で撮影に使われた居酒屋に行ったことがあります。
私は、本屋さんの喫茶か、たまに、ジャズ喫茶に行きます。
少し歩けば、神田淡路町、須田町。
その全体で、良い街だなぁ、と思います。
Commented by ふんわり at 2016-06-23 19:40 x
いつも拝見していますが、思い切って、初コメントです。
落語好き(超初心者です)で、
長年の「日曜喫茶室」ファンとしては、「はなしの名人」は、魅力的、
早速、入手しました。
貴重な情報に感謝です。どうもありがとうございます。
はかまさんが亡くなる前日に収録した「最後の日曜喫茶室」について
記載しています。よろしければご覧ください。
http://blog.goo.ne.jp/funwari-time/s/%E6%97%A5%E6%9B%9C%E5%96%AB%E8%8C%B6%E5%AE%A4

いつも、はっとするような落語記事、楽しみにしています。
Commented by kogotokoubei at 2016-06-23 21:20
>ふんわりさんへ

コメント、誠にありがとうございます。

「最後の日曜喫茶室」の記事を拝見しました。
ふんわりさんの思いが伝わてました。

私は、“昨日今日の”「日曜喫茶室」ファンなので、もっと早く知るんだった、と反省しきりです。

拝見して、たぶん、以前立ち寄らせていただいたことがあると思います。
実は、私の連れ合いも、以前はピアニストとして仕事をしていたんですよ。
しかし、何度か落語会に連れて行きましたが、どうも、落語とは相性が良くないようで^^

人それぞれ、ですね。

今後も、気軽にお立ち寄りいただき、コメントをいただければ幸いです。
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by kogotokoubei | 2016-06-16 21:52 | 落語の本 | Comments(6)

落語のことを中心に、ときたま小言や独り言。


by 小言幸兵衛